STORY #2

「ゆりあげ港朝市」
復興への道

永野 聡

産業社会学部 准教授

宮城県名取市「ゆりあげ港朝市」
復興に尽力

2011年3月11日、東日本大震災が起こった時、私は早稲田大学創造理工学部建築学科の助手就任を翌月に控えた博士課程の学生でした。「何かできることはないか」と同僚の若手教員らと共に被災地に入ったのは、その3週間後です。ボランティア活動をしながら岩手県から茨城県まで巡りました。6月、宮城県名取市の住民グループから依頼を受け、住民主導で復興計画を作るワークショップを開催する機会を得ました。そこに参加していたのが、ゆりあげ港朝市協同組合の櫻井広行理事長でした。櫻井理事長から「ゆりあげ港朝市を再建したい」という話を伺い、協力することになりました。

宮城県名取市閖上地区にある「ゆりあげ港朝市」は、30年以上にわたって地域住民のみならず地域外の人々からも親しまれてきました。しかし震災の津波被害によって施設や設備のすべてが失われました。

朝市の復興にあたって櫻井理事長らが特に重視したのが、「現地再建」でした。しかし当該の場所は内海に面している上に地震で地盤が沈下しており、容易には建物を建てられません。当初私は自分の専門性を生かし、まちづくりや都市デザインで貢献したいと考えていました。ところが必要とされたのは、ファンドレイジング(資金調達)や組織づくりなど。その後は想像をはるかに超える大変な道のりが待っていました。

まず再建に必要な資金を調達するために活用したのが、クラウドファンディングです。その他、さまざまな補助金や助成金も利用し、再建費用の捻出を試みました。「カナダ―東北復興プロジェクト※」から朝市施設建設資金の提供を受けたことで再建が本格始動。震災前と同じ場所に店舗の入る施設と交流棟を建設し、震災から2年半後の2013年12月1日、ついにゆりあげ港朝市の再開を実現しました。

でもそれで再建が完了したわけではありません。新たな施設を建てたことで新たに必要となったのが、運営管理業務です。引き続き、そのための組織づくりも支援することになりました。施設の運営管理を担う企業を立ち上げるとともに、人材の登用・育成にも取り組みました。

※「カナダ―東北復興プロジェクト」:東日本大震災の復興支援のためにカナダ連邦政府、ブリティッシュ・コロンビア州政府およびアルバータ州政府が、カナダ林産業界、カナダウッドグループと共に立ち上げた。

「ゆりあげ港朝市」の復興過程で得た
知見を生かす研究

実践を通じて震災復興に携わってきましたが、研究を通じて知見を提供することが研究者として最も重要な使命だと常々考えています。そのため研究やコンテストへの挑戦にも力を注いできました。2012年4月、立命館大学国際関係学部の客員教授でもある寺島実郎氏が責任監修を務める「寺島実郎責任監修復興構想コンテスト」(復興構想コンテスト実行委員会主催)に早稲田大学建築学科の若手研究者有志と共に応募。「生物多様性の復元と生活文化多様性の創出に関する提言~仙台平野・名取市閖上地区周辺に着目して~」が、最優秀作に選ばれました。

研究においては、地域商業拠点施設(ゆりあげ港朝市)の復興過程やファンドレイジングなどのファイナンスの取り組みについてまとめました。また内海沿いにゆりあげ港朝市を建設するにあたって策定した避難計画の策定過程も明らかにしています。

立命館大学の学生と共に
復興支援を継続

2018年4月に立命館大学に着任して以降は、ゼミの学生と共に閖上地区の復興マネジメントおよび研究を継続しています。現在も定期的に現地を訪れ、学生が主体となって、エリアマネジメントやアート、地域観光などテーマ別にプロジェクトに取り組んでいます。ゆりあげ港朝市協同組合などと、閖上復興感謝プロジェクト実行委員会を組織し、地域の特産となる「北限のしらす入り笹かまぼこ」を企画・開発し、販売するなど、その活動は多方面に広がっています。2020年度は、ゆりあげ港朝市や閖上地区に観光客を呼び込むことを目指し、周辺エリアの周遊性調査や観光マップの作成、さらにはランドアートの制作に取り組みました。今年度もカナダ政府への謝意と交流促進を図るプロジェクトを計画中です。今後も多様な側面から震災復興や地域活性化のあり方を提示していきたいと考えています。

学生コメント

産業社会学部 4回生 渡辺悠介(Watanabe Yusuke)
地域観光マップの制作にあたっては、ゆりあげ港朝市周辺にある全店舗を回り、おすすめ商品などをヒアリングしました。「学生目線」を大切に、自分自身が「面白い」と思ったところをマップに反映させました。
産業社会学部 3回生 矢藤綾乃(Yato Ayano)
先輩方の後を継ぎ、閖上地区の周遊性向上に向けた取り組みに力を入れています。まだ知られていない閖上の魅力があるはずです。それを発掘し、地元の方々の思いのこもったマップを作りたいと思っています。

カナダの皆様からのご支援に感謝を込めて
学生が中心となって「閖上福興笹かまぼこ」を開発・販売

ゆりあげ港朝市協同組合や閖上水産加工業組合、一般社団法人名取市観光物産協会、株式会社ささ圭(佐々木圭亮社長、佐々木靖子専務、ともに校友)などと連携して「閖上復興感謝プロジェクト委員会」を組織し、「北限のしらす入り笹かまぼこ」を企画・製造しました。きっかけは、震災から10年を迎えるにあたり、ゆりあげ港朝市の復興にあたって支援してくださったカナダの皆様に「恩返しをしたい」という思いが膨らんだこと。閖上で水揚げされた「北限のしらす」にこの地域で培われた笹かまぼこ作りの技を合わせ、新しい商品を開発しました。永野ゼミの学生が中心となって、クラウドファンディングで開発資金を調達。またかまぼこに練り込む具材からパッケージデザイン、商品名まで、学生主体で話し合いを重ね、練り上げました。2021年3月、ゆりあげ港朝市内の交流施設メイプル館にて新商品「閖上福興笹かまぼこ」を発売し、大好評を得ました。

学生コメント

産業社会学部 4回生 中山佳小吏(Nakayama Kaori)
パッケージデザインを担当しました。デザインソフトの使い方さえわからないところからのスタート。インターネットで調べたり、有志で協力してくださった早稲田大学の大学院生に何度も教えを請いながら、デザインを完成させました。
産業社会学部 3回生 渡邉嵩輝(Watanabe Takaki)
4回生の先輩からバトンを受け、支援活動を継続していきます。この企画をきっかけに、今後は閖上とカナダとの新たな交流を生み出すプロジェクトを検討していきたいと考えています。

ゆりあげ港朝市の復興プロセスが評価されて受賞
2017年度「グッドデザイン特別賞(復興デザイン)」2021年度「日本建築学会賞(業績:復興復旧特別賞)」

ゆりあげ港朝市は2011年の東日本大震災2週間後に暫定営業を始め、2013年4月に「カナダ―東北復興プロジェクト」から支援を得てメイプル館を竣工、5月には朝市をプレオープン。そして同年12月、被災するまで30年以上にわたって朝市が開かれ親しまれてきた場所で、悲願の現地再建を実現し、グランドオープンを果たしました。

資金調達や復興状況に合わせた段階的な整備、国内外の支援をその都度上手く活用した復興計画デザインそのものが高く評価され、2017年度グッドデザイン賞の「グッドデザイン特別賞(復興デザイン)」を受賞しました。また朝市の集客と賑わい創出にあたって、専門的な見地から復興計画を策定し、献身的に推進したことが高い評価を受け、2021年度「日本建築学会賞(業績:復興復旧特別賞)」を受賞しました。

2013年

2019年

2021年

共に現地を訪れるゼミのメンバーたちと
(写真左から)渡辺悠介、中山佳小吏、永野聡准教授、矢藤綾乃、渡邉嵩輝

永野 聡
Nagano Satoshi
産業社会学部 准教授
研究テーマ:ゆりあげ港朝市を中心とする東日本大震災からの地域復興研究、高齢者の生きがい創出に資するジェロントロジー研究、抑うつ傾向のある人を対象としたウェルネスツーリズム研究、ソーシャリー・エンゲイジド・アートにおける参加に関する研究、地域資源(伝承料理や伝統芸能)の承継を目的としたシェアリングエコノミー研究
専門分野:ソーシャルイノベーション・ソーシャルデザイン、ジェロントロジー、ソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)、シェアリングエコノミー、グリーンイノベーション(脱炭素社会の実現)、震災復興まちづくり、観光社会学、アクティブ・ラーニングの教材開発、公園緑地の計画史、等

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2022年5月2日更新