第一章 『文選』全體像の概觀 |
五、全文體作品の作家別統計による分析
B.賦の分野による分析
(1)潘安仁 8篇12,458字
(2)張平子 5篇12,314字
(3)宋玉 4篇2,784字
(4)班孟堅 3篇5,511字
(5)楊子雲 3篇4,355字
(6)司馬長卿 3篇4,249字
(7)左太沖 3篇10,091字
(8)陸士衡 2篇2,294字
(9)鮑明遠 2篇851字
(10)江文通 2篇1,132字まず賦の分野においては、屬性として作品の篇幅が比較的長大である關係上、自然、採録數に限界が生じ、『文選』全體で56篇の採録に終わっている。そのように窮屈な情況中にあっては、一作家に突出して多數採録することは相當困難であるにもかかわらず、晉代の潘安仁賦が8篇(12,458字)、後漢の張平子賦が5篇(12,314字)も採録されており、兩者の賦のみでほぼ全體の四分の一をも占有している。この事象は『文選』撰者の兩者の賦に對する極めて高い評價の軌跡を示すものであることは明白であろう。その外、突出していると言う程ではないが、前漢の司馬長卿賦が3篇(4,249字)、楊子雲賦が3篇(4,355字)、後漢の班孟堅賦が3篇(5,511字)の如く、漢代の三者の賦が相對的に多數採録され、先の張平子賦の五篇と合算して「漢賦」の採録數が九篇に上っているのが目立つ。これは『文選』撰者の司馬長卿賦等に對する高い評價を示すとともに、「漢賦」全體への重視を物語るものと見ることができよう。
以上の分析結果は全體の分析に據って既に得られた、『文選』の撰者は漢代と晉代を賦の二大盛期と見て、最も重視して選録していたという結論と一致している。
また、「文選序」において「荀宋之を前に表し、賈馬之を末に繼ぐ」と述べられている通り、賦の源流として荀卿と宋玉の賦が存在したと明記されている。それにもかかわらず、實際は、『文選』は一方の荀卿賦を全く採録せず、宋玉賦のみを四篇も採録している。このことは、『文選』選録の軌跡を窺う上において少しく注目に値する現象と言えよう。
荀卿賦の特徴は主として「質」に勝る表現によって「理」的内容を賦しているところにあるのに對して、宋玉賦の特質は「文」に勝る表現で「情」的内容を賦しているところにある。(宋玉の四賦は『文選』の「部立」中においてすべて「情」の部に分類されている。)『文選』の撰者はこの甚だ對蹠的な特質を有する兩賦を比較した結果、宋玉賦の方を高く評價して、四篇も選録したのである。この事象を勘案すると、『文選』はまさしく「文」に勝る「情」的内容の賦を評價して選録している軌跡が見えてくる。これは「文選序」の所謂「沈思」「翰藻」という規準にも合致するものであると言える。