第5回 2008年10月25日 
コンテンツの利用・流通と著作権」


講師:辻居 幸一(つじい・こういち)先生

弁護士・弁理士
1979
3月 中央大学法学部卒業
1980年10月 司法試験合格
1983年4月 弁護士登録 中村合同特許法律事務所に入所
1988年8月 米国コーネル大学ロースクール(LL.M)入学
1989年5月 同大学を卒業
1989年9月 ニューヨークのHughes Hubbard & Reed事務所に入所
1989年10月 米国ニューヨーク州弁護士試験合格
1990年に帰国し、現在は中村合同特許法律事務所パートナー。

〈共著〉『日米知的財産訴訟』(弘文堂)
〈論文〉「補正、訂正、分割、優先権主張と侵害訴訟」(ぎょうせい)、
     「特許権侵害における逸失利益の算定」(発明協会)など。

「コンテンツの利用・流通と著作権」




はじめに

 今日の話の内容は非常に広くなりますが、まずは「知的財産権」とはどんな権利なのかを説明します抽象的にどんなものかというよりも、具体的にどんな権利を指すのか、ということを理解していただければと思います。
 それから、知的財産権の1つである「著作権」とはどんな権利なのか、著作権が発生する「著作物」とはどういうものかを説明します。
 また、知的財産権の中で「コンテンツ」というのは一般的に著作物であって、著作権で保護されていますが、それが流通する場合には「商標・ブランド」というものが重要になるので、「商標権」についてもお話しします。
 それから著作権は財産的権利なのですが、そのほかに「著作者人格権」というものがあります。この著作者人権というのは、著作者が譲渡することのできない一身専属のもので、自分が譲渡したいと思っても譲渡できない権利です。この人格権というものが、著者物の利用にあたっては重要になってきますので、これについてもお話ししたいと思います。
 さらには判例に題材をとった事例を説明して、それが侵害になるのか、皆さんの常識と判例がどれくらい合うのか、といったクイズ的なものをしたいと思います。そして最後は話題の判例として、映画ないし音楽関係の裁判から3つほど面白そうなものを選んで説明するつもりです。

T 知的財産権

1. 知的財産権

知的財産権はIntellectual Property Right (IP)と言いますので、このIntellectual Property Rightという言葉も覚えてください。定義は、「人間の精神、思想の知的財産物にかかわる権利の総称」とされていますが、具体的にどんな権利かということが重要です。所有権は物に対する権利ですが、知的財産権は物ではなくて、目に見えないものに対する権利です。「知的所有権」と言ったり、「無体財産権」と言うこともありますが、一般的には「知的財産権」という呼び名が多いです。
 私が弁護士になりたてのころと比べて、知的財産権への注目度は非常に高くなっています。それは皆さんもお気付きであろうと思います。あとで説明する黒澤明の事件などもそうですが、まず訴えを提起したときに、原告側はプレスリリースといってプレスに発表しますが、その内容は大抵新聞で報道されます。その次は判決が出たときで、その結果も新聞で報道されます。それから、さらに注目度が高い事件になると、判決言い渡しのときにテレビカメラが入ることがあり、黒澤明の事件でもやはりテレビカメラが入りました。最近では知的財産権の事件にもテレビカメラが入ってくることが頻繁にあります。私が関わった中では、バンダイのガシャポンというカプセルにおもちゃが入っている自動販売機の特許の事件がありますが、そういう事件でも新聞やテレビで報道されましたので、知的財産権への社会的注目度が高いというのが最近の顕著な傾向です。

2. 知的財産権の種類

 まず最初に、工業所有権には@特許権とA実用新案権があります。特許権は、「発明」を保護するもので特許法の定義規定だと「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想のうち高度のもの(特許法2条1項)」です。実用新案権は「考案」を保護するもので、「自然法則を利用した技術的思想(実用新案法2条1項)」です。皆さんの理解では、技術を保護するものが特許権や実用新案権ということでよいでしょう。
 しかし、特許権と実用新案権では技術レベルに違いがあります。実用新案権の場合は形式的に出願書類が整っていれば自動的に登録されます。これに対して特許権は、特許庁において発明の進歩性と言うのですが、今まで同じようなものが権利化されていないか、知られていないかを審査をし、審査後初めて特許権として登録されるという制度なので、特許権と実用新案権の価値には雲泥の差があります。それを知らないと、例えば「実用新案権の侵害で警告された」といっても、その実用新案権に本当に価値があるかどうかわかりません。これは特許権の侵害で警告された場合の深刻度とは全く違い、価値の高いものはほとんどの場合、特許権で保護されるということを理解してください。
 つぎに、特許権、実用新案権のほかの工業所有権としてB意匠権があります。「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美観を起こさせるもの(意匠法2条1項)」と意匠法では定義されていますが、要するにデザインです。工業デザインと言われるものは意匠と呼び、意匠権で保護されているもので、これも工業所有権の1つです。
 もう1つがC商標権です。定義は「文字、図形、記号若しくは立体的計上若しくはこれらの結合又はこれらの色彩との結合」ということで、マーク、文字、あらゆるものが商標権として保護されます。立体的形状も保護の対象になるので、二次元的なものではなく立体的なものでどういうものが商標権として保護されるのかについても、あとで説明したいと思います。また、意外だと思われるかもしれませんが、今後は色や匂いなども商標として保護される可能性があります。あるいは音やジェスチャーといったものも日本の法改正の議論の対象になっていますので、商標権の保護の対象になる可能性があります。実際、すでに世界的にはそういうものが保護されており、例えばIntelのCMの特殊な音階が商標権で保護されている国もありますので、商標権保護の対象はどんどん広がっています。
 商標権で保護されるのはマーク、ブランドといった「商品、サービスの出所表示機能」です。出所表示機能とは何かというと、あるマークを見たときに、「あのメーカーだ」「あの店だ」とわかる機能を出所表示機能と言います。
 それから、特許権、実用新案権、意匠権には一定の有効期間があり、ある期間を過ぎると満了します。商標権の重要な特徴は、10年ごとの更新です。例えば、ソニーというブランドの権利が一定期間で無くなってしまうと誰でも使えることになるので、ソニーブランドを育て上げた人が権利を永久に保持し続けるために、更新という制度が商標権では認められています。
 ここに述べた4つの権利は工業所有権と総称され、日本の特許庁に対する手続きが必要となります。つまり自分が、「良いものを開発した」「すごく画期的な技術を開発した」としても、黙っていれば何の権利も発生しないので、権利を得るために特許庁に対して出願手続きを行わなければならないということです。
 それでは、技術を開発したときに会社はどうするのかというと、一般的には特許権を取得するでしょう。しかし、特許権を取るために特許庁に出願した結果、その内容は公開されて誰でも見ることができるようになります。そして、特許権を取得しても一定期間が経過すれば、誰でも使えるようになるというのが特許制度の基本です。従って、ある画期的な技術を開発した会社が第三者に内容を見せたくない場合は、特許出願をしないこともあります。有名な例では、コカ・コーラの配合。非常に重要なトレード・シークレット(営業秘密)で、今でも特許出願されずに会社の機密資料となっています。特許出願して権利を取るか、あるいは秘密として保持するかというのは、企業の選択になってきます
 ただ、秘密を長年にわたって保持するのは難しいもので、よほど厳重に管理しなければいつかは漏れてしまいます。一度漏れてしまったら、その時点で特許は取れなくなり価値も権利もなくなるので、それなりのリスクがあります。
 工業所有権の4つの権利のほか、知的財産権にはD著作権というものがあり、この内容についてはあとで詳しく説明しますが、著作権の保護の対象は著作物です。著作物の定義は「思想又は感情を創作的に表現したもの」という非常にシンプルな定義なため、あるものが著作物になるかどうかは非常に難しい判断です。ポイントとしては、表現を保護するものが著作権法であると言われていて、皆さんのイメージからすると文化的なものに限られるように思うかもしれませんが、コンピュータープログラムやデータベースなども著作物として著作権法で保護されています
 それから、E不正競争防止法という法律があります。これも大事なもので、「周知ないし著名な商品等表示の保護(不正競争防止法2条1項1号ないし3号)」です。商標法と同様にマークやブランドの保護が目的で、商品やサービスの出所表示機能を保護するものです。「著名ほどではないが、かなり知られているもの」を法律上、周知と呼んでいます。
 例えば、かつてウォークマンという名前を使った靴屋がありました。ウォークマンに靴という商品についての商標登録があれば商標権侵害ですが、靴については商標登録していないが、ウォークマンがブランドとして周知ないし著名であれば、不正競争防止法に基づいて、その靴屋がウォークマンという名前やマークを使うことを止められます。また、ソニーというブランドが電気製品において登録されているなら、第三者が電気製品に使えば商標権侵害になりますが、お菓子やチョコレートに使った場合に商標登録がなければ商標権侵害にはなりません。しかし、ソニーというブランドが周知ないし著名であれば、この不正競争防止法の保護が与えられるということです。
 それから、不正競争防止法でもう1つ大事なことは、トレードシークレット(営業秘密)は保護されるということです。ここで言う営業秘密は個人情報とは違うもので、「産業上・技術上有用なもの」です。これを保護するのが、不正競争防止法での営業秘密です。
 以上のようなものを知的財産権と言っているわけですが、著作権、不正競争防止法は一切の登録手続きが不要です。ここが非常に重要なところで、著作物を創作すれば直ちに権利が発生するのが著作権です。ですから極端な場合、権利を持っているかどうか著作者自身がわからないこともあります。登録手続きが不要ということは、その取得に対してコストが掛からないので、非常に権利取得が容易です。
 知的財産法全体に対する特徴は、損害賠償請求権だけではなく、差し止めが認められるところです。侵害行為があった場合、その侵害に相当する損害金を支払えということだけが救済の対象ですが、知的財産権では侵害している行為を止めさせる差止請求権があるところが、法律上非常に重要な点です。
 要するに知的前財産権は@からEの権利の総称なのです。最近ではその他にもパブリシティーの権利というものがあります。パブリシティーの権利というのは、有名人の名前や肖像を商業的に利用することです。これを知的財産権の中に含める場合もあります。個人情報はプライバシーの保護なので、知的財産権の保護とは違う側面ですが、個人情報やプライバシーの保護、個人の人格的な面を保護することももちろん重要になってきています。
 私たち弁護士に、「こういう問題が起こっているが、どうしたらいいか」という相談が依頼者からあった時点では、@からEのどの権利が問題になっているかという答えは出ていません。それを見つけ出すことが我々の仕事になるわけで、そこが面白いところでもあります。1つの問題に対して見方を変えれば、ある問題では著作権、ある問題では商標権、ある問題には不正競争というように、複合的に権利の侵害が問題になってきます。

U 著作権と著作物

. 著作権法の規定する権利の種類

1)著作財産権(21条ないし28条)

著作権は、著作権法の21条から28条に書かれている権利の総称です。従って、著作権侵害といった場合、そのうちのどの権利の侵害かを本来的に問題にしなければいけません。ほかにも公衆送信権などいろんな権利があります。
 それから著作権は、著作者が著作物を創作したときから権利が発生します。では誰が著作権を持つのかというと、当然著作者です。ただ著作権というのは譲渡可能なので、著作者は著作権者だとは限りません。著作物を創作した瞬間の著作者は著作権者ですが、著作者と著作権者が分かれる場合があることを頭に入れておいてください。

2)著作者人格権(18条ないし20条)

今日お話しする中で、1つのポイントとなる著作者人格権という権利があります。先ほど著作権は譲渡できると言いましたが、この著作者人格権は譲渡できません。例えば、著作者AがBに著作権を譲渡した場合、Bは著作権者になります。では、著作者人格権は誰が持っているかというと、Aは著作者人格を譲渡できませんから、Aが著作者人格権を持っています。つまり1つの著作物に対して、著作者人格権を持っているのはA だが、著作権はB が持っているということが生じるわけです。著作物の利用にあたって、人格権の帰属と著作権の帰属が分かれてしまうと、利用においていろいろな障害が出てきます。

3)著作隣接権(89条ないし104条)

それから著作隣接権。「著作物の利用に関して著作者に準じる者に対し著作権に準じる保護を与える」ということですが、著作権に隣接するということで著作隣接権という名称が与えられています。具体的には、実演家、レコード製作者、放送事業者の三者が著作隣接権者です。

2. 著作権の成立及び保護期間

1)無方式主義(172項)、無審査主義

著作権は著作物をつくると直ちに発生します。良い悪いという審査も、出願の必要もなく簡単に権利が成立するというので、無方式主義、無審査主義です。

2)保護期間の原則(51条)

保護期間の原則は死後50年となっています。法人著作権についてはあとで説明しますが、その場合は公表後50年となります。映画については、保護期間が50年から70年に最近変更されました。ただ、新聞などで報道されている通り、最近の著作権法改正の議論の中では、映画だけでなくほかの著作物も70年にするのが良いかという議論があります。

3. 著作権に含まれる権利の種類

1)複製権(21条)

著作権にはいろんな権利がありますが、その代表的なものが複製権です。複製というのは「印刷、写真、複写、録音、録画、そのほかの方法により有形的に再製すること」で、一番わかりやすいのはコピーで、見える形で何かに固定することを複製と言います。ですから、著作権者に無断で複製すると複製権の侵害になります。例えば、頭に記憶することは有形的に再製するわけではないので複製ではなく、ある歌手の真似をする場合も、真似をした結果をビデオやテープに録るということがなければ、それ自身は複製権の侵害にはならないということです。
 では複製権というのはどんな権利かというと、簡単に言えばコピーですが、難しく言うと、「著作物へ依拠して得られた物が著作物と実質的に類似する」ということです。ある著作物に似ているというだけで複製権の侵害になるのではなく、「依拠」ということが必要です。Aという著作物に似ているBというものがあっても、それだけでは複製権の侵害にはなりません。
 先ほどの工業所有権の特許権との違いは、Aという特許を見てつくっておらず、たまたま同じようになってしまったという場合でも特許権の侵害になるところです。複製権では、Aというものを見ないで独自にBをつくった場合、AとBが似ていてもBはAという著作権の侵害にならないということを頭に入れておいてください。
 それから依拠というのは、例えば絵を真似たりする場合は、密室でその絵を見ながら行うことなので、真似た瞬間を証拠にとることはできません。裁判上で依拠という証拠をどのようにとるかというと、直接それを依拠している証拠がなくても、経験や常識から見て真似たということが認められれば、依拠したという認定が可能になります。つまり間接証拠でも依拠が認定ができるということです。その1つの例として、「AはBの翻訳にかかる翻訳小説と同一の小説につき翻訳小説を出版した。Aの翻訳小説とBの翻訳小説の中身は、誤字、脱字にいたるまでほとんど同一の内容であった」。こういう場合はAがBの翻訳に依拠したという直接の証拠がなくても、当然依拠という行為が推認し得るということです。

2)譲渡権(26条の2)、貸与権(26条の3、2条8項)、頒布権(26条、2条1項19号)

複製権のほかには、譲渡権、貸与権、頒布権という権利が著作権法上規定されています。ネーミングの違いなのですが、映画以外の著作物については譲渡権と貸与権、映画の場合は頒布権と呼びます。皆さんがツタヤ等でCDを借りた場合は貸与権の問題になり、DVDの場合は映画になるため頒布権の問題になってくるということです。著作権法にはそれぞれ演奏権や公衆送信権などいろんな権利が規定されていますが、ここでは時間がありませんので、一番大事なのは複製権であるということを理解していただければと思います。

3)原著作物と二次的著作物(11条、28条)

それから今日の話のもう1つ重要なところですが、原著作物と二次的著作物の考え方をご理解いただきたいと思います。では、原著作物と二次的著作物とは何でしょうか。二次的著作物の定義は、「著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう」ということです。
 例えば映画でいうと、原作の小説にもとづいて脚本をつくった場合、小説は原著作物で脚本は二次的著作物になります。さらに脚本から映画ができました。そうすると映画が二次的著作物で、脚本が原著作物になります。そして、原著作物の著作権は二次的著作物に及ぶということをぜひ頭に入れておいてください。
 今の例で言うと、原作小説にもとづいて脚本をつくった場合、小説にも著作権があり脚本にも著作権があります。二次的著作物である脚本を利用する場合、原著作物である小説の著作権がおよんできます従って脚本の利用にあたっては、脚本家だけでなく、原作小説の小説家の許諾も取らなければならないということです。さらにその脚本にもとづいて映画ができた場合、映画の著作物については著作権が発生します。ですから映画を利用する場合、映画の著作物の著作権者から許諾を取ることが必要です。さらには原著作物の著作権も働きますから、脚本家や原作の小説家の許諾も必要になってくるというように、原著作者の権利は川下までおよぶ非常に強い権利なのです。特に映画などは、小説、脚本など、原作がどんどん多くなってくる場合に、権利処理が非常に複雑になってくるということです。
 それから原則として著作者が著作権を持ちますが、現行著作権法上、映画には例外があります。映画の著作物の著作者は監督などですが、29条1項によると、「格別の合意がない限り映画製作者が著作権を有する」となっています。従って、映画監督は何も合意しなければ著作権を持ちません。映画監督が著作者であるという原則は変わりませんが、著作権は映画製作者に帰属するというのが現行法の原則となっています。それはなぜかというと、投資を保護するという考え方からです。商業的な映画であれば、映画製作者が何億円も投資するので、その権利帰属は原則として映画製作者になるということが、著作権法上に規定されているわけです。

4. 著作物の概念

1)著作物とは(2条1項1号)

では、著作権の保護の対象となる著作物とはどんなものかというと、著作権法には「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」とされています。ここで大事なことは、事実やデータというのは思想・感情ではなく、データそのものは著作物として保護されないということです。例えば、出生率や物価上昇率などは保護されません。しかし、データベースというものは保護される可能性があり、データの選択・配列に特徴があれば、その選択・配列の部分が著作物として保護され、そういうものを編集著作物と言います。
 それから、創作的でなければいけません。既存の著作物をそのままコピー機でコピーするのは創作性が全くないわけですから、コピーしたものに著作権の保護は与えられず著作物とは言えません。しかし、模写する過程においてそれなりの創作性があれば、模写した物も著作物として保護される可能性はあります。
 それから表現。表現というのは、内心にとどまらず外部的に表さなければいけない。ただし先ほど複製のところで述べたように、外部に固定される必要があるかというと必ずしもそうではなく、踊りなどでもいいわけで、外部に表現されれば著作物として保護されます具体例としては、文芸、学術、美術または音楽の範囲で、もちろん特許や実用新案のようなものは除外されます。ただし意匠のようなもので保護されるものでも、著作物の保護の範囲になる場合があります。

2)著作物の種類(10条1項)

音楽の著作物とは何か。端的にいうと、作詞・作曲は音楽の著作物です。ですから皆さんが購入されるCDの作詞、作曲は、音楽の著作物として著作権に関係します。それから音源と言いますが、音は著作物ではありません。著作権ではなく、著作隣接権で保護されるものです。音楽であればアーティスト。アーティストというのは著作権法上でいえば実演家ですが、実演家の著作隣接権があります。また、その音をつくって固定したレコード制作会社の著作隣接権もあり、音楽については作詞家、作曲家の著作権と、実演家、レコード製作者の著作隣接権、この3つが問題になってきます。
 それから舞踏や美術、建築、図形、絵、写真もあります。先ほど述べたプログラムなどは内容によっては特許で保護される場合もありますが、プログラムそのものは著作権で保護されます。

V 商標権

. 商標権の効力

商標権の効力は、「同一又は類似のマーク」と「同一又は類似の商品又は役務」におよびます。皆さんには誤解のないように理解していただきたいのですが、あらゆるものについて商標権があることはまれです。商標権というのは、ある特定のマークや商品、サービスについて発生します。ですから、「このマークについて商標権を持っている」という場合でも、その商標権があらゆる商品や役務・サービスに対して及ぶことはないので、その権利がどういうマークなのか、そしてどういう商品や役務なのかを確認する必要があります。
 例えば「ソニー」のマークについて、指定商品は電気機械器具だとした場合、この権利のおよぶ範囲はあくまでも電気機械器具と同一または類似の商品についてだけです。「ソニ」というマークが第三者によりテレビで使用された場合、「ソニ」と「ソニー」が似ているかどうかということが問題になります。テレビは電気機械器具と同一または類似なので、ここでは侵害になります商標原簿を見ればわかるのですが、商標権はあくまで特定の商品または役務との関係で発生しているということをご理解いただければと思います。

2. 商標権の効力がおよばない場合

それから商標権の効力がおよばない場合もあって、例えば「本製品はソニーの製品とは互換性がありません」という説明があった場合、その説明的な記述については「ソニ―」という商標権の効力はおよばないと解されています。商標登録というのは商品の出所表示機能であって、あるマークから「あのメーカーだ」「あの会社だ」「あのお店だ」と識別できるものを商標と呼んでいますので、普通名称は商標登録できないことになっています。例えば、ブドウという商品に「巨峰」というマークが登録できるかというとできないし、チーズという商品に「パルメザン」は登録できないことになっています。商標というのは、ある物を見た場合、そこにほかの会社との識別ができるかということがポイントで、それを出所表示機能と言います

3. 立体商標

次に、最近問題になっていた立体商標の話をします。立体商標でもいろんなものがあって、例えば不二家のペコちゃん人形は立体商標で認められています。ペコちゃん人形を見れば「あ、不二家だ」とわかるので、ペコちゃん人形の立体商標登録は比較的容易です。それから、ケンタッキーフライドチキンのカーネル・サンダースも立体商標として登録されています。カーネル・サンダーズの人形を見れば、「これはケンタッキーフライドチキンだ」とわかるということです。ほかの例としては早稲田大学の大隈重信像もあり、大隈重信の像を見れば早稲田大学だとわかる。そういうものが出所表示機能と言われるもので、立体商標もこのような人形などであれば出所表示機能が備わっているので、登録が容易です
 しかし、これは今年の判例ですが、コカ・コーラのボトルはどうか。ボトルだけで「これはあの会社の商品だ」とわかるかがポイントになるわけで、特許庁はこのボトルだけでは出所表示機能は認められない、商標として登録できないと判断しましたしかし知財高裁は、出所表示機能があるから登録性がある、と特許庁の判断を覆したということです。
 私の感覚からするとこれは当然だと思うのですが、事実認定から見ると、昭和46年には23億8,000万本の売り上げを記録し、今でも年間9,600万本が販売されているのがコカ・コーラの瓶で、この瓶の形を見れば「コカ・コーラだ」とわかります。この瓶の形を見て、「ペプシコーラだ」と思う人はまずいないと思うので、知財高裁はそういう点を認定しながら登録性を認めたということです。それと、同様の瓶の形は第三者に採用されていないということも、事実認定として重要な点になりました。
 もう1例としては、マグライトの立体商標事件です。これは去年の判例ですが、この形状に登録性がないということで、特許庁はダメだと言ったのですが、知財高裁は登録性を認めました。これはかなり微妙な判断で、外形的なものだけで立体商標として認められるかどうか。特に容器の問題は、非常に難しい判断が要求されます。
 3つめは、ヒヨコのお菓子です。特許庁は登録を認めました。しかし最終的な判断権者である知財高裁が登録を否定したので、登録が認められなかったという例です。この裁判所の判断の中で重要視されているのは、同様な形状のお菓子が第三者によって売られている、ということでした。商標権を認めることは、その商標権者に独占を認めることなので、似ているものがある以上登録を認めることはできないということです。容器は立体商標としての登録制が非常に難しく、サントリーウイスキーの角瓶も立体商標として出願されたのですが、登録は否定されています。それからヤクルトの容器も否定されています。容器として今まで認められた例はコカ・コーラの瓶が最初だということです。

4. エルマーク(日本レコード協会)

今まで説明した商標は出所表示機能ということで、このマークを見れば「あのメーカーだ」「あのお店だ」とわかるものを商標と呼んでいたわけですが、これから説明するエルマーク、あるいはコンサート事業者協会のOTMマークは通常の商標とは違うものです。エルマークは図形だけでなく、「エルマーク」というカタカナ表記も商標登録されています。
 エルマークの目的は、正規の音源や音楽ビデオで配信を行っている人と、違法に行っている人を識別することですですから、適法なものについてはエルマークを付けて、ユーザーが安心してダウンロードできるようにしています現実には、著作権法上の私的複製は著作権侵害でないとしているのですが、違法配信からのダウンロードについては、私的複製の免責を与える必要がないという考え方もあって、このようなエルマークの推進が行われています
 皆さんがこれから音楽産業などに携わると、この違法配信がいかに損害を与え、大きな問題になっているかということがわかると思いますが、違法配信サイトは権利を侵害します。違法配信サイトから音楽をダウンロードする人は適法なサイトからは買わないので、損害を発生させるのです。そこで、違法なものと適法なものを識別しようという考え方から、レコード協会がエルマークを推進しているのです

5.エルマーク使用管理規定

エルマーク使用管理規定は、私がレコード協会の方と一緒に相談しながらつくったものです。「コンテンツの配信について、ユーザーに適法配信を識別する標識を提供し、もって健全な音楽市場の発展を促進させることを目的として」ということで、十数条からなる規定があります。レコード協会の使用管理規定には、マークのデザイン、色、大きさ、縦・横比まで厳密に規定されており、使用許諾を得た者のみが基準に従って表示できます
 エルマークの使用許諾の仕組みは配信事業者がレコード会社から許諾を受けて配信するわけですが、レコード協会はレコード会社から確認を受けた場合、配信事業者が適法かどうかを確認し、適法な業者であればサイトごとにマーク使用の許諾を行います。違法にエルマークを使った者に対しては、まさしく商標権の侵害なので、それを差し止めようという考え方です。
 同様な考え方で、OTMマークを推進しているのが、私が常任理事をしているACPC:全国コンサートツアー事業者協会というところです。エルマークとOTMマークとの違いは、エルマークは私的複製の問題から具体的な効果を狙ったものですが、OTMマークにはそれほどの法的効果という側面はなく、チケットがいろんなオークションや正規でないところで売られ、場合によっては偽造問題などが生じて、コンサートツアーのプロモーターに大きな問題が生じているので、1つの運動としてOTMマークの推進をしています。
 Official Ticketing Memberの略でOTMマークというのを使っているのですが、今はまだ出願中で登録はされていません。使用管理規定はコンサートプロモーター52社とプレイガイド4社(イープラス、CNプレイガイド、ぴあ、ローソンチケット)にあるので、時間があれば見ていただければと思います。また、ACPCのホームページにもACPCのマークについての説明があります。

W 著作者人格権

. 著作者人格権

著作者人格権には3つの権利がありますが、まずは公表権(18条)。公表権というのは、それを公表するかどうかということです。次が氏名表示権(19条)で、氏名を表示するかしないかを決める権利。3つめが同一性保持権(20条)で、「著作物およびその題号の同一性を保持する権利で、著作者の意思に反して変更、切除その他の改変を受けることのない権利」です。一番大事なのは同一性保持権なので、同一性保持権に絞って説明したいと思います。
 著作物を少しでも変えると同一性保持権の侵害になります。先ほども述べたように、ある場合には著作権者と著作者人格権の保持者がわかれてしまいます。それから、著作物を利用する場合に、ちょっと変えたいなというのはよくあることですが、少しでも変えると同一性保持権の侵害になるということです。最近の例だと、森進一さんが『おふくろさん』の歌詞を変えたという問題がありました。音楽の著作物の著作権者は作詞家で、作詞家は著作者人格権の同一性保持権を持っていますから、森進一さんはそれを変えられないわけです。
 また20条の2項4号には、「著作物の性質並びにその利用の目的および対応に照らし、やむを得ないとみられる改変」ということで、本当にどうしようもない場合にはこの同一性保持権がおよびませんよという例外が規定されているのですが、これは極めて例外的な場合です。

2. 職務(法人)著作における著作者人格権

通常は個人が著作物をつくり、その人が著作権を持ちますが、一定の要件を満たした場合は、会社が著作者になることもあります。その場合は会社が著作者人格権を持ち、3要件については15条1項で規定されています。会社が何かをつくって発表する多くの場合には、法人著作の3要件を満たすことになると思います。
 A社の従業員であるBがA社のために法人著作としてイラストを創作した場合は法人著作になるので、法人が著作権も著作者人格権も有します。これに対し、フリーの人が描いた場合は法人著作にならないので、そのフリーの人から著作権を譲り受けなければなりません。しかし、著作者人格権は譲り受けることはできません

X 判例クイズ

では、判例クイズに移りたいと思います。
 ]は「ボク安心ママの膝よりチャイルドシート」という交通標語をつくった。Yは「ママの胸よりチャイルドシート」という交通標語をつくった。 Yの行為は]の標語に対する著作権を侵害するか。
 ということですが、ここではAの標語の著作物性に対して、Yがつくった標語が複製権侵害と言えるかという点が問題です。皆さんはどうお考えでしょうか。裁判所は侵害しないと判断しています。裁判所は、Xの著作物には著作物性があるが、Yの標語はXの標語を複製したものではないと認定したわけです。
 2問目は電子掲示板の事件で、例えば人のチャットを勝手に掲示板に掲載した場合、それは複製権の侵害になるかという事例です。
 YはXに無断でXのチャットの内容を電子掲示板に転載した。
 ここでも、チャットの内容が著作物になるかということが問題になったのですが、裁判所はチャットのような通信記録の内容は日常会話と特段異なるところがないので、著作物性は認められないという判断をしました。ですから、チャットが必ずしも著作物ではないということではなく、当該事例においては著作物性はないと判断されたのです。
 3問目は先ほどの交通標語と同じような語呂合わせです。
 「朝目覚ましに驚くばかり」という語呂合わせを原告がつくった。被告は「朝目覚ましに驚き呆れる」という語呂合わせをつくった。
 これが侵害になるかということですが、ここでもXの語呂合わせが著作物になるかということと、Yがつくった語呂合わせはXの著作物の複製になるかという点が問題になりました。そして、YはXの語呂合わせを真似てつくったわけではなく依拠はしていない。だから、複製したわけではないという判断になりました
 4問目は、ときめきメモリアルアダルトアニメ事件というもので、ゲームのキャラクターを使ってアダルトアニメを制作した。
 これが人格権の侵害になるかということですが、皆さんもおわかりの通り、同一性保持権の侵害になります。著作物の中のキャラクターも著作権で保護されるので、そのキャラクターの内容を変えれば同一性保持権の侵害になります。
5問目も同一性保持権の問題です。
文章の中身を変えないで、「、」を変えたり、「・」を入れたり、送り仮名を入れたが、それが53カ所もあった。
この場合、同一性保持権の侵害になるかという点が問題になりました。著作権の事件の著作者は、自分がつくったものに対する思い入れが非常に強いですから、それを少しでも変えられると同一性保持権の侵害であると言う人が結構います。この場合も原告のXは同一性保持権の侵害だと裁判所に訴えたのですが、その結果、やはりこれは侵害になると認められました。53カ所という点がやむを得ないと認められる改変に該当しない、と判断されたわけです。同意を得て直していれば同一性保持権の侵害にはならないのですが、勝手に「てにをは」でも直すと侵害になるということです。
6問の書体については、タイプフェースは著作物とは言えず、著作権はおよばないという最高裁の判例です。
7問は黒沢清監督の『スウィートホーム』という映画の話です。
映画をビデオ化やテレビ放映する際に、縦・横比を合わせるためにトリミングすると、同一性保持権の侵害になるか。
この例では、侵害にならないと判断されました。しかし判旨を見ると、この事例に限ってやむを得ないと認められたわけで、一般にトリミング行為は同一性保持権の侵害であると理解した方がいいと思います。ここでは製作総指揮の伊丹十三さんと黒沢さんとの関係などを考え、やむを得ないと認められたということです。
 第8問は、
 投稿の俳句を添削した。相当な添削なので、同一性保持権の侵害にならないか。
 ここでは、少なくとも同一性が保持されず、改変されていることがわかると思います。しかし、侵害にはならないと判断されました。それはなぜかというと、投稿された俳句への添削・改変は、俳句界における事実たる慣習だからです。添削・改変されることを前提として投稿するので、黙示の許諾と言っていいかもしれませんが、侵害とはならないと判断されました。
 それから『キャンディ・キャンディ』の事件ですが、原作者の権利が漫画におよぶかということです。 漫画は原作者と漫画家によってつくられるが、漫画家が原作者の許諾を得ることなく漫画を掲載したときどうなるか。
 これは先ほど申しましたように、原著作者の権利は二次的著作物におよぶので侵害になります。漫画家は自分の描いた絵を勝手に発表したりすることもできません。
 最後はギャロップレーサーというゲームで、
 ギャロップレーサーという競走馬の名前がパブリシティーの権利で保護されるか。
 ということが最高裁で問題になりました
 そして、最高裁は競走馬の名前はパブリシティーの権利として保護されないと判断しました。つまり有名人の名前と競走馬の名前は違う、というのが最高裁の判例で
す。

Y 話題の判例

『ローマの休日』と黒沢映画の事件では、保護期間が違って判断されました。『ローマの休日』は1953年に発表されていますが、黒沢映画は52年以前に発表されました。しかしながら、『ローマの休日』の方が早く著作権が満了するという判断になった事例です。『ローマの休日』では、著作者が誰かという旧著作権法上の問題は出てこなかったわけですが、黒沢映画の事件では黒沢明監督が亡くなったときから、死後38年間著作権が存続すると判断されました。黒沢明監督は98年に亡くなったので、翌年の99年から2036年まで著作権が存続すると判断された事例です。この事件は私が担当しました。
 あとの2つの判例は、商標として機能するかという問題です。UNDER THE SUN事件というのは、アルバムで使われたUNDER THE SUNが商標の使用かという点が問題になりました。そこで、アルバムで使われたUNDER THE SUNは商標の使用ではなく、FOR LIFEが商品の出所表示機能であるという判断が出ました。これはある意味常識的な判断で、タイトルには商標権がおよばないということです。
 それからELLEGARDEN事件というものがあります。『ELLE』という雑誌ですが、タイトルの「ELLE」にも商標権があって、グループのELLEGARDENは商標権侵害かという事件です。不正競争および商標権侵害かという問題になりました。そして、高裁では、「ELLE」という字が非常に強調された場合は侵害だという判断が下されました。しかし、この事例の地裁では全て侵害だとされているので、どれが似ているか似ていないかといった場合、なかなか微妙な判断になるということです
 最後は駆け足になって申し訳ありませんでしたが、私の話は以上とさせていただきます。皆さんが著作権を勉強するうえで、ぜひご理解いただきたいのは、著作権の問題を考えるときは何が問題となっているか、何を保護しようとしているかが重要だということです。その際には著作者を保護することが大事ですが、それを利用する人も保護しなければいけない。そして、できるだけそれを自由に利用できる社会の要請も考えなければいけません。それから、先ほど映画の保護期間が長くなり70年になったと言いましたが、どういうものを保護するかという文化政策も考えなければいけません。また、映画については映画制作者の著作権に帰属するので、投資を保護することも考えなければいけません。このように、さまざまな考慮要素について、バランスを取りながら、いろいろな解釈を展開するのが弁護士の仕事です。皆さんが今後いろんなことを研究したり、社会に出た際には、「この法律の権利は何を保護しようとしているのか」ということを、その保護と利益を調整をしながらバランス良く考えることが重要だと思います。今日お話しした内容は盛りだくさんでしたが、その中で皆さんに少しでもお役に立つことがあればと思っています。

以上

【参考文献】
『著作権とは何か』(福井健策・集英社新書)
『著作権の考え方』(岡本 薫・岩波新書)





page top





後藤先生