第3回 2008年10月11日 
「ヒットの理由


講師:亀田 誠治(かめだ・せいじ)先生

1964年6月3日生まれ。辰年NY出身。
早稲田大学卒業後、’89年頃よりアレンジャー・プロデューサーとしての活動を始める。
ベースプレーヤーとしても数多くのセッション、ツアーに参加。
これまでに椎名林檎、スピッツ、平井堅、アンジェラ・アキ、スガシカオ、絢香、エレファントカシマシ、秦基博、ET-KINGなどのプロデュース&アレンジを手掛けている。
2003年、椎名林檎らと東京事変を結成。
2008年、期間限定ユニット The THREE〈布袋寅泰×KREVA×亀田誠治〉を結成。映画「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」主題歌「裏切り御免」をプロデュース。


「ヒットの理由




はじめに

 

毎回、皆さんに配っているアンケートを見るのが非常に楽しみなんですよ。今日もじゃんじゃん書き込んでいただきたいと思います。僕がものづくりをしていくうえで、現場で触れ合った人たちの言葉はすごく参考になり、いつも刺激を受けています。今年で講座は3回目ですが、毎年この季節になると立命館大学で講義したくなる自分がいる、というのが本当のところです。
 これまでは配信のことや、ヒット曲のツボみたいな話をしてきたのですが、今日は一気にQ&A方式でどんどん答えていこうと思います。アンケートの中で、「亀田に聞きたいことは?」という質問をずっと投げかけていたのですが、講義の最後の質疑応答だけではなかなか答えることができなかったからです。もし、僕が答えている間に聞いてみたいことが生まれたら、遠慮なく手を挙げてください。僕も精一杯答えたいと思います。

Q1. プロデュースするうえでのモットーは何ですか?

まず、プロデューサーという仕事について簡単に説明しようと思います。ずばり音楽プロデューサーというと、首にカーディガンなんか巻いて「亀田ちゃん、最近どうよ」なんて言ってる脂ギッシュで業界っぽい人を想像する方がいらっしゃるかもしれませんが、僕が今まで仕事をしてきた中で、そのような方は一人もいません。あれは過大なデフォルメというか、強調表示された表現です。
 音楽プロデューサーというのは、野球やサッカーでいう監督のイメージです。選手がアーティストだとすれば、選手にはいろんなプレーヤーがいます。例えば、「こいつに何番を打たせよう」とか「こういう戦略で今日は戦おう」というふうに戦略を考えることが、アレンジやサウンド面のプロデュースになるわけです。それからチームというものが音楽制作にも存在していて、新人開発をする人、レコーディングのエンジニアやPV撮影、ジャケットデザイン、宣伝のスタッフもいます。このようなチームをまとめるのが音楽プロデューサーの仕事です。
 僕の場合は、ミュージシャンとしてベースを弾いたりステージに立ったりもするので、選手兼監督みたいなところもあるのですが、楽器などは演奏せずに監督業やプロデュース業をされる方もいらっしゃいます。例えば青山テルマちゃんなどをプロデュースしている川添象郎さんもそうですし、ケミストリーや平井堅君の『楽園』をプロデュースした松尾潔さんもそうです。
 そこで、プロデュースをするうえでの僕のモットーですが、とにかく一番心掛けているのは、「アーティストの持ち味を生かす」ということです。そのアーティストを僕色で染めるのではなく、そのアーティストの中に僕が入っていく。基本的にはそういう形でプロデュースをしています。これが僕にとってすごく大事で、椎名林檎さんのプロデュースもするし、平井堅君のようなR&B、ポップス系のこともやる。それからアンジェラ・アキさんのようなソロアーティストもやるし、スピッツのようなバンドのプロデュースもしますが、毎回アーティストの中に自分が入っていって、新しい自分の中でページを開けていくというやり方をしています。
 プロデュースするうえで一番大事なことは、あれこれ論議したり能書きをたれる前に、そこにある音楽に素直になることです。スピッツであれば、マサムネ君がつくってきたデモテープを聴いて、その曲のメロディーや歌詞の良さを最大限に生かすにはどうしたらいいかということを考えます。レコーディングの最中でもいろんな意見が出てきますが、そこで、「いやいや、ビートルズはこうやっていたから」というような方法論で入っていくのではなく、今そこにある音を聴いて、「こうした方がいいよね、じゃ試してみよう」という入り方をします。試してみてダメであれば違うアプローチをしてみるというように、僕はとにかくそこに流れている音楽に対して正直になります。というのは、僕はクインシー・ジョーンズというアメリカの黒人の大プロデューサーをとても尊敬しているからです。70歳を超えた今もまだ現役で、マイケル・ジャクソンなどを世に出したすばらしいプロデューサーですが、僕は“Music comes first”という彼の言葉が大好きです。これは、「まずは音楽に聞け」という意味らしいのです。僕はこの言葉をいつも忘れないように心掛けてスタジオワークに励んでいます。
 それから、大抵の仕事は予定通りに進まず、必ずトラブルが起きます。これも僕の大好きな言葉で「朝令暮改」というのがあるのですが、朝出した伝令が夕方には変わってしまうということです。「亀田さん、さっき言ったことと違う」ということが一杯出てくるんですが、それは僕の中ではトラブルに対処するために考えて、前向きな結果を得るために必然的に起こっている「朝令暮改」という現象です。1つのイメージやビジョンにとらわれず、その局面局面で “Music comes first”という大原則に立ち戻り、最適な判断をするということを大事にしています。
 それからもう1つ大事なことは、欲張らないこと。音楽をつくっていると、いいテイクが録れたり、いい歌が録れたり、いい曲が出来上がってきたりします。その「いいな」と思った時点で止めるのです。それ以上にトライしたいことは次の作品でやる。でも、何か1点でも気になる場合は絶対にこだわって直していきます。僕は「盆栽をいじるように」とよく言うのですが、「いいな」と思った瞬間で止めて、俯瞰で見てみて、余計な葉っぱが飛び出ていると思ったらちょっとハサミを入れて磨き上げていく。そのように「いいところで止めて、欲張り過ぎない」ということがすごく大事だと思うのです。
 音楽やクリエイティブなものは、生まれた瞬間の温度感というのがすごく大事で、欲張りすぎたり、「いいけれども違うパターンも試してみよう」みたいなことをやり続けていると、その熱がだんだん冷めてきて、ありきたりな結果になってしまうという経験を僕は一杯してきました。先ほど僕はアーティストの色に染まっていくと言いましたが、いいものができているのに、新しいアプローチをしようとするときは、「もうここらへんで止めておこう、これでいいよ」と言って、その部分を瞬間冷凍してしまうという手法を基本モットーとしています。
 また、社会人としての基本的なマナーを守るということもすごく大事なことです。アーティストが書いた曲がレコーディングされて、世の中に出るまでには数カ月掛かりますが、その間にはすごくたくさんの方が関わっていて、僕が「う〜ん、アイデアが湧かない」と言って遅刻をしてしまうと、いろんなところにしわ寄せが来ます。その小さな緩みが、結局作品をヌルイものにすると思うのです。音楽をつくっている人たちはすごく自由で、サラリーマンとは違う花園のような世界を生きていると思われているかもしれませんが、そんなことは全くなくて、社会人として守るべきことは同じです。「遅刻をしない」「言い訳をしない」「締め切りを守る」ということを僕はすごく大事にしています。それでもたまに遅刻してしまうことがあるので、そのときはとても反省します。社会人としての最低限のマナーを守るということが、プロデュースをするうえでもすごく大事なのです。
 それから、今のマナーということにも通じるのですが、一緒にレコーディングをしているアーティストやスタッフには、気持ちよく仕事をしてもらいたいと思っています。例えばあるアーティストのレコーディングをしているときに、ほかのアーティストの話をしないように気をつけています。一緒にものをつくっている空間では、「僕はあなたのこと、あなたの曲のことしか考えていないですよ」ということを押し出していく。そうするとそのアーティストも僕の熱意に誠意を持って応えてくれるのです。なあなあになってしまうと緊張感が薄れてしまって、作品の純粋性が損なわれていくような気がします。

Q2.音楽プロデューサーとしての地位を確立するまでの経緯を聞きたいです。

自分の地位が今どれくらいのところかというと、まだまだ通過点だと思っています。頂上に自分がいて、上から目線でものを考えることは絶対にない、ということを前提で話をします。まず、プロデューサーとしての地位を確立したり、地位を得るための確実な方法論というのはたぶんないと思います。僕は今年で44歳になりますが、仕事を始めたのは24歳くらいでした。大学を卒業してから2年弱ほど仕事のない時代があって、アルバイトをしながらデモテープをつくっていました。ですから、プロになってやり続けてきたことが、僕をプロデューサーという今の場所に置いていると思うのです。
 では何をしてきたかと言うと、「作品・音楽が良くなるためには何でもやった」ということに尽きると思います。自分をベーシストからプロデューサーという領域にはみ出させたのは、自分が関わる現場において、できる限りのことにトライし根気強くやってきた結果だと思います。そのためには、想像を絶する時間と労力を掛けています。朝の5時、6時くらいまで作業して、次の日は朝9時くらいから何かを始めるというようなことは日常茶飯事。さすがに、最近は年を取ってきたので深夜の作業はつらくなりましたが、20代のころは平気でした。レコーディングをしたり、曲をつくったり、ベースを弾くことが楽しくて、現場に行くといろんな疑問が沸くんです。「このメロディーをこうすれば盛り上がるのに」とか「この歌詞、なんか生ヌルイんだけど」と思ったときに、「ここのメロディーについてこういうのを考えたんですけど」とか「ここの歌詞、こうしたほうが良くありませんか」と言ったり、「そういう作曲家を知ってます。僕の友だちです」とか、「僕に曲を書かせてください」といった話をしました。そうやって、「この音楽をもっと良くしたい」という気持ちで自分が動き出したことから、自然にプロデュースという仕事の領域に入っていったという感じです。
 だからプロデュースの領域に入っていく20代の頃は、お金に関しては全く割が合わなかった。僕が張り切ってサビのメロディーの一節を考えたり、作詞家を紹介してもお金が発生するわけではなく、朝の5時まで頑張ろうと夜の11時で止めようと全く関係ないのです。でも、作品を良くしたいという気持ちで頑張れたんですね。
 そんなことを積み重ねているうちに、頑張っている姿を誰かが見ていてくれるもので、「じゃあ次の曲、亀ちゃんに頼んでみようか」となる。このあいだの曲はアレンジ、いわゆるオケを録るところまでだったけれども、次は歌まで録らせてもらう。そして選曲にも関わらせてもらうというように、話が徐々につながってプロデューサーになっていったという感じです。
 やっぱり人間ってどんな仕事をやっていくのも信頼が大事だと思います。信頼を裏切らないということを積み重ねていくと、必ず次のステップが訪れてくるので、またそこでできる限りのことをやる。僕はそうやってミュージシャンとしてやってきた結果、いろんなアーティストに出会い、そしてプロデュースする機会に恵まれ、プロデュースしたものの中からヒット作が生まれた。そういうことを20年近く繰り返していくうちに、自然とここにきたということです。
 今、自然にプロデューサーになったと言いましたが、「名実ともに」という言葉があるように、「名」と「実」の両方が伴ってはじめてプロと言えると思っています。例えばCDに表記されるときも、「Produced by 亀田」にしてくれとか、今日のプロフィールも「音楽プロデューサー 亀田誠治」としています。自分の肩書き・看板をあえてプロデューサーとすることによって、自分の中でもプロデューサーでありたいという気持ちが強くなり、プロデューサーとしてしっかりやっていくためにはどうすればいいのか、ということを考えるのです。「今、自分はどういう立ち位置にいるのだろうか」「一般の方々からはどのように見えているのだろうか」「僕はちゃんとアーティストからプロデューサーとして認識されているだろうか」というような検証ができるようになり、自らプロデューサーと名乗ることで、ギャラではなく成功報酬をいただいているのです。


Q3.ベーシストとプロデューサーで音楽への関わり方に違いはありますか?その切り替え術はありますか?

 そこにある音楽やアーティストを支えるという意味では、ベーシストであることとプロデューサーであることの境目はないですね。言い換えれば、切り替えではなくて両方がオンである状態です。常に自分はベーシストであるし、プロデューサーである。でも、得てしてすばらしいミュージシャンというのは、プロデューサーという肩書きを名乗らなくてもプロデュース能力があるものです。例えば、レコーディングにいつものギター仲間を呼ぶと、相談も打ち合わせもしていないのに、その曲にぴったりのフレーズや、鳥肌が立つようなフレーズを弾いてくれたりする。それっていうのは、そのギタリストにプロデュース能力があるということだと思うのです。ですから、プロデューサーとアーティストには、明確な境界線があるように感じるかもしれませんが、実は潜在的には同じところで結びついているのではないかと思います。なので、切り替え術はありません。
 ただおかしなもので、例えばスピッツのレコーディングをしていると、ベースはスピッツの田村君が弾くわけです。彼のプレーを見ていると、「かっこいいな、うまいなあ」と思うんです。そして、僕は人のプレーに関してはすぐOKを出してしまう。でも、自分のプレーに関しては細かなところが気になります。「あそこのベースライン、今日は惜しかったな」とか、ライブで「なんであそこで間違っちゃったんだろう」とか、この歳になっても悔しくて一晩中引きずったりします。僕は中学生の終わりからベースを始め、かれこれ30年近く関わってきたので、ベースが自分の一部になっているんです。僕はこう見えても学生時代は優秀な生徒で、勉強もスポーツもできる、ガールフレンドも一杯できるといったかなりいい調子で進んできたのですが、ベースだけはいくらやっても難しい。今も難しくて、レコーディングやライブで「今日は余裕、楽勝で弾けた」ということが1度もないんです。きっとそこが、今もベースを弾き続けたいという原動力になっているのだと思います。

Q4.音楽プロデューサーに必要な要素とは何でしょうか?

プロデュース感覚というのは、さっきも言ったようにアーティストも持っているし、例えば皆さんも休日のプランを練ったり、食事のメニューを考えたり、飲み会の段取りを考えたりという機会があると思います。基本的に、それはプロデュースということだと思うのです。誰もが日常的にプロデュース活動をしているんですが、それとプロのプロデューサーとの違いを説明すると、プロのプロデューサーは有言実行できるということでしょうか。今何が起こっているかを言葉でちゃんと説明でき、音楽に関しても言葉で伝えることができるということ。不言実行はダメで、僕が何にも提案せずにムスッとしながらいいものをつくっていたとしても、チームのメンバーは何を考えてるのか、何をつくろうとしているのか、どこに進んでいるのかもわからない。僕の場合はむちゃくちゃ有言するし、いろんなアイデアを出します。その局面局面で適切な言葉を投げ掛けられる、説明できるというのは、やはりプロデューサーとしての一番大事な核となる部分ではないかと思います。
 それから、間違い探しというのは誰でもできるんですよ。音程が悪いとか、リズムが悪いとか、この言葉は届いてこないとか。例えば、歌詞の中に「君」と「あなた」という言葉が両方出てきて、「この二人称の使い方は何だ」という突っ込み方をするディレクターが一杯いるのですが、僕はそういうことは全く問題にしていません。「君」と「あなた」に違う気持ちが込められていて、それがメロディーと一緒になったときにものすごく効果がある場合は、2種類が出てきてもいいと考えるんです。間違いを探すのではなくて、今ある素材の中から正解を導くことのできる力を持っている、そういう審美眼というか、眼力がある人はプロデューサーに適していますし、そういう人が増えてほしいと思います。
 悪いところ、イヤなところを見つけることは簡単ですが、良いところを引き出してあげるということは人間力が問われます。これから社会に出る前途洋々たる皆さんには、そういうプロデュース力を身に付けていってもらいたいと思います。

Q5.すでにヒットしている「勝ち組安定型」アーティストをプロデュースする場合、通常のプロデュースと違う部分があるかと思いますが、どのような点を重要視されていますか?

 この質問はたぶん、「ブレイクした大スターや大アーティストをプロデュースするのと、ブレイクする前の無名アーティストをプロデュースするのでは、違いがあるのではないか」ということだと思います。僕の経験上、何十万枚とか100万枚も売るアーティストも、2、3,000枚のブレイクしていないアーティストも、1曲が出来上がる時間は同じです。つまり、僕が掛ける能力や費やす時間は、勝ち組アーティストに対してもそうでないアーティストに対しても変わらないのです。勝ち組アーティストだから力いっぱい頑張ったり、儲けようというような気は全くなく、まだブレイクしていないからといって力を抜いたり、逆に頑張り度が上がるということもないです。僕はアーティストに対しても楽曲に対しても、常に同じスタンスでいたいと思っています。
 この質問者が言う勝ち組で安定しているアーティストというのは、サザンやB’zやミスチルのことでしょうか。たぶんそのクラスのアーティストのことだと思いますが、勝ち組は決してまぐれで勝ったわけではないということを肝に銘じた方がいいですね。やはり勝つためには、少なくとも大ブレイクする時点でのアーティストや楽曲に力があり、それを持続させているスタッフの力があるのです。つまり、勝ち組アーティストはすばらしいチーム力で動いている場合が多いということ。チームとして勝利を味わっている人たちの、そのアーティストに懸ける愛情や未来に対する思いや不安は、並々ならぬものがあります。だから僕は、そのチームの力をかき乱さないようなスタンスで入っていくことを心掛けます。例えば、そのアーティストのファッションに疑問あっても、「僕がプロデュースするからにはそこから変えていきましょう」というようなことは、勝ち組安定型の場合は絶対しないです。やはりアーティストにそうであってほしいと願うファンの共通認識があるので、そこをうまく裏切って新しい風を入れても、持ち味を残すところは気を付けますね。
 それから、勝ち組安定型のアーティストは冒険心が旺盛なことが多く、「亀田さん、この曲はぶち壊してください」というようなことをよく頼まれるのですが、あまりにもぶち壊すと、僕とアーティストの間では満足感が得られたとしても、結果的に亀田プロデュースの曲が飛ばされて聴かれたらすごく悲しいし、そういった作品はつくりたくないと思っています。だから、アーティストの変わりたい願望に対しては、どれくらい新しい風を入れるかという部分を繊細に検証し、空気を読みながら進めていくといったところです。

Q6.プロデューサーとして音楽を聴く側に求めることはありますか?

これはマナーに関することでしょうか。では、音楽の配信についてお話ししましょう。僕は、自分がつくった作品が圧縮された配信音楽として携帯電話などで聴かれることに全く抵抗はありません。でも、MP3やダウンロードで聴く楽曲は若干音質が荒れてしまっているので、アーティストやミュージシャンの中には自分の作品を荒れた音質で聴かれたくないと思っている人が根強くいます。でも僕は全くそんなことはなく、自由に聴いてもらいたいと思いますね。
 ただ、違法コピーはしないでほしいと思っています。ちなみに僕はプロとして、音楽は必ず買うようにしています。僕らも買って後悔させない作品づくりを目指しますので、CDでも配信でも構わないので買ってほしい。そして良い音楽に出会ったならば、友だちや家族など皆に伝えてほしいと思います。そして、次のアルバムが出たら自分で買ってみよう、というふうに思えるような循環ができればといいなと思います。

Q7.私はバンドを組んでいますが、最近ライブでのパフォーマンスの難しさを感じています。魅力的なライブを見せるコツは何でしょうか。

これは皆が必ずぶち当たる壁というか、悩みどころです。僕もバンドを組んでいた頃は何をやってもうまくいかず、反省会という名のもとに、ファミレスで朝の5時や6時までメンバーと話し合いをしたり、いろんな人に意見を聞いたりしました。ここですごく重要なことを言うと、パフォーマンスの難しさと質問者は言われていますが、ライブというのはライブハウスやホールといった空間で繰り広げられる空間の芸術なのです。瞬間や空間を含めた芸術なので、いろんな要素が絡み合っていると思うんです。ですから、難しさというものが、自分がやっていて感じる難しさなのか、人が観ていて指摘された難しさなのかということによって随分違ってくると思います。自分がやっていて難しいと思うこと、例えば音楽的にうまく弾けなかったとか、あがって舞い上がってしまったということは、練習や用意周到な準備をすることによって、限りなく補うことができると思います。
 プロのステージングを観たり、憧れのアーティストのステージと比べて、「全然イケてねえ」という気持ちになることは多いと思います。まず、プロのステージはさっきも言ったように、照明からPAまで選ばれたプロフェッショナルがつくり上げている芸術作品だと思ってください。だから、アマチュアのレベルで、そこそこのライブハウスの空間で、しかも自分たちを観に来ているとは限らないお客さんの前で完璧なライブパフォーマンスの手応えを得るということ自体、僕は無理があると思います。
 それよりも、例えばBUMP OF CHICKENみたいなバンドにしたいが、どうしても藤原君のようなパフォーマンスができないというのであれば、もしかしたらあなたが藤原君を目指していること自体が間違っているかもしれない。憧れのスターと自分を比較し過ぎないで、自分たちには自分たちのスタイルがあるのではないかと、考え直してみるのもいいかもしれないです。お手本を目標にし過ぎて、距離感が遠くて追いつけないことに悩み、バンド内が険悪になったり、悶々と日々を過ごすというのはクリエイティブではない。もうちょっとでできそうな部分は、練習や時間を掛けて補うということをしながら、少しずつ検証していくことが大事です。
 それから不思議なもので、ライブが良かったときは必ず良いと言ってもらえます。そういうときが来ます。これはプロのステージもそうなのですが、自分が「やった! イケてる」と思ったライブが、必ずしも観ていて良いパフォーマンスとは限らないということも肝に銘じたおいた方がいいかもしれません。自分の達成感と、ライブとしての一体感というのはまた違うところにあるもので、常に自分と聴く人がいるということを頭の中に思い描いて演奏する。そして次のライブに向かっていく、というのが大事かもしれないですね。
 それから、よくアマチュアの人のライブを観ていて、「うわっ、寒!」と思ってしまうことがあるのは、トークなんです。トークも憧れの人の顔が見えるようなスタイルになっていると、やっぱりお客さんは観ていて楽しくないんです。ライブというのは、そこで実演されているわけで、その人の等身大の音やその人らしさというものを観たいのです。経済学部の山田君が歌っているのに、トークは福山雅治そっくりだ… これは全然ダメだと思う。やはり「自分らしさとは何か」ということを常に意識することが大切です。

Q8.作品を生み出す時は、考えて考えて生み出すのか、または“天から降ってくる”のでしょうか?

いい質問ですね。正直に言いますと、僕はこう見えても非常に凡人です。天才肌の人間ではないので、メロディーやアイデアが降ってくるということは皆無です。必ず、「考えよう、何かをしよう」と自分でスイッチをオンにして考えて考えた結果、そこからは降ってくるとも言えますが、思いつくのが僕の作品に対するアイデアです。でも、ここが僕がプロデューサーとして醍醐味を感じる部分なのですが、「よしつくるぞ」と決めると必ずアイデアは浮んできます。しかも締め切りまでに。例えば今昼の12時だとして、「今日の夕方5時までに1曲つくってくれ」と言われたら、必ず最高クオリティーのメロディーで1曲つくれると思います。僕の体には今までの音楽的な経験や、先輩アーティストの方々のすばらしい楽曲のメロディーや歌詞が博物館のように保存されていて、アーカイブがたくさんあるんです。何かリクエストがあると、いろんな人の考えが交わる中央の部分、皆がいいなと思える部分が自分の中にすぐ浮かんでくる。「よしやるぞ!」と言って、苦しいんですけれども、その曲やアーティストに向かって発信しようと決めれば、必ず締め切りまでにアイデアは出てきますね。

Q9.多くの曲を書かれていますが、どのような時に曲は生まれるのでしょうか?

ということで、僕の場合は天から曲が降ってくるということはないのですが、曲に対してアイデアが浮かぶ瞬間というのがあります。去年、僕は所属している東京事変というバンドに『閃光少女』という曲を書いたのですが、歌詞は椎名林檎さんが付けてくれました。僕が曲をつくった時点では、『フード』という仮タイトルを付けたのですが、このフードというのは食品のフードではなく、被るフードという意味です。僕が家に帰る途中のとある真冬の夕方、小学校5、6年生くらいの女の子が赤いランドセルを背負って、その下に水色のダウンジャケットをパンパンにして着ていました。フードを被りながら家に帰るその姿を見たときに、この子が今後どういう人に出会ってどんな恋愛をし、どういう出来事が起こってどんなふうに成長していくんだろうと思うと、すごく切ない気持ちになり、彼女のために曲を書きたいと思ったんです。それで生まれたのが『フード』という曲。この話を林檎さんにしたら、『閃光少女』というタイトルで詩を付けてくれたのです。

Q10.音楽活動を長く続けていくうえで、テンションを保ち続ける秘訣はありますか?

これは先ほどのモットーに近いものがあるのですが、常に初めてという要素を盛り込むことが大事です。スタッフやミュージシャンでもそうで、いつも同じ人とやるとは限らないという状況をつくると、すごくフレッシュです。あとは、「こんなことやったことないな」と思う、荷が重い仕事でも、とりあえずやってみるというのがすごく大切で、新しい要素に立ち向かっていくことで新しい目標が生まれます。
 それから、僕の基本哲学に「できないと言わない」というのがあります。「できないときは、できないって言いなさい」と子どものころから言われたように、これも1つの考え方なのですが、「亀田誠治にこういうことをやってもらいたい」というオファーが来たなら、僕はちょっと不安だったり経験不足かなと思っても、自分がやれるからオファーが来た、信頼がつながって選ばれたのだと前向きに捉えて、必ずその新しい仕事にトライするようにしています。
 今年の春、The THREEというユニットをギターの布袋さんとKREVA君と3人で組んだのですが、そのときも映画会社の方から直接オファーがありました。締め切りがかなり近く、しかも3人のアーティストを束ねるのは並大抵のことではないだろうから、どうしようかと思ったのですが、「やります」と言ってやりました。その結果、いい作品がつくれたと思うし、布袋さんとKREVA君とも良い交流が続いているので、あのときに「できません」って言わなくて良かったなと思います。

Q11.自分の可能性、専門分野など、どのように見極められましたか?

 見極めたというよりも、ミュージシャンになる覚悟を決めたというだけです。そして、可能性を意味もなく信じた。あとはさっき言ったように、勉強をやってもスポーツをやってもうまくいくし、学校でも女の子にはモテモテなのに、ベースだけがうまくいかなかった。周りでベースを弾く人たちは全員、自分よりうまく見えた。そういう駆り立てる何かがあったために、悔しくて進んできたという感じです。ただ、音楽に関してはすごく素直に入り込めて、ベースという楽器を触った瞬間に違和感なく弾けましたし、「このアルバムを亀田プロデュースで全曲頼みます」というオファーを受けたときも、スタジオに行くときに緊張してカチカチになるということもなく、いつも自然体で取り組めました。
 皆さんもこれからいろんな仕事に就かれると思いますが、仕事をするにあたっては、「忍耐」や「とりあえず投げられたことをやってみる」ということがすごく大事で、自分に合った仕事を選ぶという感覚よりも、仕事が自分を選んでくれるという感覚でいた方がいいと思います。僕はプロデューサーになりたくてミュージシャンになったわけではく、音楽全般が好きだという気持ちを日々積み重ねていったら、ベーシストと音楽プロデューサーが残ったみたいな感じです。ですから皆さんも夢を持つにあたっては、ピンポイントに絞り込み過ぎるとかえって窮屈になり、部分的にパズルのピースが一致しないことで投げ出してしまいがちなので、「大筋こっち向いてりゃいいや」みたいな感じで一生懸命やるのがいいかと思います。
 それと今、自分探し系の番組や本や歌がすごく受け入れられていますが、自分を探すよりは、とりあえずスタート台に立って走り出し、自分を磨くことに力を注ぐことの方が夢に近づく一歩になると思います。「よし、ここは踏ん張るぞ」という気持ちで目の前にあるものに立ち向かっていくことが、専門分野に進むための一番の近道ではないかと思います。

Q12.亀田さんが尊敬する人を教えてください。

これはいつも決めていて、中村勘三郎さんとイチロー選手です。答えは簡単で、彼らが並々ならぬプレッシャーや期待、それから歌舞伎界や野球界など背負うものの大きさが計り知れない中で、常にブレずに自分をキープして力を発揮されているからです。僕もあの領域に少しでも近づけるようになりたいと思っています。中でも勘三郎さんとは個人的にお付き合いがあるのですが、歌舞伎の演目を観に行くと大スターなのにもかかわらず、バスローブ姿で僕のことを「亀ちゃ〜ん」と言って楽屋に迎え入れてくれて、「今日どうだった?」と聞いたり、打ち上げの席でも、「この芝居が終わるまで僕はお酒を飲まないけど、皆は飲んでいいからね」という心遣いをされるところが大変すばらしい方で、一歩でもああいう領域に近づければいいなと思っています。

Q13.学生時代に経験しておいてよかったと思うことは何でしょうか?

僕の学生時代は、完全なるモラトリアムでした。ベースばかり弾いて学校に行かなかったときもあります。僕の場合はアマチュア時代にやっていたことがそのまま延長して、幸運にもプロのミュージシャンという道に進んだので、プロの世界でもアマチュアでやっていたことの精度や馬力を上げていくという形でやれました。だから、学生時代をプロのミュージシャンになるためのインターン時代のような形で経験できたのは、良かったなと思います。

Q14.苦手なタイプの人とのコミュニケーション術を教えてください。

僕は常に相手とニュートラルな対話をしたいと思っているので、「この人苦手だな」と思っても、あえて避けずに飛び込んでいくというスタンスをとっています。仕事上で、この人ちょっと苦手だなという人とタッグを組むことがありますが、実はそういう人は自分にない価値観や角度からものごとを捉えるセンスを持っておられます。そういう目線の方がチームにいると、自分とは違った角度からものごとを検証して進められるので、ヒット作が生まれたり、仕事やプロジェクトがうまくいくケースが多いのです。ですから、皆さんが将来仕事していくにあたって、苦手だな、イヤだなと思うことを避けて通らず、相手の中にいいところを発見したり、苦手なところにあえて飛び込んでいくということも重要だと思います。

―以下、質疑応答―

Q. 先生は20代のころ「音楽を良くしよう」と思われ、それで今もプロデューサーをされているということだが、その「良く」というのは先生自身の目線なのか、アーティストが良くしようと思っていることを高めていくことなのか、それとも一般のリスナーに買ってもらうための良いことなのか、現在もどういうお考えで「良い」という定義があるのか教えてほしい。

A. 現在は、自分、アーティスト、リスナーという3つを、公平に俯瞰できるようになっていると思う。でも当時は、自分の中での経験知があまりにも少ないために、「自分ならこういう音楽をつくりたい」という熱さだけで頑張っていたような気がする。しかしポイントは、音楽・楽曲だけではなく、例えばレコーディングスタジオの雰囲気や、人間関係などいろんなものの循環を良くしようということ。直球な言い方をすれば、皆が笑顔で達成感のある仕事ができるような現場づくりを目指していたのが、僕の20代だった。今思えば恥ずかしいと思うようなことを、たくさん言ったりやってきたと思う。

Q. 曲づくりと楽器の練習との兼ね合いだが、曲づくりを中心にやっていくと楽器の練習がおろそかになったり、前に弾けていたものが弾けなくなっていたりする。バランスがうまくとれない。

A. 曲づくりをやっていて楽器が弾けなくなってしまうのは、単純に楽器の練習量が足りないのだと思う。何かをやることによって何かができなくなってしまうのは、その両方の蓄積量というか経験値が少ないから。もし楽器を安心して弾きたい、いつもアベレージの高い演奏をしたいと思うのであれば、楽器の基本的な練習をある程度すること。基礎さえあれば曲づくりに対応できる楽器プレーができると思う。

僕は若いころ本当にたくさんベースの練習をした。片手が使えるパンを食べながら練習した。まずは基礎力を高めて基礎体力をつくることをした方がいいと思う。でも、曲づくりでは必ずクリエイティブなことができると思うので、曲づくりを続けつつ楽器の練習をコンスタントにする。例えばメトロノームやドラムマシンを使って1日1、2時間は必ず楽器を弾くこと実践すると、1年で見違えるように変わると思う。

Q. プロデューサーとしてアーティストとの距離は一定の距離感を保っているのか。それとも、とことん仲良くなって仕事をするのか。

A. 僕は一定の距離を保っている方だと思う。仕事のときは徹底的に楽しく元気にやるが、食事を一緒にすることも積極的にしない。とにかく僕は一緒に音楽をするときの鮮度を保ちたい。その代わり、どういうものをつくりたいとか、こういうことがやりたい・やりたくないというようなヒアリングや会話はすごくする。連絡先も望まれれば教える程度で、僕の場合、ちょっと張り詰めた緊張感が保てる関係が、アーティストと長続きする秘訣のような気がする。

以上

【参考資料】
「ヒットの理由」(オリコン・エンタテインメント)
亀田誠治オフィシャルHP『誠屋』 http://www.ganso-makotoya.com





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後藤先生