元素資源を基盤とした機能性ソフトマテリアルの創製 | 自発的に集合化する分子を合成し現状を打破する概念・機能を創出する。

共有結合と分子間相互作用の協同効果

これまで想像もしなかった未知の分子を合成し、集合化させ、マテリアルとしての可能性を引き出すこと。それこそが基礎研究の醍醐味と感じています。新しい骨格を持つ分子を基盤として、既存分子にはない物性や機能性を発現し、新たな概念の発信が可能となります。有機合成を駆使する、すなわち原子間に新しい結合を形成し、また結合の組み換えを実現することによって、資源に新たな価値を付与することができます。 一方、生体に見られるように、分子はその間にはたらく相互作用によって自発的に集合化し、個々の分子には見られない物性の発現を実現します。既存分子を凌駕した自己集合可能な分子を新たに創出し、応用へと展開していくことが私たちの研究の目的です。

新規骨格を有するπ共役系分子の合成

このプロジェクトでは、まず新規骨格を有するπ共役系分子の合成に挑戦します。π共役系分子は比較的自由に動く電子を有するため、特徴的な電子・光物性を示す素材であり、さらにその平面性のために積層しやすいという性質を持ちます。そこで新たに合成したπ共役系色素分子をビルディングブロックとして集積化させ、可動性・加工性の高いソフトマテリアルの形成を試みています。

私たちは、π共役系分子の構成ユニットとして、クロロフィルやヘムなどの生体色素分子の構成要素であるピロール環に注目しました。ピロール環の窒素部位や平面性が分子の集合化に寄与する点にポテンシャルを感じたためです。実際に、これまでの研究において、複数個のピロール環を適切な平面状ユニットで架橋したπ共役系素子の合成を実現しています。一連のピロール誘導体は、金属イオンとの錯体形成や、負電荷種であるアニオンとの会合体形成、超分子組織体の構築など、多岐にわたる展開が可能な素子であると期待でき、精力的に研究を行っています。

外部刺激応答性ソフトマテリアルの創製に成功

有機合成を駆使した原料資源から新たな機能性分子の開発、すなわち金属イオンやアニオンと相互作用する非環状型π共役系素子の創製が、本プロジェクトの基軸です。得られたπ共役系素子は、たとえば金属イオンを「接着剤」として容易にひも状多量体(配位ポリマー)を構築し、さらに折れたたまり発光性コロイド粒子を形成することを見出しました。

人工クロロゾームの原子間力顕微鏡像(左)と顕微蛍光発光像(右)

一方、アニオンと相互作用する蛍光性レセプター分子は、アニオンとの会合によって電子・光物性を大きく変える(=アニオンを「認識」する)センサー素材として利用できることも明らかにしています。さらに、アニオンレセプターの平面性=積層しやすさを利用し、周辺への適切な置換基の導入によって、超分子ゲルや水溶性ベシクルなどのソフトマテリアル形成も実現しました。この超分子ゲルは外部刺激(アニオン)に応答し、集合体である凝固状態(ゲル)から分散した溶液状態へと転移することも分かりました。最近ではレセプターとアニオンの会合体を「平面状アニオン」と捉えることで、正電荷種であるカチオンと規則的な交互配列構造を形成することも固体(結晶)状態で明らかにしています。

このような電荷種間での相互作用を利用したソフトマテリアルへの展開は端緒についたばかりですが、種々の外部刺激による応答性や物性変調にも挑戦しています。原子・分子を自在に操る有機合成を基盤とし、将来には実用可能なデバイス開発を見据えた、新概念・新機能の創出に意欲を燃やしています。

有機合成、π共役系分子、ピロール環、自己組織化、ソフトマテリアル、超分子ゲル、外部刺激応答性

前田大光 准教授

前田大光 准教授

1999年 京都大学理学部卒業、'04年 同大学院理学研究科化学専攻博士後期課程修了。その間、日本学術振興会特別研究員(DC1)、テキサス大学訪問学生。博士(理学)。'04年より立命館大学理工学部専任講師、助教授、准教授を経て、'08年 同総合理工学院薬学部 准教授、現在に至る。その間、'06~'07年 分子科学研究所 客員助教授・准教授、'07年から科学技術振興機構さきがけ研究者(併任)。日本化学会、高分子学会、光化学協会、有機合成化学協会、錯体化学会、アメリカ化学会に所属。'05年 IUPAC Prize for Young Chemists、'07年 井上研究奨励賞、日本化学会 若い世代の特別講演賞、'08年 HGCS Japan Award of Excellence 、有機合成化学協会 富士フイルム研究企画賞、'09年 日本化学会 進歩賞を受賞。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:前田大光
立命館大学 薬学部 超分子創製化学研究室(前田研究室)

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