2006年度研究会報告
第17回(2006.11.10)
テーマ | 「悪魔の楽園」への旅 ─あるいは、プトゥマヨ・スキャンダルにおける「真実」の政治学─ |
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報告者 | 崎山 政毅(文学部助教授) |
報告の要旨
崎山氏の研究報告はロジャー・ケイスメント(1864-1916)による、プトゥマヨでの植民地支配についてのレポートをめぐるさまざまな事件に関するものであった。 優れた英国外交官であったケイスメントは、ペルー・プトゥマヨでの残虐な原住民虐殺の実態を調査すべく現地入りし、詳細な報告書を作成する。 そのなかでケイスメントは、インディオの中で虐待されるインディオへの深い同情を示す一方で、インディオの中でもインディオを支配するべく教育されたインディオ(「若衆」)による残虐行為を糾弾する。また、他方で、インディオを支配する黒人(「バルバドス」)には加虐行為を強いられたもう一つの被害者という側面を見ようとする。 ケイスメントの報告は、原住民虐殺を行う現地の支配者を人種主義批判的観点から批判すると同時に、支配者内に道義的なヒエラルヒーを持ち込んでおり、原住民間の関係性についての考察が欠如していることを崎山氏は指摘された。 崎山氏の報告は、植民地支配の暴力における被支配原住民間の関係性の把握の困難や道徳的な両義性をめぐって、反人種主義的なヒューマニズム観だけでは支配の真相を取り逃がしてしまう危険があることを指摘しつつ、植民地支配の暴力の真相を暴く政治学の問題点を提起するものであった。
報告終了後、支配と従属の心理をめぐって、現代における少年兵の問題などをめぐって活発な討論が行われ、充実した研究報告会となった。
加國尚志