皆さん、こんにちは。館長の安斎育郎です。立命館大学の国際関係学部の教員として「平和学」「現代平和論研究」「自然科学概論」「科学的な見方考え方」などを担当し、学部と大学院で「平和学」のゼミを受けもっています。もともとの専門は原子カ工学で、なかでも放射線防護学の専門家でした。しかし、放射線防護学について学ぼうとすれば、広島・長崎への原爆投下によってどのような放射線の被害がもたらされたのかについての検証を避けて通るわけにはいきません。私はその結果、核兵器が使われたら「放射線防護学者」な.ど何の役にもたたないことを痛感して核軍縮の問題に関心を染め、そこから平和学に歩みを進めました。1992年に「世界最初の大学立の平和博物館」として当ミュージアムが開設されてから、1995年までは館長代理として、それ以降は館長として、この平和博物館の運営に関わってきました。どうか宣しくお願いします。
私たちが平和の問題にアプローチする場合、「平和が損なわれている現実」、あるいは、「かつて平和が損なわれた歴史」を見すえることを通じて「戦争の悲惨さ」や「平和の尊さ」を認識し、どうすれぱそのような非平和的な状況を克服して、もっと平和的な状況を実現できるのかを考え、そのために行動するという方法があります。

今年60年目をむかえる東京大空襲被害や沖縄の地上戦の惨禍、さらには、広島・長崎の原爆被災などを体験した日本人は、そうした被害体験を繰り返さないようにするためにはどうすれぱいいか−そう考えます。また、日本がアジア・太平洋諸国の人びとに耐え難い戦争の惨禍を味わわせたという思いも、私たちに、そのような加害体験を繰り返さないためにはどうすればいいかと迫ってきます。さらに、現代社会でも、平和・とは程遠い現実が毎日のように報道されているので,「どうすればこのような暴力を克服できるか」と考えることは大切なことです。1992年に開設された当ミュージアムの常設展示室(地階)も、そのような方法で平和の問題を考える場を提供してきました。しかし、戦争や暴カの実態に目を向けているだけでは、十分ではありません。戦争の歴史や暴力の実態を知ることはとても大切なことですが、そのような知識を深く胸のうちにしまっておいたのでは、戦争や暴力を生み出す現実社会を変えることはできません。大切なことは、平和を創造するために、「私たち自身に何ができるか」を考え、実践することです。

開館から13年目をへて、立命館大学国際平和ミュージアムは、戦争と平和の歴史を跡づけた地階の常設展示室をいっそう充実させるとともに、1階には「国際平和メディア資料室」を、2階には「平和をもとめて」をテーマとする新しい展示室を開設しました。これらは、まさに、当ミュージアムを訪れる人びとに、「平和をつくるために自分に何ができるか」を考えて頂くための空間です。どうか新しい展示をご覧いただき、「これは大変だ。何とかしなくては」という問題意識を感じられたら、ぜひとも、「自分に何ができるか」という視点から考え、「地球規模で考え、地域から行動する」という心で実践活動に参加していただくことを期待します。そのためのヒントを当ミュージアムで見つけることができたら、私たちにとって望外の幸せです。

安齋育郎のプロフィール

東京大学工学部原子力工学科卒。工学博士。同大学医学部助手、中央大学商学部講師、東京医科大学客員助教授などを経て、1986年、立命館大学経済学部教授、1988年、国際関係学部教授となり、現在に至る。立命館大学評議員、国際平和ミュージアム館長。担当は、自然科学概論、国際平和学、演習(平和学)、地球環境問題特講など。

Japan Skeptics(超常現象を科学的・批判的に究明する会)副会長、日本平和学会理事、日本シミュレーション・アンド・ゲーミング学会理事。著書に、『放射線技師のための数学』、『原発と環境』、『からだのなかの放射能』、『中性子爆弾と核放射線』、『地球非核宣言』、『核戦争と地球』、『茶の間で語りあう平和』『放射能そこが知りたい』、『超能力を科学する』、『茶の間で語りあう地球環境問題』、『科学と非科学の間』、『人はなぜ騙されるのか』など多数。超能力を批判的に検討する自然科学概論の講義がマスコミでたびたび紹介される。ミュージアムでボランティアガイドとして活躍中の「平和友の会の顧問。

趣味はマジック、俳句、絵画。オウム真理教団から「超能力批判の急先鋒」として名指しで批判される。