カテゴリーで探す
キーワードで探す
  • ISSUE 20:
  • 再生

地域の小水力発電所をよみがえらせる

エネルギーの地産地消の可能性を追求する

永橋 爲介産業社会学部 教授

    sdgs07|sdgs11|sdgs13|

岐阜県大垣市にある時水力発電所が、約50年の時を経て再稼働に向けて動き出した。2011年3月11日に発生した東日本大震災後の福島第一原子力発電所事故に衝撃を受けた永橋爲介は、小規模分散型自然エネルギーの一つとして日本各地に残る小水力発電所に注目する。時水力発電所の再稼働を目指す中で、その取り組みが地域づくりへと発展していく可能性を示した。

時水力発電所の再稼働を目指し
学生とともにプロジェクトをスタート

岐阜県大垣市上石津町(かみいしづちょう)時(とき)地区の牧田川沿いに、築100年を超える小水力発電所がある。1976年に廃止されてから半世紀を経た2022年、地元企業のイビデンエンジニアリング株式会社が全面改修工事に着手した。建物や発電機を一新し、2024年4月の再稼働を目指している。この工事の10年以上前の2011年から発電所のある時地区に入り小水力発電の再生に向けて力を尽くしてきたのが、地域づくりやまちづくりを専門に研究・実践している永橋爲介と立命館大学の学生たちだった。

永橋は『時村史』などの文献を調査し、時水力発電所がたどった歴史を詳らかにしている。それによると、時水力発電所は1921(大正10)年、地元住民が出資し、村営を母体とする株式会社として開設された。発電量160kWと当時としては比較的大規模なプラントだったという。1922(大正11)年に関西電気株式会社、東邦電力株式会社に相次いで合併された後、1937(昭和12)年に地元近郊で工業用石灰を手がける白石工業株式会社が買収。自社工場の動力源として1976(昭和51)年まで時水力発電所の操業を続けた。「後の大手9電力会社に渡らず、民間企業が保有したからこそ、今日までほぼ丸ごと当時の姿を残す稀有な発電所となりました」と永橋は言う。

この発電所に関わるきっかけとなったのは、2011年3月11日に発生した東日本大震災後の福島第一原子力発電所の事故だった。「被害の甚大さに大きな衝撃を受けるとともに、大規模電力に頼りきりにならず、エネルギーを地産地消することの重要性を改めて痛感しました。やむにやまれぬ気持ちで、微力でもできることをしなければ」と着目したのが、小規模の水力発電所だった。明治時代以降の近代工業化の中で全国各地に数多くの小水力発電所が建設されており、時地区にある時水力発電所もその一つだった。

初めて現地を訪れたのは、2011年5月。その後、永橋は立命館大学産業社会学部のアクティブ・ラーニングプログラムの一つとして「時は今だプロジェクト」を立ち上げる。同年9月、約30名の学生と共に現状調査に赴き、時まちづくり活動推進実行委員会ならびにNPO法人地域再生機構の協力の下、地元古老たちへのヒアリングやプラントの測量調査を実施した。そこから時水力発電所を再稼働し、小規模分散型エネルギーの可能性を探る試みがスタートした。

小水力発電所再生の取り組みが地域活性化につながる可能性を示す

しかし、その道のりは長いものだった。「地域の方々の同意・協力なしに、独りよがりで進められるものではありません。時水力発電所の歴史を知る世代にとっては誇れる産業遺産でも、その存在を知らなかったり関心が薄かったりする住民の方もいます。また何よりも地域の方々から信頼を得ることが大切だと考え、学生たちと共に地域コミュニティに貢献する活動に取り組みました」。永橋や学生たちは地域の祭りや山林を守るための間伐作業などに積極的に参加し、地域との関わりを深めていった。

2012年2月には調査結果を地域住民と意見交換を行うワークショップを開催。さらには学生たちの発案で地域の空き家を借り上げ「時の家」と名付けた活動拠点を設置し、継続的に活動する体制を整えた。「これをきっかけに、地元では地域の空き家を移住者に提供する活動が始まり、これまで25世帯56人が移住してきました」

2015年度には上記NPOに就職した卒業生が立案した「時地区の10年後のビジョン」策定連続ワークショップを実施。「小学生から高齢者までさまざまな方が参加してくれましたが、最初はなかなか世代間・性別間のコミュニケーションが進みませんでした。それが回を重ねるごとに世代も性別も超えて皆が熱く意見を交わせるようになり、地域の方々同士のつながりを深められたことが一番の収穫です」と永橋。話し合いの中でさまざまな地域課題が共有され、スモールビジネスなど新たな取り組みも始まった。小水力発電所再生への取り組みが、地域づくり・地域活性化とも輻輳していく可能性を示したことも、大きな喜びだった。

その後は発電に必要な水量不足への懸念、コロナ禍による活動の停滞など、さまざまな困難にぶつかりながらも諦めずに活動を継続した結果が、熱意と誠意溢れるイビデンエンジニアリング株式会社との奇跡的な出会いと今回の工事につながっていく。

「もちろん時水力発電所だけでは到底原子力による発電量には太刀打ちできません。しかしこの10年で、地域の小水力発電所を利用しようという動きが各地で見られるようになってきました。時水力発電所もその1つの事例として他の地域とも情報共有していきたいと考えています」一石を投じる大切さ、一つひとつは小さな石だが、たくさん集まれば水面に大きな波紋を広げることができる。永橋はそう確信し地域の明日を見つめている。

「時は今だプロジェクト」5年間の中間報告

永橋 爲介NAGAHASHI Tamesuke

産業社会学部 教授
研究テーマ

屋外環境と子どもからみたまちづくり、映画とまちづくり、地域環境の将来像の策定や運営管理における合意形成のプロセスや紛争調停に関する研究、参加型プロジェクトと非参加型プロジェクトの進捗状況と効果に関する国際比較研究、パートナーシップによる持続可能なまちづくりの方法論の探求

専門分野

参加型まちづくり