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2018/07/22

若ゃー衆の柿盗み


 むかーし、増間ん若(わけ)ー衆(し)が六人、十夜(じゅうや)ん夜に、「柿ぃ盗みぃ行ぐべえや。」って話が決まってな、おぼろ月夜ん中を出かけることんしたぁだ。

 こんころは、柿ぃ盗むっちゅうことは、自分が食う分(ぶん)だけ取んなら、悪(わり)いことでぇなぁっただって。

 柿ぃ盗む時んなって、見(め)っかっとおいねゃーっちゅうわけで、一人を見張りにすっことん決めたぁだ。見張りはくじ引きで決めべえって、竹ん枝ぁ折って、いちばん長(なげ)ゃーのを引いたぁ者(もん)が見張りんなんべえっちゅうことん決めたぁわけだ。

 くじぃ引いてみっと、今年若(わけ)ゃー衆(し)ん仲間入りしたぁ一番若(わけ)ゃー男(おとう)が、見張りん当たっちまったぁだ。

 そんで、見張りん当たったぁ男(おとう)は、心配(しんぺゃー)んなって、

「人が来たら、あじして合図すればいいだかい。」

って聞いたぁわけだ。そうすっと、

「そうだなぁ、あじしょうか。」

ってみんなは考(かんげ)ゃーたけん、なかなかいい考(かんげ)ゃーがうかばねゃーで困っちゃったぁだって。

 ちょうどそん時、マツムシが、「チンチロリン。」って鳴(ね)ゃーたぁのを聞いて、

「そうだ、あん声がいいっぺ。」

って一人が言うと、いい考(かんげ)ゃーが浮かばねゃー他(ほか)ん者(もん)も、

うん、それがいいや。」

って、マツムシん声ぇ合図にすっことん話が決まったぁだ。

 合図が決まっと、五人は、見張りん男(おとう)に、

「いい柿ぃそうっと草ん上へ落とすかんな。」

って言(ゆ)って、木ぃ登って行っちまったぁだ。

 ところが、木ん上へ上がってったぁ者(もん)は、自分がうんめゃー柿ぃ見つけて食うのん夢中で、見張りん落としてやっことをすっかり忘れちゃったぁだ。

 見張りん男(おとう)は、落ちてくる柿は、渋(しび)いやつか食いかしだぁもんだかん、うんめゃーのが食いてゃーって、なまつばばぁり飲み込んでたぁけん、とうとうがまんができなぁなって、

「チンチロリン。」

ってやってしまったぁだ。

 そうすっと、木ん上ん仲間はおったまげて、木からすべり降りて来て、

「おい、どぅへ来たぁだよ。誰(だあ)も見(め)えねゃーでよ。うそっぽーだっぺ。」

って言(ゆ)ったぁとうろが、

「あんが。来たぁだと思ったかん合図したぁだよ。うんめゃー柿ぃ置いてってくらっしゃーよ。」

って言って、やっと、みんなと同(おんな)じようなうんめゃー柿ぃもらって食うことが出来ただ。

 仲間ん者(もん)は、めっかんねゃーのがわかっと、また木ん上へ上がって行っちゃった。見張りん男は、木ん根元からちっとばぁし離れたところさ行って、柿ぃ夢中んなって食ってたぁだ。

 そうすっと、仲間ん一人が柿ん木てっぺんまで上がって行ったぁもんで、枝が折れて、「ポキーン。」ちゅう音が回(まあ)りに響いた。静かな月夜だったもんで、柿ん持ち主ん家(うち)まで聞こえちゃったぁだ。

 ちっとばぁしすっと、そん家んおやじさんが外へ出て来て、じいっと柿ん木ん方をにらんでいたぁだ。そん時また、「ポキーン。」って木ん枝ぁ折った者(もん)がいたぁもんだかん、

「こん柿どろぼう。どんやんどもだぁ。とんでもねゃーやんどもだぁ。」

って、棒ぉを持って近じいて来たぁもんだかん、見張りん男は、

「チンチロリン、チンチロリン。」

って合図したぁわけだ。

 だーけん、仲間ん者たちは、また見張りが柿ぃ欲しゅうなったと思って、「ポトン、ポトン。」って柿ぃ落として、知らねゃーふりぃして柿ぃ食ってるもんで、見張りん男は困っちまった。

 しょうがねゃーと思って、

「チンチロリン、チンチロリン、チンチロリン。」

って大声でぶっつづけにどなった。そうすっと、おやじは、「どろぼうぉ見(め)っけたぁ。」

って、棒ぉ振り上げてすっ飛んで来たぁかん、見張りは柿ぃおっぽり出してぶっとんで逃げちゃったぁ。

 おやじが、

「どーんやんどもだ。とんでもねゃー奴(やつ)だ。」

って追っかえて行ったぁあと、仲間はぶったまげて木からおりて逃げちまったぁだ。

 おやじは見張りん男を逃がしちまったぁもんで、すぐに引っ返(けゃー)して来て、木ん上をきょろきょろ探し回(まあ)ったぁけん、そん時は、はあ、一人もいなぁったもんで、

「おいねゃーやんどもだ。」

って独り言を言いながら、家(うち)ぃ入(ひゃー)ってったぁっちゅう話だ。


【注釈】


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