未知の糖鎖機能解明に挑む
糖鎖はタンパク質をはじめとする多くの分子と結合して、生体内で重要な生理的機能を担っています。糖鎖構造が異常をきたせば、ガンやアルツハイマー病、糖尿病、筋ジストロフィー、免疫応答疾患など多くの疾患にもつながります。
また糖鎖は、細胞の分化やリプログラミングを測定するマーカーとしても活用されています。ヒトiPS細胞やES細胞の同定に汎用されている抗体の多くは、糖鎖を認識していると考えられています。このことは、細胞表面に発現する糖鎖の構造が、同じアミノ酸配列を持つタンパク質でも発現する組織や細胞によって異なり、同一細胞でも、発生過程や病態に応じて大きく変化することと密接に関係しています。
生体内で重要な役割を果たしているにも関わらず、糖鎖構造の変化の様子は十分に解明されていません。糖鎖がどのようなタンパク質と結合し、細胞のリプログラミングや分化の過程でどのような構造変化を遂げるかがわかれば、学術的にも大きなインパクトとなります。
また糖鎖生物学は、近年新たな医学領域として注目を集めている再生医療の分野への応用も期待されています。
このプロジェクトでは、本学糖鎖工学研究センターと協力してiPS細胞表面やES細胞表面に発現する糖鎖が、細胞のリプログラミングや分化に果たす生物学的役割を解析しようとしています。その結果を基に、より効率的で安全、簡便な細胞培養技術を開発し、再生医療に寄与することを目指しています。
グリコサミノグリカン・プロテオグリカンの重要性に着目
タンパク質に結合した糖鎖は、N-結合型、ムチン型、グリコサミノグリカンに大別されます。本プロジェクトでは、その中でも特にグリコサミノグリカンに着目し、構造解析と機能の解明に取り組んでいます。私たちは今、糖鎖工学研究センターが開発した新規の単クローン抗体作成法を用いた研究を行っています。ヒトiPS細胞を免疫源として、iPS細胞表面糖鎖に特異的な新規の抗体作成を試みています。それを用いて、ヒトiPS細胞やその他の細胞表面に、どのような糖鎖が発現しているかを確認しようと考えています。また、グリコサミノグリカンおよびそれがタンパク質と共有結合したプロテオグリカンの網羅的な解析も行っています。
すでに私は、ES細胞のグリコサミノグリカンの解析に成功しています。その際、ES細胞と分化誘導した細胞のグリコサミノグリカンを分析しました。すると通常の細胞培養実験に用いる株化した細胞や分化させた細胞に比べ、ES細胞ではグリコサミノグリカンが10分の1以下になっていることが明らかになりました。つまりES細胞では、グリコサミノグリカンやプロテオグリカンが非常に少なく抑えられ、特定のものだけが発現していたのです。これはES細胞やiPS細胞の分析に極めて有用です。さらに高度な分析を可能にするため、こうしたグリコサミノグリカン・プロテオグリカンの分析法の高感度化を図っています。
糖鎖機能の解明が再生医学研究を加速させる

体細胞のDNAを初期化して、多能性を持ったiPS細胞を作製し、さらに組織幹細胞を分化させる過程を研究する上で、グリコサミノグリカン、プロテオグリカンの解析はその大きな手掛かりとなり得ます。iPS細胞が体細胞から誘導される際の詳しい糖鎖環境が明らかになれば、遺伝子導入を伴わない安全なiPS細胞を作製する新しい手法を探索する一助となるかもしれません。また未分化のiPS細胞やES細胞が混入することによるテラトーマ(奇形腫)の形成を防ぎ、ガンを引き起こすのを予防することができるかもしれません。その他、ヒトiPS細胞に特異的な抗体を作製することができれば、高収率・高品質のヒトiPS細胞のクローニングも可能となります。
こうした成果の結実を目指すだけでなく、先端研究を通じて若手研究者の育成にも寄与したいと考えています。
糖鎖、iPS細胞、ES細胞、単クローン抗体、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、リプログラミング

1986年 千葉大学薬学部総合薬品科学科卒業、薬剤師免許取得。'88年 同大学大学院薬学研究科修士課程修了。薬学博士。'88年 帝人株式会社生物医学研究所研究員。'89年 千葉大学薬学部教務職員、'95年 同助手、'03年 同准教授を経て、'08年 立命館大学薬学部教授、現在に至る。'99~'00年 米国アリゾナ大学分子細胞生物学部博士研究員。日本薬学会、日本生化学会、日本分析化学会、日本糖質学会に所属。

琵琶湖固有魚貝類の細胞株樹立とバイオセンサーへの応用
(高田達之 教授)

窒化物半導体をもちいた環境エレクトロニクスの構築
(青柳克信 教授)

低炭素社会実現のための基盤技術開発と戦略的イノベーション
(周 瑋生 教授)

天然テトラピロール分子を基盤とした環境調和型光応答材料の創製
(民秋 均 教授)

元素資源を基盤とした機能性ソフトマテリアルの創製
(前田大光 准教授)

自然共生型機械材料高効率利用プロジェクト
(飴山 惠 教授)

創薬ならびに有用機能性有機分子創生を志向するサステイナブル精密合成研究
(北 泰行 教授)

アンチセンス転写物による発現調節機構を用いた創薬の研究
(西澤幹雄 教授)

糖鎖工学による再生医学新領域の開拓
(豊田英尚 教授)

IRTが拓く超臨場感遠隔協働環境の研究
(田中弘美 教授)

多次元医用データの統計モデリングと診断補助支援(CAD)システムの開発
(陳 延偉 教授)

生体機能シミュレータと解析ツールの研究開発
(野間昭典 教授)

統合型スポーツ健康イノベーション研究
(伊坂忠夫 教授)

暮らしを支える安全・安心のインビジブル・セキュア・プラットフォーム
(毛利公一 准教授)

対人援助学の展開としての学習学の創造
(望月 昭 教授)

応用錯視学のフロンティア
(北岡明佳 教授)

「法と心理学」研究拠点の創成
(佐藤達哉 教授)

電子書籍普及に伴う読書アクセシビリティの総合的研究
(松原洋子 教授)