佐藤満HomePage] [「福祉国家の構造と政治体制」目次

むすびにかえて


 本稿では福祉国家の形成に親和的な政治構造、政治体制について論じてきた代表的な論稿を取り上げ、この問題をめぐるいくつかの論点を拾い上げてきた。特に一貫して注目したのは、各論者が、何をどのようにして変数として定義し議論しているかという点である。
 エスピン−アンデルセンまでの論者については、この点はすこぶる明瞭である。説明されるべき従属変数は福祉国家であり、その差異を説明すべき独立変数が、社会経済的なもの、政党システム、政治的階級とその連合戦略ということになっていた。
 最後に挙げたステイティストの議論においては、従属変数はより具体的な政策出力である。そして、彼等の議論の特徴は従来の論者が扱わなかった変数を独立変数に加えただけでなく、従来の論者が分析に動員していたあらゆる変数について目配りをするということでもあった。現実が複雑なものであり、学問的営為が複雑な現実を単純化して語ってみせる切れ味の鋭さを競うものならば、各種の独立変数を総動員し個々の決定の事例について語りはしても一般的普遍的な理論を語りえていないかに見えるステイティストの議論は鋭さを欠くかもしれない。しかし、複雑な現実をあえて複雑なまま語るために、見落とされてきた変数群を再導入し、よりリアリティに接近しようとするものとしてこれは評価されるべきであろう。
 もとより、この両者は分析のレベルを異にしていることは言うまでもない。抽象的なデータ操作による体制の比較と徹底的に事例を追いもとめてさまざまのアクターの動きを彼等がおかれた文脈の中で語っていく研究は、双方相俟って福祉国家の形成に親和的な政治構造、政治体制を明らかにしていくだろう。
 ところで、このような簡単なレヴィウエッセイからだけでも、福祉国家の形成に親和的な政治的要素としてさまざまな論者が共通して触れている独立変数があることを知ることができる。ヘクロウの言うようにどの変数についても排他的に考える必要がないのならば、彼等の挙げた要素はすべて福祉国家形成に何らかの影響を与えているものと捉えてよいだろう。しかし、この論稿の最初に位置付けたウィレンスキーの研究にすでにその多くは語られている、ということも知ることができる。政治変数が有効か無効かの論争は多くの成果を産んだ。その意味では大いに意義深い論争であったと考えることができるが、論争それ自体の意味についてはいささか疑問を感じないこともない。