立命館大学で学ぶ 金融・経済

日本証券アナリスト協会・日本経済新聞社 協定科目「金融・証券分析の基礎 ~新聞記事から読み解く~」

次世代を担う若者に現実の社会の理解を

2008年に日本証券アナリスト協会、日本経済新聞社協定科目「金融・証券分析~新聞記事から読み解く~」を
開講して以来、2011年で4年目を迎えた。
9月6日、公益社団法人日本証券アナリスト協会の萩原清人氏、株式会社日本経済新聞社の永野健二氏を招き、
学校法人立命館総長川口清史とともに3年間の成果を確認し、さらに日本経済の行く末、
それを担う若い人材の育成に関わる協定科目の意義について語り合った。

  • 次世代を担う若者に現実の社会の理解を
  • 萩原清人 氏
  • 永野健二 氏
  • 川口清史

「生きた経済」を学び、
企業の求める力量を培う講座

川口 ・・・・・

日本証券アナリスト協会、日本経済新聞社のご協力を得て「金融・証券分析~新聞記事から読み解く~」を開講してから4年目を迎えました。3年間さまざまな形でご尽力いただきましたことを心よりお礼申し上げます。おかげさまで年々受講者が増え、昨年度は590名が受講するという大変な人気科目となっています。しっかり講義を受けられる人数として、今年度は受講者を200名に制限したとか。人気の秘密は、現実の経済、金融・証券の動きをビビッドに反映させた講義を展開しているところにあると聞いています。とりわけ経済学や金融理論と現実の経済を結びつける学びを重視しています。日本経済新聞社の方が講師となり、「生きた経済の姿」を語っていただく講義は、学生をおおいに刺激し、将来を切り拓いていく力になってもらいたいと考えています。

永野氏 ・・・・・・

「新聞」というメディアは、いつの時代も新しいものを取り込んで、次の時代につないでいく使命をもっていることを忘れてはならないと思っています。次世代を担う人を育てることもまた、私たちの大きな役割の一つです。とりわけ近年、新聞を読まない若者が増えていることに、大きな危惧を抱いています。現在当社では、紙媒体だけでなく、WEBサイトでも記事を配信するなど、新しい時代のメディアをつくることにも挑戦しています。今までにない多様な情報提供の「場」を創造し、大学生をはじめとした若い世代にとっても魅力あるメディアを育てていくことが、私たちの新たな課題です。
私自身、“iPad”や“iPhone”を日常的に使いますし、インターネットを活用するのも好きです。しかし、そうした時代だからこそ新聞にも価値があると考えています。その意味でも、若い人たちに新聞の意義を伝える機会をつくっていただいたことに感謝しています。

「生きた経済」を学び、企業の求める力量を培う講座

萩原氏 ・・・・・・

日本証券アナリスト協会では、来年創立50周年を迎えるのを前にして、数年前から教育プログラムの全面的な見直しに取り組んできました。証券アナリスト教育もその一つです。経済不況が続く中、職業としての金融や証券の魅力も落ちているのを感じざるをえません。私たちは、人材育成を通してそうした風潮を覆し、金融や証券業界の活性化を縁の下で支えたいと考えています。専門性だけを備えた証券のプロフェッショナルというだけでは、証券アナリストとして十分とはいえません。私たちが目標とするのは、幅広い分野に精通したゼネラリストとしての「金融のプロフェッショナル」を育てることです。究極的には、日本の「金融リテラシー」を高めることを目指しています。
それだけに、提供するプログラムは、社会人を対象とした難易度の高いものです。立命館大学の学生さんが、この科目に実に意欲的に取り組み、高い成果を挙げていることを心強く思っています。証券アナリスト試験の合格を1科目でも手にすることは、就職においても非常に有効な武器となります。金融・証券に関する専門的な知識はもとより、資格を獲得するために真剣に学んだ過程が企業から評価されるのではないでしょうか。

川口 ・・・・・・

学生にとって、眼前に立ちはだかる最も現実的な課題は、「就職」です。この協定講座が人気を集めるのも、裏を返せば先の見えない経済状況に対する学生の危機意識の表れともいえます。一方、大学の人材育成に対し、企業から寄せられる期待の内容も変わってきています。良い成績やあるいは協調性などが重視されたこれまでとは違い、人間として、社会人として、さらに一段高い力量、現実にビジネスを動かしていくための基礎的な力量が問われるようになってきているのです。このように協定講義が、今の産業界、経済界で必要とされていることを学生自らがつかむ絶好の機会になれば、キャリア教育としての役割も果たしていると考えることができます。

永野氏 ・・・・・・

世界で起きているさまざまな現象、あるいは身近に起こっているできごと、一見経済とは無関係に思えるあらゆる課題も、実は経済と密接に関わっています。2008年のリーマンショック、さらに今年起こった東日本大震災など、社会が激変するような時は、とりわけ経済問題が大きなテーマになります。解決すべき課題の多くが最終的には経済問題に帰着するからです。早い段階からそのことに気づき、具体的なケースを通して学ぶことは、これから将来社会で生き抜く上での大きな糧になるにちがいありません。

金融教育を通じて培うべき
ビジネス感覚

萩原氏 ・・・・・・

近年の金融業界は、金融工学などのテクニックの向上に偏重し、だれもが当たり前にもっている常識に欠けるところがあると感じています。その結果が、世界的な不況や金融の混乱を招い増幅させているのではないでしょうか。「金融のプロ」として活躍するためには、常識と広い視野が不可欠です。学生の皆さんにも、社会のできごとを自分の頭で理解するための「常識」を培ってほしい。こうした教育プログラムを提供することを通して私たちもその一助になれれば幸いです。

永野氏 ・・・・・・

同感です。例えばリーマンショックが起きると、とたんに「市場主義反対」を唱えるというように、現代社会では、一方から他方へと短絡的に考え方が振れる傾向が強くなっているように思います。学生の皆さんには、多様な側面を比較検証することのできる冷静な目を養ってほしいですね。

金融教育を通じて培うべきビジネス感覚

川口 ・・・・・・

多くの学生は、知識を知識として頭に入れ、試験やレポートだけで完結してしまっているきらいがあります。それをどう突破するかが、この講座を設定した時の課題でもありました。学生に身につけてほしいのは、証券や金融の知識よりもむしろ「ビジネス感覚」です。例えば、国債の価格が下がると、世の中には実際にこんなところに影響が出るんだというように、現実の問題と結びつけて理論を理解してほしい。知識や理論が現実を説明する、あるいは現実が理論を変えていく、そんな相互関係を実感として理解させたいと考えています。

日本経済の今後とそれを担う
学生への期待

萩原氏 ・・・・・・

日本の経済力が弱体化した結果、今、世界の中で日本の存在感は、著しく低下しています。日本の行く末を考えると、これは非常にゆゆしき問題です。

川口 ・・・・・・

一方で、中国の影響力はますます大きくなっています。中国の隣国として日本は、今後どのような分野、レベルで、世界の中でポジションを獲得していくべきか、真剣に考えなければなりません。例えば北欧諸国は、それぞれ国土は小さいけれど、確固とした存在感を放っています。同じように日本も、国の大きさではなく、「イノベーション」によって存在感を高めていくべきだと私は考えています。そのため必要なのは、創造意欲に燃えて果敢に新しいことに挑む「アントレプレナーシップ」、すなわち起業家精神ではないでしょうか。

永野氏 ・・・・・・

ハイリスクだけれど、それだけ高い収益を得られるリスクマネーが投入されなければ、アントレプレナーシップは育ちません。日本人の個人資産の総額は、現在1500兆円にも達するといわれています。しかし、そのほとんどが国債か定期預金であり、リスクマネーを動かすリスクキャピタルに投資されているのは、そのうちのたった10%に過ぎません。日本人にはリスクの高いベンチャー企業などへ投資する文化が浸透していないのが実情です。個人の金融資産のポートフォリオを変えつつ、一方で、リスクマネーの供給につながるようなベンチャー市場を育てる枠組みをつくっていく必要があるでしょう。

萩原氏 ・・・・・・

同感です。市場の枠組みを構築する一方、1500兆円もの個人資産を動かしていく手掛かりをつくるのには、証券アナリストが役立つと私は考えています。証券アナリスト資格を持っている人は現在、全国に2万4千人もいます。彼らの活躍が、個人の金融資産のポートフォリオを変える力となることを期待しています。

川口 ・・・・・・

これからはたとえ大企業に勤めたとしても、アントレプレナーシップは不可欠です。立命館大学でも、学生のアントレプレナーシップを高めていくような教育プログラムの充実に力を注いでいきたいと、議論しているところです。

萩原氏 ・・・・・・

証券アナリスト資格は、世界で認知されている国際的な資格です。世界の金融舞台で活躍する、そんな心意気のあるひとにはぜひ、資格取得にチャレンジしてほしいですね。これからの日本経済を担うのは、学生の皆さんに他なりません。もっとしっかり勉強して、将来日本を牽引する力を育んでほしいと願っています。

永野氏 ・・・・・・

金融・会計などは、ともすれば小さく、手堅く生きるための方法論と考えられがちですが、そうではありません。金融や証券の知識こそが、世界の資本主義の荒波を泳いでいく道具となるのです。これから先、大きく生きるために不可欠な道具だと考えて、しっかり身につけてほしいものです。

川口 ・・・・・・

この講座は、企業や金融の専門知識を知るというだけでなく、現実社会がどう動いているのか、自分との関わりを知るという意味で、より一般的な意味があると思います。企業に勤める、あるいは金融のスペシャリストになるという人以外もぜひ受講してほしい。例えば、環境問題に取り組みたい、社会福祉に尽力したいと思っている人にもきっと、力強い後押しとなってくれることでしょう。

出席者プロフィール
萩原清人氏
公益社団法人
日本証券アナリスト協会
専務理事
萩原清人氏
萩原清人 氏
永野健二 氏
株式会社日本経済新聞社
専務執行役員
大阪本社代表
永野健二 氏
川口清史
学校法人立命館
総長
川口清史