立命館あの日あの時

<資料保存の現場から>中川小十郎の旧邸 白雲荘の春

  • 2022年06月09日更新
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 立命館創立者中川小十郎の旧邸「白雲荘」は、京都市上京区の閑静な住宅地にあります。周囲には、織田信長の墓所である阿弥陀寺や中川小十郎が長く仕えた西園寺公望ら西園寺家の菩提寺である西園寺(寺名)があります。
白雲荘は立命館が1954(昭和29)年2月に買収し校宅として活用され、1959(昭和34)年「白雲荘」と命名され校友、教職員、学生の福利厚生施設として使われてきました。その白雲荘も2007(平成19)年3月31日に閉室されましたが、現在も立命館が管理しています。

1 白雲荘とは

 「白雲」は創立者中川小十郎の号であり、その号は明治時代の歌人天田愚庵(あまだぐあん)(注1)が詠んだ詩から中川小十郎自身が名付けた号のようです。その号名をとって、この中川小十郎の旧邸は「白雲荘」と名付けられました。白雲荘は1923(大正11)年頃に造られた数寄屋造りの京都では数少ない建造物です。約四百坪の敷地に本屋、座敷、茶室、会議室が庭園を囲むようにコの字型に配置され、特に茶室・松の間などに面皮(めんかわ)材の柱が使われており、数寄屋造の派手な装飾を排した無駄のない建物です。建坪は百坪少々ですが、残る敷地は虬園(きゅうえん)(注2)と名付けられた庭園となっています。この虬園には、桜をはじめ百日紅(さるすべり)の巨木、愚案和尚がくれた野梅(やばい)の老木(注3)、郷里の丹波(亀岡)から持ってきた山茱萸(さんしゅゆ)(注4)をはじめ多種多様な樹木が少なくありません。
 春になると大きく育った桜の木が邸前の道路までいっぱいに花をさかせ、山茱萸の黄色い花も咲き、茶室にもなっている松の間で茶を嗜みながら風情を楽しむことができました。初夏になると庭の真ん中にある大きな百日紅(さるすべり)木に鮮やかな紅色の花を咲かせます。
 この白雲荘の四季折々の風情は立命館とともに歩んできました。

白雲荘の春1
現在白雲荘の門前(2020〈令和4〉年5月撮影) 

白雲荘の春16
白雲荘平面図(1979年12月1日現在)


2 閉室前々日(2007年3月30日)の出来事

 その日、1本の電話に旧百年史編纂室(以下、編纂室)はざわつきました。その電話は、白雲荘の住み込み管理人さんからのものでした。
 「明後日(2007年3月31日)で私たちは白雲荘の仕事を終えます。4月以降は、白雲荘は閉鎖され、解体されると聞いています。編纂室の皆さん、特にM先生(室長)、Iさん(次長)にはお世話になりました。それで最後に電話をさせていただきました。みなさん、本当にお世話になりました。」
 編纂室全員が誰も知らずに事が進んでいることに驚きました。急遽、編纂室会議を開き、取り敢えず正確な情報を収集することと、関係部局にお願いして白雲荘に飾ってある学宝や書画など重要な資料となるものを、編纂室に移管し調査・保存することを了承してもらいました。電話を受けた翌日、早速I次長と私(齋藤)は白雲荘に行って諸資料を引き上げる段取りに入りました。白雲荘そのものは、解体を免れて今日に至っています。

3 白雲荘の春 ―最後の日2007年3月31日―

 その日は桜が満開な穏やかな春日和でした。前日の風で虬園(きゅうえん)いっぱいに桜の花びらが敷き詰められていました。この美しい風景を取り壊される前に記録として残したいと思い、素人ですがカメラを撮りました。これらの写真は、白雲荘が閉室される前日に筆者が撮影した写真です。

白雲荘の春3
白雲荘の門前

白雲荘の春4
白雲荘入口に咲く桜

白雲荘の春5
白雲荘玄関と敷き詰められた桜

白雲荘の春6
白雲荘玄関と敷き詰められた桜

白雲荘の春7
会議室から見る庭の草木

白雲荘の春8
松の間(茶室)と虬園

白雲荘の春9
虬園から母屋を望む

白雲荘の春10
虬園に敷き詰められた桜

白雲荘の春11
虬園に敷き詰められた桜

白雲荘の春12
虬園に敷き詰められた桜

白雲荘の春13
虬園に敷き詰められた桜

白雲荘の春14
虬園に敷き詰められた桜

白雲荘15
虬園に敷き詰められた桜

4 大切にされてきた白雲荘

 白雲荘は1923(大正11)年に建てられ、1954(昭和29)年以来、校友、教職員、学生の福利・厚生施設として使われてきました。その建物は、玄関脇の洋室を除いては「すべて数寄屋造りであるが、堅実な造作で、そこにはいささかの気負いや、てらいなどない。」(注5)立派ではあるが、庶民的な気負いのない建物と評価されてきました。白雲荘は、中川小十郎の人柄を感じさせる建物です。

2022年6月9日 立命館 史資料センター 調査研究員 齋藤重


<注釈>
(注1)天田愚庵(あまだぐあん)1854(嘉永7)年―1904(明治37)年は、江戸時代末期(幕末)から明治にかけての武士、歌人。漢詩や和歌に優れ、俳人正岡子規、中川小十郎と交流があった。中川小十郎は、天田愚庵が京都桃山に転居するとその隣に自身の寓居を作り交流を深めました。

(注2)虬園(きゅうえん)  虬(きゅう)とは、龍の子で、角のある架空の動物である。龍は縁起のいい想像上の動物とされ、その庭園に虬園(きゅうえん)と名付けた。 虬が戯れ遊ぶ、そんな庭をイメージしたのかも知れません。

(注3)野梅(やばい)の老木  野生の梅の木、またその花をいう。

(注4)山茱萸(サンシュユ)は、ミズキ科ミズキ属の落葉小高木。 朝鮮半島原産で、日本では庭木として植栽される。春先に葉が出る前に鮮やかな黄色い花を咲かせる。秋にグミに似た赤い実をつける。 別名でハルコガネバナ、アキサンゴ、ヤマグミとも呼ばれる
中川小十郎は、「曾祖父が家を再興した折に植えた木であり、私の家にとって記念すべき木」であり、「曾祖父から祖父の時代頃まで其の花を売って生計の一助ともした。(それで)わざわざ郷里の丹波から京都にもってきた」と話しています。

(注5)『先賢の住まい』前久夫著 京都新聞社発行 引用

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