知識と情報のダイナミクスを感じてもらいたい~人を通して本を知る、本を通して人を知る~
立命館大学情報理工学部、知能情報学科 准教授
知的書評合戦ビブリオバトル普及委員会代表
谷口忠大さん
コミュニケーション。感覚的にはわかっていても、言葉にすることが難しい概念。コミュニケーションは情報伝達といいますが,例えば、テレビのリモコンを押して、電源が付く。これをコミュニケーションが取れた状態と言っていいのでしょうか。
元々、学生時代からロボットの知能を作り実験する構成論的アプローチによって、人間のコミュニケーションとは何か、また、人間とロボットはコミュニケーションできるのか、などについて研究してきました。 その流れのなかで,ある時「組織論」についての勉強会で、研究室の仲間たちと勉強会を立ち上げようとしました.その際,既存の「輪読会」のやり方だと使用する本がいまいちだと時間の無駄になってしまう,担当部分しか読んでこなくて担当以外の人がサボりがちになり盛り上がらないなどの,デメリットを多く感じました。
「イイ本に出会える仕組み自体を勉強会に取り込めないか」。そう考え、思いついたのが「知的書評合戦ビブリオバトル」です。
簡単に説明すると、各自好きな本を持ちより、それを1人5分以内に説明し、聞き手が一番読みたいと思った本を投票し、一番多く票を集めたものをチャンプ本として決めるといったものです。ルールは簡単ですが、実は奥が深く、このビブリオバトル自体が私のコミュニケーション研究の材料にもなり、学会誌にもビブリオバトルの論文を掲載しました。組織内における情報共有をどう支援すべきかがひとつのテーマになっていて、その、コミュニケーションの場として、ビブリオバトルがあります。発表者と観客との空間には、知識と情報のダイナミクスが生まれ、参加者たちはそれを肌で味わうことができます。普通の書評と違って、良いプレゼンをしなければならなかったり、聞き手も一番良い本を選択するという役割を担っているため、コミュニケーションの形が投影された書評になります。参加したいろんな人からは普通の書評ではなく、「なぜ知的書評なのかが分かった」との声も聞こえました。ここに情報共有・コミュニケーションの本質的な形が見えてくるのではないかと思います。
現代は知識がものを言う時代。受け身であると、「情報弱者」として知識社会から取り残されてしまいます。ですから、もっとアクティブに動いて、楽しんで知識を扱ってもらいたいですね。今では、関西のみならず全国の大学、書店に至るまで様々な場所でビブリオバトルが行われていますが、ビブリオバトル自体は決して、学生に向けたものではなく、こどもから大人まで楽しむことが出来る仕組みになっています。高齢者のコミュニティ作りや地域を再生する道具としても利用出来れば嬉しいですね。
コミュニケーションについて研究している理由の根底には、右向け右の世界ではない、一人ひとりの自律性が守られた社会になっていってほしいという強い思いがあります。自律的な活動を通して全体がうまくいけば、これほどハッピーなことはありません。学生の“うち”に好きなことをやっておくというのは逃げの姿勢です。社会に出てからも好きなことが出来るように、学生時代はその準備をして、しっかりと力をつけてほしいですね。
- 取材・文
- 犬塚直希(経済学部4回生)