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第5回 外部キャスターから見たNHK

 

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第5回 今回の講師は、NHK大阪放送局制作「ぐるっと関西おひるまえ」でキャスターをされているタレントの大平サブローさん。「外部キャスターからみたNHK」をテーマにお話を伺った。

 

<講義概要>
 今回の講義では、民放とNHK双方に出演経験を持つタレントという立場から、公共放送であるNHKの特徴について実体験を踏まえたリアルなお話を聴かせて頂いた。


 大平サブローさんは、現在「ぐるっと関西おひるまえ」でキャスターを務められている。しかし大平さん、NHKのレギュラー出演は実に27年ぶりだそうだ。というのも昔、大平さんとNHKの間に起きた一つのでき事がきっかけだった。当時、大平さんは「太平サブロー・シロー」としてNHK新人コンテストを受賞され、NHKの番組に多く出演されていた。しかし、NHKは公共放送として公平、中立を大切にするため、漫才のネタに多くの制約があった。例えば、「マジックで書く」という台詞も「マジック」は商品名であるため「フェルトペンで書く」と言い換えなくてはならなかった。このような公共性を第一とする公共放送であるが故の制約によって、漫才の本当の意味や笑いが伝えられない。そう考えた大平さんはNHKの番組への出演辞退を申し出たそうだ。


 しかしそれから27年、大平さんはNHKの変化を感じられたそうだ。それはリハーサルをしっかりやる、否定をしない、政治や政党に関する発言はしない、といった決まり事はしっかり維持する一方で、本当の意味合いや笑いを伝えられるような言葉や台詞を発言することができるようになったことだ。


 こうして27年ぶりにキャスターとして復帰された大平さんは「NHKはやっぱすごい!」と言う。それは、「日本全国必ずどこでも見られること」「NHKに出ることで芸人として信用されること」だ。民放は系列局方式のため日本全国同じ番組が流れることは実はそう多くない。しかし、NHKは日本全国どこでも必ず視聴することができるため、NHKに出演すると日本全国に顔を売ることができるそうだ。これは人気商売の芸人にとって一番大切なことだ。さらに、NHKが公共性を大切にし、しっかり決まり事を守る放送を続けていることによって、出演者も同じように信頼してもらえるそうだ。この信頼も芸人として仕事をする上で次の仕事に繋がる大切な要素だ。


 このようにコンプライアンス(法令遵守)がしっかりしていることで本音が言えない、芸の本質が伝えられないと苦労したこともあったが、一方で簡単には得ることのできない信頼や認知を得ることができた。このようなことを踏まえ、NHKは公共性を維持した上で表現の幅を広げることに努め、芸の世界は暴力やセクハラなどをしっかり取り締まることに努めており、より良い放送より良い芸の提供に向けて両者の歩み寄りがなされている。大平さんは最後に「しっかり受信料はらって、僕の番組見てや!」と講義を締められた。

 

<感想>
 今回の講義では、公共放送特有の「表現の制約」に関する話に興味を持った。表現の制約と言えば、まず放送禁止用語が思い浮かぶ。これは「公序良俗」に反する、差別的であったり犯罪を助長したりする言葉を対象として、民放、公共放送問わず発言が自主規制されている表現だ。このように人の気分を害す、悪影響を与えるという理由から不特定多数に向けられた放送で表現が自主規制されることは理解できる。


 しかし、この表現を制約する判断基準が「公共性」となった時、どうやって判断すれば良いのだろうか?NHKは「いつでも、どこでも、誰にでも、確かな情報や豊かな文化を分け隔てなく伝える」ことを目的とし、そのために特定の勢力や団体に左右されない独立性を担保するため、受信料収入を主とした公共放送を行っている。確かに、正確な情報や文化を放送し届けるためには特定の団体との利害関係があってはいけない。しかし、放送が人に情報を届ける、知ってもらうことを目的にしている以上、ときには宣伝につながってしまうことも避けられない。


 今回の講義でNHKが30年前、このような利害関係を生まないために表現を制約していたことを知った。しかし、このように表現を制約することで結局本当に伝えたい内容が伝わらないのでは、最終目的である「いつでも、どこでも、誰にでも、確かな情報や豊かな文化を分け隔てなく伝える」ことが達成できなくなってしまう。


 では、どのように表現を制約し「公共性」を担保するのか?これまでの商品名に関する制約は、画一的な価値判断基準を設けることができ、制約の統一も行いやすい。しかし、「伝えること」に重きを置いた場合、どこまでが表現で、どこからが宣伝なのか、商品名など画一的な基準によって判断できない以上その判断は各番組制作者に委ねられる。結果、以後30年、講義でも述べられてきたようにNHKは、真意を伝えることに重きを置いた表現制約へと変化し、親しみやすい放送を実現してきた。その間、懸念されるような目立った偏向や宣伝などの問題は起きていないように感じる。


 このことからNHKがより良い放送の実現に向けて変化してこられたのは、結局「人」に帰結するのではないかと感じた。というのも、マニュアルによる画一的な制約ができない以上、一人一人の制作者が社会にとって公平、公正で確かな情報、確かな文化を届ける価値判断を行うことでしか実現不可能だからだ。昨年のNHK講座で塚田理事が「NHKの財産は人」とおっしゃっていたことを思い出した。それは、まさにこの「人」こそがNHKの公共性を担保する存在だからかもしれない。

 

記者 立命館大学産業社会学部 島田嶺央

 
 
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