2007年度研究会報告
第3回(2007.11.16)
テーマ | 空間概念の前景化:「グローバリズム・リージョナリズム・ローカリズム」に向けての序論 |
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報告者 | 山下 範久(国際関係学部准教授) |
報告の要旨
ウォーラーステインが「19世紀パラダイム」というよぶ近代社会科学は、世界の多様性を発展の遅速として(のみ)捉えるという意味で、差異を時間化するパラダイムであった。世界システム論を含む、1960/70年代の知的異議申立ては、この時間化のパラダイムを空間論的に転回させるものであった。世界の多様性を同時代的な関係のなかで理解しようというパラダイムである。
しかし、この1960/70年代の空間論的転回(空間論的転回1.0)は、世界システム論で言えば中核/周辺構造といったかたちで、関係構造を一元化して捉える傾向があった。それは空間論的転回が全体性の概念を媒介に遂行されたことに応じておこったことでもある。
しかし、その後のグローバリゼーションの展開は、全体性概念の妥当性を低下させ、多様性概念の妥当性をせり上げることになった。これについては三つのことを指摘できる。
第一に、闘争の場の再生産領域へのシフト。生産の場が公共空間での立場を一意に決定するパラダイムは解体し、闘争の掛け金は搾取から排除へ、連帯の根拠は排除から不安へ、正統性調達の様式は議会から会議へとシフトした。
第二に、ライフとイマジネーションの接近・混交。ひとびとのライフは脱文脈化する(空間的制約が低下し、自らの生活様式の歴史的構築性に敏感になり、文化的多様性にますますさらされるようになる)一方、ひとびとのイマジネーションは構造化される(想像力を媒介する技術が高度化し、文化資本の点でヨリ「持たざる」層へ「想像力」が普及し、想像力が商品として流通する回路が構成される)。流動化するライフと回路づけられた想像力とはたがいに接近しつつ境界を曖昧化させ、非一貫的な空間認識のなかにひとびとを置く。
第三に、規律権力から管理権力へのシフト。権力の欲望は、統計的マクロ変数による媒介をもはや必要とせず、個別かつ無媒介的に多様性を多様なまま管理する技術環境が出来しつつある。
以上をふまえて、知的異議申し立てとしての空間論的転回は第二の局面に入りつつある。そこでは、世界の多様性は、単一的な関係性の論理から脱還元されるが、他方で空間認識にかかる負荷は極大化する。〈呈示されている世界〉と〈経験されている世界〉の二重化が加速度的に進み、前者では無限に多元化して〈世界〉は拡散の傾向を示し、後者では無限に細分化して〈世界〉が収縮の傾向を示す。グローバリゼーションがリージョナリズムとローカリズムを同時に刺激している現象は、このような認識論的シフトが関与している。
山下 範久