<取材報告>

〜河森正治氏へのインタビュー〜




AAP:

まず一点目なんですけれども、アニメーションという業界の環境がここ数年でかなり激変してると思うんですけれども、そういう中でこれから求める人材というものはどういったものでしょうか?

河森 :

そうですね。やっぱり今回の講座の内容にもあるみたいに、とにかくオリジナリティーが個人的にはやっぱ一番期待する部分ですよね。しかも「日本で一番」ではなくて、「世界で初めて」とかね。「日本で初めて」じゃなくて、「世界で初めて」とかじゃない限りやっぱ「つまらないな」ってのがあって、「日本で初めて」とか書ける人は結構いるんだけれども、「世界で初めて」が書けるような人が増えていく。それは絵でもそうだし、物語でもそうだし、それからテクニックでもそうですよね。そういうのが一番気になりますよね。

AAP:

やはり世界的に見てオリジナリティーのレベルというのは、現状ではまだまだ低い所なんでしょうか?

河森 :

低いとは言い切れないんですけども、オリジナリティーが世に出にくいのが日本の状況ですよね。純粋に比較したらそんなに差はないんですけれども、なかなかそういう企画が通らなかったり。要するに風土としてそれが弱い、新しいものをやろうとするとなかなかそれが受け入れられにくい風土があるんで、そこを変えていきたいと思いますよね。

AAP:

本日のお昼頃にフォーラムで、幾原監督が特にこれから求められる人材という話題が出まして、そのお話の中で幾原監督はパーソナリティーということを特に強調されてお話しされていたんですけれども、その点について河森さんから何かありますでしょうか?

河森 :

恐らくね、そのフォーラムの講演を聴いていないから分からないんですけれども、一応推測で言うと、明日の「総合オリジナリティーコース」の話す内容にも入ってるんですけども、オリジナリティーとパーソナリティーって、やっぱ、微妙に違うんだけどすごく関連してる。パーソナリティーっていうとやっぱ、一つの個性ですよね。その人なりのものを出すと。特に幾原さんなんか演出とかメインの方なんで、まあ、ある種の素材があったときに、それをその人流にいかにアレンジしていくかとか、その人の色を付けていくか、ということを言われていると思うんですよ。それも本当にすごく大事だと思うし。で、僕の場合だと担当分野が微妙に違うんで、そうなるとその前の部分、その前の所でのオリジナリティーっていって、パーソナリティーもすごく関わるんですけども、その人らしさとは違うやっぱ、初めてであるということ。この世の中にまだ無かったものを生み出すということですよね。その時に当然本人の色が付くから、まあオリジナリティーやパーソナリティーが両方含まれるであろうと。そういう意味でユニークな人、人材が求められるっていうのが一番近いでよすね。

AAP:

今回のワークショップで、河森さんご自身も選考に関わられたとか。

河森 :

選考って言っても、アレですよね。オリジナリティ養成コースに関してですよね。

AAP:

はい、それで七人の方が選ばれたということで、選考の基準みたいなものをお聞かせ願いたいのですが?

河森 :

選考の基準はねえ、これは本当にね、微妙な基準ですね。

AAP:

微妙、ですか?

河森 :

うん、あの、どう言ったら良いんだろうな…。可能性みたいな所ですよね。

AAP:

可能性?

河森 :

うん、よくまとまってる企画書も随分あるんですよ、他にも。だけど、まとまり過ぎちゃってるっていうのかな。

AAP:

完成してしまっている?

河森 :

完成してしまってて、変わっていくとかね、新しい方向に行く気配が少ないとかね。もしくは、例えばロボットものは全部もうそれだけでだめとかね。要するにそういうのは既にいっぱいあるじゃないかと。それが別にそういう作品があっちゃいけないとかそういう意味じゃないんですけれども、オリジナリティー養成コースというときの募集条項でそれを出してくるというのは、もうアウトですよね。

AAP:

なるほど。既存のものではなくて、いかにその未知の分野に切り込んで行こうとしているか、ということですか。

河森 :

行こうとしてるかと、それがやっぱ一つ基準になるのと、後もう一つはそのワークショップを成立させるときのバランスとかもとるわけだし。実際、十人くらいの中で最後に七人に絞り込むのは大変だったんですよ、実際は。
後はまたね、人材で言うと今回の中には時間がかかりすぎて入れられない、シナリオライター。とにかく絵(アニメーター)はそれなりのレベルに達しているんだけども、シナリオライターの絶対数というのがないよな。
オリジナリティーがあるか、パーソナリティーがあるか、どちらかの条件を満たしたシナリオライターがあまりにも少ない。もちろんいない訳じゃないんですけども、そこが一番弱いんですよね、日本の場合に。それが何とかならないと。もちろん当然いい人もいるんですけども、どうしてもなあって感じですよね。漫画原作のをアレンジして書ける人はいても、オリジナル作品を書きこなせるシナリオライターがすごく少ないんで、今回のオリジナリティー養成コースっていうのはそういう方向に進む人もいてくれていいなと。それで、ビジュアル方面に進む人もいてくれいいしと、演出方面に進む人もいてくれていいし、それは、だから問わずに選んだつもりなんですけれどね。

AAP:

先程、最近の作品であんまりオリジナリティーが無くて面白くなくなってきたみたいな話が出ましたけれども、現状としてはやはりそういう風潮を感じられますか?

河森 :

面白くなくなってきたって言うよりも、みんな似てきたっていうのが一番ですよね。これだけ細分化して、いろんなジャンルがあって、作品数が増えた割にどれ見ても似たように見えちゃう。それが一番問題だし、それは日本だけの現象じゃなくて、ハリウッドとかなんか見てもパート2ものだらけ。パート2、パート3だらけって言えるし、世界的に今、もうオリジナリティが壊滅の危機に瀕してるんじゃないかと。極論しちゃうとね。で、それがすごく気になるっていうか、その中でオリジナリティーを求めてるってムードがあれば良いんですけれども、ムードが弱くなって来ちゃってる。アレと似てるから面白いとか、あそこをパロディにしてるから面白いとかいう風潮がすごく気になるっていうのかな。それって、やっぱ一代限りで終わっちゃうんで、そういう作品があるのは構わないんけども、全然構わないし、そういうのはそれで面白ければ良いんだけども、それを続けているとどんどん資源が枯渇していくっていうのかね。そこがやっぱ、気になる所ですよね。

AAP:

やはり『機動戦士ガンダム』であるとか『超時空要塞マクロス』であるとか、それぞれエポックメイキングと呼ばれた作品が過去、いくつもありますよね。ここ数年でそういった感じを受けられた作品というのは見かけられましたか?

河森 :

本当の意味でのエポックメーカーは、やっぱ少ないですよね。やっぱアレをリメイクしたなとか、アレとアレを組み合わせたなっていうのがすごく多い。それはヒットするっていうのは別問題なんで。かといってね、ヒットするとか売れるかしないと、まだこれだけ大きな予算がアニメーションにかかるんで、作品が通らないというジレンマがあるんですけども、その辺については明日詳しく、みたいなことになって来るんで(笑)。

AAP:

ではそこら辺は、明日ぜひ聞かせていただきたいと思います。

河森 :

でも、そこのバランス感覚がすごく難しいっていうのかな。突き詰めたちゃったらオリジナリティーなんて演劇だったらシェークスピアで終わっているとかね、色々言われちゃうんですけれども。そこまで突き詰めない範囲でなんかもう少しなっと、思っちゃうんですよね。

AAP:

明日のワークショップではそういうオリジナリティーを伸ばして、という風なことを考えていらっしゃるんでしょうか?

河森 :

伸ばしていくっていうか、見つけるとか。当然オリジナリティーの話も出れば、パーソナリティーの話も出るだろうし、それから売れる売れないの話も出るだろうし。それは、どれもすごくリンクしてるけれども、やっぱり、微妙に違う。その違いを見せると結構泥沼にはまるんで、オリジナリティーはあるけども売れないとかね、売れるんだけれどもオリジナリティーがないとか、オリジナリティーはないけれどもパーソナリティーはあるとか色々あるんでね。

AAP:

微妙な、その?

河森 :

微妙なそのね、そうそうそうそう、もちろんそれが何%づつとか色々あるんでしょうけど。

AAP:

なかなか全てがそろった、というのは難しいと。

河森 :

それはね、本当は理想的には全部。ものすごくオリジナリティーがあって、なおかつ、普遍性があればそれは自動的に全部の条件を満たすだろうと。普遍性が無いオリジナリティーは条件を満たさないんだけれども、そこが見つかりさえすれば、後のパーソナリティーも売れるもついて来ちゃうんで、それでその根幹の話ができればいいなと思うんですけれどもね。ただ、最も分かりにくい話かもしれないし。でも、ある種のカンみたいなものがあって、ある臨界量を超えた瞬間にこれはオリジナリティーがある、ないってのがね、分かるようになるんですよ。で、それってもう個人の感覚だから他の人から見ればオリジナリティが無いよって言われちゃうかもしれないんだけれど、でもなんかね、突破する瞬間てのがあって、その時がすごく楽しい。その時の快感を覚えちゃうとね、他のものを創るのが面倒くさくなっちゃってね。こうなったら良くできちゃうからやめようとかね、こうやったら面白いのできちゃうけど普通になるから止めようとか、そういう思考になっちゃうんで。だから、あまり僕の言う方法論通りにやると売れなくなるかもしれないですよね。僕の言う方法論でやるとなかなかね、ものが通りにくくなるかもしんないけども、その辺は逆にそうじゃなくて、こうすれば売れるとかいう話もできるんで、それを交えてやりたいと思いますね。

AAP:

最後に一つお伺いしたいんですけども、今回のこの総合オリジナリティーコースに参加する受講者にぜひ学んでいって欲しいものとかありますでしょうか?

河森 :

それ、実は明日話そうと思ってたんだ(笑)。まあ、今話してたこともそうなんだけど、なんだろな、やっぱ何にもなかったところからものを生み出す? もちろん、実際には現実の社会があったりするし、過去の作品があるんだけれども、一からものを生み出すんじゃなくて、0(ゼロ)に限りなく近いところから何かを生み出すっていうあの、何とも言えない一種のカンだよね。一種のカンとかセンスみたいなのが分かればすごく、分かればっていうのはないよな。それがその人なりのね、僕の言うことなんか真に受けなくて良くて、そんなのじゃなくてもっとね、こっちの方がオリジナリティーがあるとかって思ってくれて全然構わないんで、そういうヒントになったら面白いし、で、そんな瞬間ってやっぱホントおもしろいんですよ。なんかね、口では言えないぐらい一種の快感があるというかね。そういう瞬間とかが味わえるような、そこまでいけるかどうか分からないけども、その方向に向けてなるべく進められたらいいと思うんでよろしくお願いします。

AAP:

こちらこそよろしくお願いします。ぜひとも明日、そういうことを感じ取りたいと思います。どうもありがとうございました。


戻る

AAP HOME

AAP

VVP

Animation Archive

取材報告