研究内容の概略

以下の図は,近年私が好んで使っている図です.老若男女に関わらず,全ての人間は資源に依存して生活しています.一般的には高度な社会的生活を行えば行うほど,その依存量は高くなると考えられます.

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さて,資源という言葉は多くの意味を含んでいますが,我々は主に鉱物資源とエネルギー資源を興味の対象としています.私の考えでは,これらの資源は「重さ」で評価を行うことが可能と考えています.その意味でよく知られており,またよく使われる「重さ」は二酸化炭素排出量でしょう.しかし,当研究室ではそれに加え,資源の採掘活動の「重さ」にも注目しています.品位の低い鉱石の採掘,あるいはプリミティブな技術を用いた製錬,リサイクルを有効活用しない材料生産は,採掘活動に関する「重さ」を大きく増大させる可能性があります.その重さが増えすぎると,資源採取に対するインパクトが増加するだけでなく,生物多様性への影響,人間健康への影響,紛争といった諸問題の引き金となり得ます.

当研究室では,これらの「重さ」を減らすべく,材料科学と環境工学に関する知見を活かした自然科学的アプローチに立脚し,産業エコロジーや環境システム工学といったライフサイクル思考を援用しながら,「ハード(自然科学)とソフト(社会科学)の融合」という学際領域の発展と社会への実装を目的として,研究を進めています.

当研究室は立命館大学理工学部機械工学科に属しており,上述の社会科学的な研究は対象外のように思われるかもしれません.しかし,これらの「重さ」を正しく計測・評価することは,どのプロセスについて技術開発に注力すべきか,開発した技術がどの程度効果があったのかを正しく俯瞰することにつながります.ロジスティクスという言葉があり,これは経済において、原材料調達から生産・販売に至るまでの物流を合理化するための手段の事を意味しています.これは正に機械工学科の範疇です.そしてロジスティクスの各要素は密接に資源にリンクしています.私や私の共同研究者は,この考えに従い「資源ロジスティクス」という言葉を用いていますが,資源ロジスティクスは正に機械工学科の研究対象となるわけです.

より具体的には,当研究室では以下の図に示すように,ものづくり教育も含めた三位一体の教育研究活動を行っていきたいと思っています.個々の領域の詳細は以下に示しています.

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自然科学(材料科学)的研究
自然科学的研究(理系的研究)では,マイクロ波を用いた革新的低環境負荷型製錬,廃棄物同士の組み合わせによるリサイクルプロセス,古代技術の再生と経験知のサイエンス,リン資源の有効利用に関する研究,環境配慮型低融点金属材料の開発と基礎熱物性測定,産業廃液のリサイクル,メカノケミカル反応を援用した高機能材料の開発等に注目しています.
社会科学(産業エコロジー学)的研究
一方,社会科学的研究(文系的研究)では,実際に開発した材料やプロセスのライフサイクル思考を用いた環境影響評価,あるいはマテリアルフロー分析を行っています.特に関与物質総量と呼ばれる指標を通じ,資源採取に関わる採掘活動の見える化に注目しています.また,主に東南アジアに注目し,その効率性と健全性を追求した国際資源循環シナリオの構築に関する研究も行っています.
ものづくり教育
さらに当研究室では「モノづくりの楽しさ」を日本古来の製鉄法「たたら製鉄」を通じて体験してもらいます.これにより,モノづくりの歴史,先人の知恵,現代のモノづくりの叡智を自らの体験を通じて会得できます.たたら製鉄の門戸は研究室外にも開いており,小中高生の皆さんにも依頼に応じて実習を行っています.いずれは炭焼き,得られた鉧(鉄の塊)を使ったナイフ作り等も行いたいと考えています.