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[「政策過程モデルの検討」目次]
注
- 昭和60年〜62年度文部省科学研究費補助金〔総合研究A〕による「政治エリートの役割意識と政策過程の研究(課題番号60301077)」と題する共同研究によるもの。調査は1985年年末より86年始めにかけて行われ、有効サンプルは251であった。詳しくは、同研究の研究成果報告書を見られたい。
- 政治過程論において権力に注目して見るか政策に注目して見るかという対比を行い、政策過程というアプローチは政治過程論の広い世界の中で後者に属しているものである、という捉え方については、山川1986、 269頁以下、大嶽1990、 204頁、参照。
- ラニー編の書籍は、社会科学研究評議会(The Social Science Research Council: SSRC )の統治過程および法過程に関する委員会(Committee on Governmental and Legal Processes: CGLP )の報告書を中心に編まれたものである。特に委員長であったラニーがローウィの権力の競技場論(イシュー・エリア・アプローチ、アリーナ・アプローチ)を従来の論理を逆転させたものとして評価した。ただし、この書物の中にもソールズベリが寄せた論稿のように政策規定説に立たず過程のパターン抽出により部分的過程の分類を行っているものもある(Salisbury1968)。SSRCのCGLPは、政治行動委員会(Committee on Political Behavior: CPB)に代わって六四年に設けられたもので、ともに政治学会に大きな影響を与えた(山川1982、52頁)。
- こうしてローウィの議論は「政策規定説」を強く押し出すことで批判を乗り切っているのだが、このことは初出の段階の議論が持っていた柔軟性を失う結果になったようにも思える。初出の頃の議論は、グリーンストーンが指摘するように(Greenstone1975, p.280)、政策出力の分割可能性により三つの政策過程の特徴を抽出するというところに留まっていたと思われる(佐藤1987(一)、54-5頁)。
- ローウィのいわゆる「第二共和制」や「恒久的管財体制」という体制に関する議論は、このアリーナ論をもとに連邦政府の機能が変遷していく中に位置付けられている(Lowi1979)。
- 研究戦略として考えれば、いきなり政策過程配置の構図を見通す立論よりも、政治過程から構造を組み上げるための部品を発見していくような手法を取るべきだろう。大嶽秀夫によるローウィのアリーナ論評価もこの点を指摘している(大嶽1990、25頁)。山口二郎は、後に紹介するように厳密に政策規定説を踏襲したモデルを提示しているが、ローウィのような一方的決定論(determinism )についてはやはり問題を感じているようである(山口二郎1987、29頁)。
- ここで「粗描(ママ)」として提示された部分的政治過程は、「政治政策型、資本ないし経営連関型、階級闘争型、圧力団体型、福祉連関型、農業連関型」の六種である。これらは一見してわかるように、政策の内容を想定してのものもあれば、過程の特徴を抽出しているものもある。
- フローマンの各基準の訳語については、山口二郎1987、110頁を参考にした。
- そうだとするなら、いわゆる非決定や前決定過程についての議論が政治過程論に付加した視点をそう重視しない、ということであろう。これらの議論は、単純な多元的集団過程論では見えなかった、政治過程を規定している構造や、政治過程の表層に現われないシステム維持のための政策領域に焦点をあてていると言える。笠京子「政策決定過程における『前決定』概念」、『法学論叢』一二三巻四号、一二四巻一号、一九八八年、参照。
- 過程のパターン抽出型のモデルが、必ずしも部分的過程を配列する基準を示していないというわけではない。たとえば、ソールズベリのモデルでは要求パターンと決定システムの分散の程度で四つの政治過程を析出しているし、中野実のモデルではシステムの性格が動員・開放的か限定的、閉鎖的か、システム内参加者の関係が協調的か競争的かの二軸を立て直交させて、二次元平面の上に六つの政治過程類型、および夫々の下位類型を位置付けている(Salisbury1968, p.169、Salisbury & Heinz1970, pp.48-9、中野1992、85頁)。中野は "Policy causes pollitics." を「政策が政治を起こす」と訳している。この命題をローウィ的な政策規定説にいきなり結び付けるのではなく、政治過程をかなりミクロなレヴェルに分け入ってその種差的な過程パターンを抽出する際のキーワードとしている。その意味ではこの、もとはといえばシャットシュナイダーの命題(Schattschneider, E. E., Politics, Pressures and Tariff, 1935, p.288 )の本来的な意味に最も近い使い方をしている、と言える。
- SPSSシステムファイルとして保存されたデータを再加工可能な形に変換するに当たっては、神戸大学の久米郁男助教授を通じて三宅一郎教授のお世話になった。御両所にお礼を申し上げねばならない。分析に当たっては、そのシーケンシャルファイルを立命館大学計算機センターに転送し所要の加工を行った後、クロス分析は大型機のSASで、数量化理論III類に関しては下記の書物に掲載されたプログラムを用いてパソコン上で行った。田中豊、垂水共之、脇本和昌編『パソコン統計解析ハンドブック II 多変量解析編』(共立出版・一九八四年)。
- 本稿は93年7月の政権交代前に執筆を進めていたため、一党優位体制を前提に叙述しているところがある。官僚を使いながら政策を作り出していた保守党の政治家の力が与野党に分散してしまった現在(94年1月の執筆時点)、再び官僚の相対的影響力が増大しているという観察もある。