2012年1月30日更新

汚れた水を速効で浄化する切り札、「マイクロバブル(微細気泡)

吉岡 修哉
立命館大学理工学部准教授
土屋 貴裕(立命館大学理工学部数理科学科助教授)
博士(工学)。1970年東京都生まれ。1993年慶応義塾大学理工学部機械工学科卒業。自動車メーカーのマツダに4年間勤務後、慶応義塾大学大学院理工学研究科機械工学専攻に入学。2002年に同後期博士課程を修了。スウェーデン王立工科大学、東北大学流体科学研究所を経て、2009年から立命館大学で現職。マツダでは車体の風洞実験を担当。流体力学を専門としてきたが、今では「微細気泡」に取り組んでいる。「酸素だけでなく、炭酸ガスの気泡に関する効果や応用にもトライしています。これをウィスキーに入れたハイボールも大好きですけどね(笑)」
防災 微生物

モーターを備えた小型装置が稼働すると、水槽に貯められた水が次第にミルク色に変わっていく。目を凝らせば、極めて微細な気泡の集まりが白濁の理由とわかるのだが、吉岡修哉は「このマイクロバブル(微細気泡)が汚染水や沼などの浄化に威力を発揮するのです」と語る。

東日本大震災では東北沿岸部の水産加工施設等が壊滅的な打撃を受けた。中でも水処理設備が損壊すると排水ができなくなり、操業再開は困難になる。大型タンクや配水管の修復には費用と時間がかかるからだ。かといって排水を垂れ流せば、環境を汚染して2次被害をもたらす。そこで期待されているのが、マイクロバブルの応用なのである。

「水中の酸素によって微生物は元気になり、動物の死骸など有害な有機物を食べて分解してくれます。鉄やマンガンなどの金属も酸化して水底に沈殿することで浄化できます。つまり、水は自然と浄化する機能を備えているのですが、停電や損壊で水が滞留すると酸素が欠乏し、その能力が著しく低下します。このため高圧の酸素を水中に噴射する方法もありますが、大型の装置と電力が必要。しかも気泡はすぐに浮いて水面に達するので効率は良くない。ところが、微細な酸素の気泡なら、これらの問題は完全に解消されるのです」

前述した水をミルク色にした気泡は直径50ミクロン(20分の1ミリ)。これだけ微細になると浮力も働かなくなって「無駄なく水に溶け込む」という。気泡は「空気を細かくみじん切りにする」特殊な装置で発生させるが、機械自体は小型で電力も一般電源で賄える。すでに宮城県中部の惣の関ダムで実証実験を行って水質浄化の実績を上げており、同じ装置を宮城県内の水産加工場、食品工場や下水処理場に設置して排水処理を支援する予定だ。

「汚水を飲み水にするのでなく、排水可能なレベルにするまでがマイクロバブルの役割。それを浄水場で飲用にもできるので、発展途上国で既存の湖沼などを水源として活用することも不可能ではありません。ダム建設は環境負担が大きいですからね。また、水処理のAED(自動体外式除細動器)として地域の防災倉庫などに常備。いざという時には軽トラックで被災地に緊急配備して、浄水機能を維持する機動的な利用法も考えています」

AERA 2012年1月30日発売号掲載 (朝日新聞出版)

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