SDGs 学長対談 / 立命館大学長 学校法人立命館総長 仲谷善雄 立命館アジア太平洋大学長 学校法人立命館副総長 出口治明 SDGs 学長対談 / 立命館大学長 学校法人立命館総長 仲谷善雄 立命館アジア太平洋大学長 学校法人立命館副総長 出口治明

chapter.01 大学とSDGs

仲谷

立命館では「学園ビジョンR2030」として、小学校から大学院に至る学園全体が、それぞれの立場から社会のあり方について考え、果敢に自由に挑戦するという決意を込めて「挑戦をもっと自由に」を掲げています。私たちはこれまでもグローバル化を基軸として、教育・研究を通じた社会貢献に積極的に取り組んできました。それらを世界の共通課題とされているSDGsというフレームで捉え直し、個々の活動を学園として支援し、さらに推進していきます。これこそが「立命館らしい」SDGsへの取り組み方であると思っています。

仲谷善雄氏 

出口

立命館アジア太平洋大学(APU)は若者の国連です。SDGsに対して意識の高い学生が世界の国々から集まるので、当然学内の感度も高い。そこでのAPUの役割は、学生たちのSDGsに対する活動をバックアップする環境づくりだと考えています。では、どのような環境が学生たちの積極的な活動を生むのかというと、ダイバーシティーなんですね。

仲谷

まさにそうです。これからの時代求められるのは、混沌とした状況から新しい価値を見出し、創造し、それを世界に発信できる人材です。そのために重要なのは好奇心と、それを支える感動体験。さらにこれらの根底にあるのが多様性、すなわちダイバーシティー環境です。立命館はグローバル化を通じて、多様性にあふれた環境づくりを進めてきました。今後はさらに「日常生活でのグローバル化」、つまり、世界を意識して日常生活を送ることが重要と考えています。そのときに、SDGsという枠組みは非常に有効なのです。

chapter.02 世界の出来事を自分事として受け止める

出口

学生たちが世界の問題に取り組むためには、その出来事が自分事になっていることが重要です。例えばAPUでは、国籍の違う学生たちが2人一室で生活をする。すると日常生活の中で会話が生まれ、異国の出来事が身近な出来事として感じられるようになる。それをきっかけに問題解決のための行動を起こす学生が出てくるのです。これが「日常生活でのグローバル化」です。このように、世界の問題を自分事として捉えるように育てるのが教育の役割だと僕は思っています。そのためには何が必要かというと、感動体験なんですよね。大学でも特に初期、さらには中学・高校時代から感動体験をすることが、学生の自主的なアクションには必要なのです。

仲谷

教育の重要な役割は、主体的に問題意識を持つための「きっかけ」づくり、そして、その意識を育てる環境づくりだと思います。AI(人工知能)にできないことは何かというと「正しく問う」ことです。これができる人材に育ってもらうには、問題意識を持ち、考え、解決していくという多様な経験が必要なのです。そのような経験の場を提供し、学生の問題意識を育てていくことが、大学としてできることだと思っています。

出口治明氏

chapter.03 リベラルアーツの学びでさらなる挑戦を

出口

人が行動を起こすときに障害となるのは、実は自分の心なのです。無意識の内に「できないかも」とバリアを張ってしまう。しかし、やろうと思えば何でもできます。無意識のバリアを外し、みんながいきいきと挑戦できるような条件を整えていくことが、これからの大学の使命だと思います。

仲谷

その通りです。そして、知識を活かしていきいきと挑戦する力をつけること、生きていくうえでの基礎的な体力、知力を養うのがリベラルアーツだと考えています。立命館大学ではグローバル教養学部をはじめとする大学全体で、そのような力をつけ、世界のさまざまな課題を発見し、解決へと導くための人材育成を目指しています。

出口

SDGsに取り組むことはまさにリベラルアーツの学びの一環だと解釈できますね。大学をはじめとした教育機関がSDGsに取り組む意義はまさにここにあるのではないでしょうか。

chapter.04 新たな学びを生み出すわくわくする大学づくりを

出口

仲谷学長が以前仰っていた「わくわくする大学をつくる」。これには僕も大賛成です。人は興味を持った事柄でないと行動ができない。ならば、やりたいことを見つけられるような「場」づくりが必要ではないかと思うのです。APUでは「One APU」というスローガンのもと、学生や教職員など身分は関係なく、みんなでわくわくする場をつくろうと取り組んでいます。日本では、学生が地方から首都圏などへ流出するケースが大半ですが、APUは逆に東京や近畿圏からの学生が全体の3分の2を占めています。これはなぜかというと、「面白い」から人が集まるのだと思っています。

マルチカルチュラル・ウィークの様子

仲谷

大学は知的創造活動の場です。キャンパスに足を運んで、目で見て、ここは面白そうだと思ってもらえる大学づくりが重要ですね。例えば、びわこ・くさつキャンパスでは、ロボットを使った実証実験を行っています。運搬や掃除などをするロボットを導入し、最先端テクノロジーを「見える化」する取り組みです。無機質な建物やキャンパスという「モノ」が知的創造活動の場という「コト」に変わる。それが好奇心を喚起し、また新たな学びが生まれるのです。この春から学園全体でSDGsと「知の見える化」という2つの「チャレンジアクション」をスタートさせ、研究や学びを実体験してもらう環境をつくり出しています。

出口

人間は感覚の生き物ですからね。五感で情報を得るためにも、キャンパスはさまざまな情報を体感できる場にしたいですね。また、わくわくを生み出す仕掛けとして、「融合」も1つのキーワードです。文系と理系、経営とデザイン…さまざまな要素が結び付くことによって、新たな価値が生まれる。それができるのはダイバーシティーがあるから。単色では混ざり合えないですよね。

仲谷

そうですね。ダイバーシティーの実現においては「混ざり方」にも留意すべきでしょう。それぞれの個性を残しながら融合することが、新たなものを生み出す際には重要であり、多様な融合が起こる仕掛けづくりがカギとなります。

出口

APUで開催している「マルチカルチュラル・ウィーク」というイベントも融合する仕掛けの1つです。複数の国・地域の言語や文化を週替わりで紹介するイベントですが、運営メンバーのうち、当該国の学生は半分以下にするよう指導しています。さまざまな国と地域の学生が、それぞれの文化を持ったまま交流することで、新たな刺激を与え合っているのです。

chapter.05 縦・横のつながりがきっかけを生む

仲谷

SDGsに取り組む大きな意義は、世界共通の課題に取り組むことを通して、新たなつながりが生まれることにあります。1つは、学部や大学間、さらには企業・地域・社会といった横のつながり。もう1つは、小学校から大学院、さらには卒業後といった縦のつながり。そのつながりの中で、自分の考えを持つとともに、他者の考えを理解することで新しい価値を生み出せるのです。

出口

地域に開かれた立命館学園のキャンパスは、縦にも横にも広がっていくことのできるふれあいの場です。例えば大阪いばらきキャンパスは、キャンパス内に公園があり、子どもから大人まで、市民の皆さんと学生が一体になれる。そのようなダイバーシティーの中での感動体験が、一人ひとりがSDGsを考えるきっかけとなるでしょう。

仲谷

立命館大学で開催される「Sustainable Week」も縦横のつながりを生かした取り組みの1つで、学生発信の活動が地域を巻き込み、それを教職員が支えています。各大学・附属校、そして学園に関わるすべての人が、縦横にBorderを超えていく、果敢に自由に挑戦する、これこそがまさに立命館のSDGsの特徴だと考えています。

SDGsへの理解を深めるSustainable Weekの一例

持続可能な社会の実現に向けて行動する学生たち 持続可能な社会の実現に向けて行動する学生たち

立命館では多くの学生たちが、SDGsの達成に向けて具体的なアクションを起こしています。
そんな学生たちに、それぞれの取り組みへの思いを伺いました。

立命館大学 社会に開かれたSDGs研究室で課題解決に向けたムーブメントを起こす

2017年、実行委員のメンバーとして日本初の学生によるSDGs体験イベント「Sustainable Week」を開催。その経験を生かして設立した一般社団法人では、SDGsを1つの研究対象と定め、産官学の壁を越えた研究・実践に取り組める組織と位置付け活動しています。その中で特に意識しているのは「いかにしてアクションを起こせるかを仕掛ける」ということ。行政単位・教育機関単位でのSDGs導入を企画立案段階からサポートし、理解にとどまらない「アクション」を推進しています。SDGsは達成すべきゴールですが、達成までのプロセスは私たち自身が考え実行せねばなりません。そのためにも私自身活動を通して学びを深めながら、視野を広げ、社会課題の解決に邁進したいと考えています。

活動概要
【一般社団法人SDGs Impact Laboratory】 サステイナビリティーに関する専門教授や起業家などと共に立ち上げた「SDGsに関する社会に開かれた研究室」。現在は滋賀県草津市のSDGsに関する新人職員研修や、京都市での大学生の学び・実践の場の提供などを行っています。
一般社団法人SDGs Impact Laboratory 設立時社員・理事 生命科学部 4年生 戸簾 隼人 さん

戸簾 隼人さん
一般社団法人SDGs Impact Laboratory 設立時社員・理事
生命科学部 4年生

立命館アジア太平洋大学 熱意を伝えていくことが、人々に影響を与え多様性を受け入れる社会をつくる

APUの国際経営学部を2010年に卒業し、オーストラリアやニカラグア、シンガポールと世界各地を飛び回って活動を続けてきました。仕事の傍らNPO活動を続け、母国インドネシアでろう者がウェイトレスやコックとして働くカフェをオープン。現在は日本に戻り、APUの博士課程で研究に取り組んでいます。グランプリを受賞して感じたのは、熱い思いに壁はないということ。女性でも外国人でもマイノリティーでも関係なく、「実現したい」という熱意があれば周囲の理解は得られるのだと実感しました。特に学生の間は、周りに協力し合える仲間がたくさんいます。彼らと共に活動し、周囲の意識を変化させていくことが、多様性を認め成長するためのカギだと考えています。

活動概要
【「大学SDGs ACTION! AWARDS 2019」グランプリ受賞】「Plushindo:チャンスを作り出し、視点を変える」でグランプリを受賞。インドネシアのろう者が作成したぬいぐるみを使い、ジャカルタと農村地域に教育の機会を提供する活動を実践。ろう者の就業の場の創出にも取り組んでいます。大学から大学院へと進学し、APUでの学びを続けながら精力的に活動を行い、母国の発展に貢献しています。
アジア太平洋研究科アジア太平洋学専攻 博士課程後期 1年生 ディッサ・シャキナ・アーダニサさん

ディッサ・シャキナ・アーダニサさん
アジア太平洋研究科アジア太平洋学専攻
博士課程後期 1年生

東洋経済ACADEMIC 「SDGsに取り組む大学」掲載

SDGs SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS