Research Story 〜つながる研究、つなげる研究〜

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Story #6 西浦敬信

3次元音場再生の新技術を開発し、臨場感あふれる音響空間を実現。

私たちの身の周りには、あらゆる音があふれています。私は音響技術を用いて、音が活躍できる場を創出することで、世の中を豊かにしたいと考えています。

これまでの音響技術開発の成果の一つが、「3D立体音像再生装置」です。超音波を応用することで、音を立体的に感じられる3次元音場再生の新方式を開発し、臨場感あふれる音響空間を構築しました。現在主流となっている3次元音場再生方式は、聴く人の周りをスピーカで囲んだり、ヘッドホンを装着する必要があります。私の開発した3D立体音像再生装置を使えば、ヘッドホンなどがなくても、自由な位置で立体音響空間を体験することができます。

超音波スピーカは、人間の耳には聞こえない高い周波数の波(超音波)を放射します。低い周波数は同心円に広がりますが、周波数が高くなると、波は直進します。この性質を利用して、可聴領域の音波を超音波によって変調し、鋭い直進指向特性を保持しつつも人間に聴こえる高さの音を生成します。これによって、音を狙った場所にまっすぐ伝達することができます。そこで、この超音波スピーカの放射音を制御して様々な壁面に反射させることで、壁面上に様々な音像を構築することに成功しました。これらの技術を集約した特殊な超音波スピーカを10面に取り付けた正20面体の3D立体音像再生装置を開発し、情報理工学部田村秀行教授らとの共同研究において、視聴覚を融合した臨場感あふれる複合現実空間の構築に成功しました。

こうした技術や装置は、次世代の広告などにも応用することができます。各広告紙面に音を反射させることで、画像・文字情報に加え、音情報の広告も容易に実現可能となり、応用の可能性は大きく広がります。

しかし他方で音は、聴く人によっては騒音源になることもあり得ます。私は立体音響の構築だけでなく、騒音を音で打ち消す「音のカーテン」の技術や、音をある領域内に閉じ込める「オーディオスポット」も研究開発しています。

雑音・残響のない高品質な集音技術を音響センサーとして活用。

音を再生・出力する技術開発の一方で、集音に関する研究も進めています。「知的音響センサー」もその一つです。難しかったのは、音イベントをより高音質で収録することでした。高音質に音響信号を集音する技術としては、複数のマイクロホン素子を用いたマイクロホンアレーがすでに商品化されています。しかしマイクロホンアレーには、集音が困難なデッドスポット(死角)が発生するという問題点がありました。それを克服するために考え出したのが、複数のマイクロホンアレーを組み合わせたサラウンドマイクロホンアレーです。複数のマイクロホンアレーとアレー信号処理技術を用いることで、雑音や残響を抑えながら、デッドスポットなく目的の音を高音質に集音することを可能にします。さらに、集音した信号を解析することで、音源の発生時刻、区間、方位、位置、内容を推定することもできるようになりました。とりわけ私たちの提案した音源の位置や距離を推定するアルゴリズムは、日本でも屈指の高精度を実現しています。

セキュリティー、デジタルアーカイブ、広がる応用の可能性。

この技術を音響センサーとして活用し、ビデオカメラなどと組み合わせれば、特定の音に反応してそちらの方向を映したり、録画したりすることが可能になります。音響セキュリティーシステムや防犯システムの基礎技術として、展開が期待されています。

さらに音イベントを文字として記録し、発生位置や時刻情報などと合わせて構造化する音場トランスクリプションシステムを構築し、音環境のアーカイブ化も試みています。実現すれば、伝統芸能やお祭りといった無形文化財の音源をデジタルアーカイブすることができるようになります。現在、祇園祭の囃子や山鉾巡行時の音環境を高臨場録音し、その音環境を高臨場に再現することを目指しています。

「音」の技術は、実に幅広いものに応用できる可能を秘めています。テレビやビデオといった映像機器はもとより、自動車の他、あらゆる電気・電子機器に、音声や音響信号による操作支援システムを搭載することができます。幅広い分野の企業と連携し、共に音の可能性を追究していきたいと思っています。

  • 企業のみなさまへ

    音響技術は、テレビやビデオといった映像機器はもとより、自動車やあらゆる電気・電子機器に、「音」による操作支援・報知システムを搭載することができます。豊かな社会基盤の形成を目指し、研究成果を社会に還元するため、幅広い分野の企業と一緒に「音」の可能性を追究していきたいと思っています。

  • 若手研究者のみなさまへ

    「音」は我々の日常生活を豊かにする魔法の道具である一方、使い方を誤ると不快な生活へと繋がる諸刃の剣です。「音」の本質を正しく理解し、社会に役立つ研究者へと少しずつ成長することを願っております。


西浦敬信

Takanobu Nishiura

情報理工学部 准教授

2001年 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。2001年 和歌山大学システム工学部助手、2004年 立命館大学情報理工学部助教授、2007年 立命館大学情報理工学部准教授、現在に至る。日本音響学会、電子情報通信学会、情報処理学会、日本バーチャルリアリティ学会、日本騒音制御工学会に所属。

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