Research Story 〜つながる研究、つなげる研究〜

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Story #4 近本智行

地元企業、自治体との共同研究によって、外壁冷却タイルを開発した。

地球環境負荷の少ない、かつ快適な建築・設備を考案し、持続可能な都市の実現に貢献することを研究の目的に据えています。建築設計事務所で実建物の設計を行っていた当時から、風や太陽といった自然のエネルギーをうまく利用することで、室内の温度調節や換気を促進するような建築の設計を手がけてきました。建築を気候風土に適合させることに焦点をあてる現在の研究も、こうした現場での実体験に基づいています。

とりわけ私は、企業や自治体と連携して建築物や設備を開発し、社会に問うとともに、地域資源や地元産業を活性化することを重視しています。その成果の一つが、滋賀県の近江窯業(株)、滋賀県工業技術総合センターとの共同研究によって実現した「信楽焼タイルの製造技術を用いた外壁冷却タイル」の開発です。外壁を冷却すると、屋内に侵入する熱や壁の蓄熱量を低減できます。その結果、冷房負荷を軽減し、省エネルギー効果を見込めるだけでなく、ヒートアイランド現象の緩和にもつながります。すでに実用化しており、滋賀県下のショッピングモールの外壁などに採用されています。

流体シミュレーション技術を用いて、熱負荷が減ることを確かめる。

外壁冷却タイルは近江窯業(株)が有する湿式押し出し成形技術を用いて内部に空洞を設けた中空構造の信楽焼タイルに特殊な釉薬をかけ、表面に水が拡散する層を形成しています。通常の建築外壁のタイルに打ち水をしても、水が筋状に垂れるだけで壁面に水分を留めておくことはできません。といって水分が浸透しやすい素材を用いると、外気が氷点下になった場合に凍結し、破断の原因になります。私たちの開発したタイルは、外壁に水をかけると水が素早く拡散し、外壁表面を冷却します。しかも内部には浸透しないので、凍結の心配もありません。

中空構造タイルの試作段階では、CFD(コンピュータによる流体シミュレーション)の手法を用い、遮熱性能の高いタイルの形状を検討しました。熱伝導率を算出した上で、中空層の厚さを5mmとしています。また建物に外壁冷却タイルが採用された場合の省エネルギー効果についても事前にシミュレーション解析し、建物にかかる熱負荷が減少することを導き出しました。

次いで外壁をツタ植物が覆うことで、遮熱性能を高める方法も検討しました。ツタの登はんに必要な灌水条件を検討する一方、タイル設置に伴う外壁の通気層を利用した蓄熱除去効果を見出しました。実際に、信楽に実験棟を建設し、打ち水によって、ツタの登はん性能が向上し、さらにツタが育成した後、遮熱性能が向上することや、通気層を利用した外壁の熱的効果も確かめました。

流体シミュレーション技術と共に、航空測量などにより都市を再現し、風洞実験を活用することで、都市気候の解析やまちづくり、建築計画に活かしています。

新しいアイデアが次々生まれるところが、産学連携のメリット。

産学連携の面白いところは、互いの技術や知見を提供し合う中で次々とアイデアが生まれ、新しい研究や製品開発へと発展していくことです。先述した外壁冷却タイルの開発過程でも、このタイルに新たに「吸音性能」を付加することになりました。これも性能評価を行い、設計仕様を決定する基礎データを揃えています。その他、設計事務所、建設会社、エネルギー会社、空調機メーカーなどと協力し、環境にやさしい建築の設計手法や住まい方、空調機の開発、熱源の高効率化など、低炭素社会の実現に向けた研究を実施しています。

産学連携を通して素材メーカーや設備メーカー、設計事務所、建設会社、地方自治体などと接する中で、私自身も設計者として建築に関わっていた頃以上に幅広い視野で考え、提案できるようになりました。建築に関わる研究は多岐にわたります。住宅、オフィスビル、商業施設、学校などビルディングタイプだけでも検討の余地は広範です。建築の研究の特徴は、誰にとっても当事者であるという点です。「自分が使う」という視点で眺めると、自分だけのアイデアがどんどん生まれてくるはずです。それを形にしていく楽しさを若い研究者にも知ってほしいと思っています。

  • 企業のみなさまへ

    素材メーカーや設備メーカー、設計事務所、建設会社など、建築や設備に関わる企業の方々と一緒に、地球環境負荷の少ない、かつ快適な建築・設備を作りたいと考えています。互いの技術や知見を提供し合う中で次々とアイデアが生まれ、新しい研究や製品開発へと発展していくところも産学連携の魅力です。

  • 地方自治体のみなさまへ

    環境に役立つ建築や設備に地域資源や地元産業を用いることで、地域活性化に貢献したいと考えています。

  • 若手研究者のみなさまへ

    建築や設備を「自分が使う」という視点で眺めると、自分だけのアイデアが生まれてくるはずです。それを形にしていく楽しさを知ってほしいと思っています。


近本智行

Tomoyuki Chikamoto

理工学部 教授

1994年 東京大学工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。1994年 日建設計、2003年 東京大学生産技術研究所研究員(兼任)、2004年 立命館大学理工学部助教授、2009年 同教授、現在に至る。日本建築学会、空気調和・衛生工学会、エネルギー・資源学会に所属。

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