学生の晴れ舞台、卒業設計講評会をオンライン形式で実現

2021年8月6日

藤井 健史 助教(理工学部)
寶珍 宏元 助手(理工学部)

理工学部建築都市デザイン学科では、4回生の卒業研究の集大成として、卒業論文の他に卒業設計の提出も認められています。毎年、学内外から多くの来場者を招き、成果発表の場として卒業設計講評会を学内の会場で開催しています。しかし、2020年度はコロナ禍により従来の方法での開催が困難となりました。例年と遜色のない学生たちの学びの集大成を発信する場を用意すべく、さまざまな工夫を凝らしてオンライン開催を実現しました。

例年の卒業設計講評会はどのように運営されていましたか。

藤井毎年約30名が卒業設計を選択します。設計した図面や二次元パースをレイアウトしたプレゼンテーションボード(A1サイズ・841×594mm)を6〜12枚と1〜2m角の模型作品の提出を必須としており、成果物を学内の大きな会場に展示し卒業設計講評会を大々的に開催していました。講評会では、学生が自分の作品の前に立ち、審査員にプレゼンして審査を受け受賞作品を決定します。

藤井助教

寶珍学内教員だけでなく、他府県から大勢の教員をゲストとして招聘します。ほかにも低回生や発表者の保護者の方々など、コロナ禍以前は約150名も集まるオープンで大規模な講評会でした。私たち教員だけでなく学部3回生から有志の学生スタッフも募り、運営しています。

寶珍助手

コロナ禍でオンライン形式にしようと決断された背景についてお聞かせください。

藤井当初は、規模を縮小して学内の教員だけで講評を行い無観客で実施することも考えました。しかし、学生からは学内だけでなく学外の先生方も含めて多くの方々に作品を講評してもらいたいという声が多く挙がりました。学生にとって卒業設計は持てる力を全て注ぎ込むプロジェクトで、講評会でいただく意見は一生の財産になります。その機会を失うわけにはいかないと思いました。学生の晴れ舞台ですし、例年通り実施することはできませんが、その雰囲気を学科として創り出し、体感して卒業してもらうことは非常に重要だと考え、オンライン形式で実施することを決断しました。

寶珍後輩学生にとっても、先輩の卒業設計を見て未来の自分を想像してワクワクするという貴重な機会であるという話を学生たちからも聞いていました。互いに良い刺激を受ける場なので、ぜひ大事にしたいと思っていました。

オンライン形式で開催されるにあたり、どのような準備や工夫をされましたか?

藤井開催に至るまでのすべての工程をオンライン化できるような工夫が必要でした。大きく分けて3つのことに取り組みました。ひとつ目は、提出物の受付です。例年は、学生が持参する提出物をブースにいる私たちがチェックして受け取っていましたが、オンライン受付にしました。受付システムを構築し、提出要件を満たしていない場合の対応など、さまざまなシミュレーションやリハーサルを何回も行いました。

寶珍続いて、学生から提出された作品を展示するWebサイトの構築です。リアルに展示してあるのを見る状態と近しくするために、Webサイトの仕様は何度も話し合って改善をしました。例えば、プレゼンテーションボードを見るとき、展示会場ではボードの全体像を引きで見つつ、細かな情報は近寄って確認します。Webサイトでもストレスなくボードを拡大縮小しながら閲覧できるよう配慮しました。また、学生によっては複数のプレゼンテーションボードを跨いで大きな図面を描く場合があります。展示会場だったらボードを自分で好きなように並べれば済むことなのですが、Webサイト上での展示をこれに近づけるためには大変細かな調整が必要でした。一方で、Webサイトならではの新たな取り組みも取り入れました。学生から動画を提出したいという意見もあったので動画を掲載できるようにしました。さらに、英語表記にも対応しました。Webサイトにしたことで、作品発表が講評会に閉じたものでなく、世界中に発信できるというメリットが生まれたので、それを生かすことにしました。

藤井三つ目に取り組んだのはオンライン講評会の運営についてです。例年の講評会は審査委員を複数のグループに分け、審査グループごとに学生の展示を巡回して発表を聞き、質疑応答する方法で行っていました。これにより、学生1人あたりの講評時間を多く確保することができます。教育効果の担保のため、オンラインでもこの方式を何とか維持したいと思いましたが、方法を誤ると大混乱を来すだろうと思いました。何か良い方法は無いかと思案し、発想を逆転させることにしました。つまり、例年は学生のもとを先生方が巡回していくのですが、オンライン方式ではZoomのブレイクアウトルーム機能を使用して審査員を8 つの審査ルームに分け、発表する学生が審査ルームを巡回して発表し、それぞれで講評を受けるという方式にしました。ミスが起きないように学生用と審査員用のマニュアルも用意し、学生を集めて発表リハーサルを重ね調整していきました。おかげで大きなトラブルなく、目的とする学生たちの集大成の場を実現できたと思います。

Zoomで実施した講評会の様子

今後の展開や先生方の想いをお聞かせください。

寶珍学科発行の広報誌であるイヤーブックでは、これまで入賞作品しか紹介をしておらず、今回初めて全学生の作品をWebサイトで紹介しました。サイトを見た他大学の先生から、「入賞作品に限らず、学科全体の作品レベルが高いですね」と感想をいただき大変嬉しかったです。また、公開できたことで、これから受験する高校生にも見てもらい、将来の自分を想像してもらえることを期待しています。

藤井例年と遜色のない卒業設計講評会をオンライン上で実施するために、アイデア出しからマニュアル作り、リハーサルと、3回生の運営委員会に加えて4回生にも積極的に協力してもらい、集まれないけれどいつも以上に一体感が生まれたように思いました。遠方の先生方にも例年通り参加いただくことができ、学生達と活発に議論を交わして下さいました。今後、対面開催が可能になったとしても、オンラインと対面のハイブリッドの卒業設計講評会を開催することを視野に入れており、今回、構築したシステムやマニュアルは今後も生きてくると思います。また、このWebサイトを世界に発信できる成果物の発表の場として、継続的に更新していくことで、学生の制作意欲を高めることにも繋がりますし、後輩たちの教材にもなりうると考えています。

参考Webサイト

※撮影時のみマスクを外しています。