第7回 2008年11月8日 
動画配信の現状と展望」



講師:杉本 誠司(すぎもと・せいじ)先生

株式会社ドワンゴにてモバイル向けビジネスツールや電子書籍サイトなどの新規事業を担当し、
メールポータル「ニワンゴ」の立ち上げに携わる。
株式会社ニワンゴ代表取締役社長
株式会社ドワンゴ ニコニコ事業本部事業副本部長 兼 第一事業推進部部長
株式会社スカイスクレイパー取締役(現任)

「動画配信の現状と展望」




はじめに

 いま反畑先生からお話があったように、ニコニコ動画も権利の話がよく絡んでくることは皆さんご存じだと思います。「著作権」の使用そのものであったり、あるいは隣接権に関わる「同一性の保持」や「送信可能化権」などという言葉が、我々のサービスと密接に関わったり論点になることも多いので、後半ではニコニコ動画ではどういうことが問題になり、そしてどうしているのかということをご紹介したいと思います。前半では、ニコニコ動画とはどういうものかについて述べます。皆さんの中でニコニコ動画を使ったことのある方は手を挙げてください。半分以上いらっしゃいますから、ニコニコ動画のことをご存じだという前提でお話しします。そして、運営側からの視点で「ニコニコ動画ではこんなことが起きている」ということを事例を交えてご紹介したいと思います。

1. ニコニコ動画とは?

ニコニコ動画というのはご存じのとおり動画共有サービスですが、「You TubeやYAHOO! の動画とは何が違うのですか」という質問をよくされます。そして僕たちは、「ニコニコ動画はYou Tubeと似ていますが、全然違うのですよ」という話をします。どこが違うのかというと、動画を共有する時点では全く一緒なのですが、ニコニコ動画はコメントを打ち込むことができ、それがネットにつながっているいろんな人と同時に共有されるところです。
           【資料サイト 『猫鍋』が再生されました】
 例えばこれは猫鍋ですが、ここに僕が「かわいい」と打ち込むと、ほかの人にも「かわいい」が伝達していきます。皆が共有して「かわいいね」と思ってくれるので、動画というよりもその場が盛り上がっていくのです。そうすると、動画を見るという行為自体も重要なのですが、それ以上に「かわいい」という言葉を交わしたりコミュニケーションを取ることが、ニコニコ動画のサービスのキーになってきます。つまり、ユーザーも知らず知らずに楽しんでいるというサービスなのです。
 そして次に何が起こるかというと、例えばYou Tubeであがっている猫鍋の動画は1回見ればもう見る必要はないのですが、ニコニコ動画の場合は毎日見ます。中には毎時間見たり、ずっと見ている人もいます。なぜ飽きもせずに同じ動画を何回も見るのかというと、2回目以降に猫鍋を見るとき、この動画はテンプレート・背景になっており、猫鍋について語り合う掲示板やチャットルームの形に変わっているからです。そして、何が起きているのかということを逐一チェックしているのです。ですから、ニコニコ動画は動画共有サービスという見え方はしていますが、中身はどちらかというとチャットであったりmixiみたいなSNSのような、ソーシャルな出会いの場や話し合いの場という雰囲気が強くなっています。
 また一つひとつの動画はコミュニティ化していますから、コミュニティを形成するキーとなる人が動画の投稿者となります。その人たちが行う自己表現に対して、いろいろ話し合ったり応援してほしいというような行為がニコニコ動画の中で起きてきます。
 動画を共有していることはコミュニケーションでもあるので、僕たちはキーワードの1つとして「動画共有型のコミュニケーションサービス」と呼んでいます。もう1つキーワードが「非同期コミュニケーション」。ここに「かわいい」と書いてあります。「かわいい」という打ち込みをニコニコ動画で見たとしても、打ち込まれたのがリアルタイムではないので、昨日なのか一昨日なのか10日前なのか半年前なのかわからないですが、「かわいい」って誰かが書いています。そして改めて猫鍋を見たときに、やはり「かわいい」というコメントがあるタイミングで出てくるのです。つまり「かわいい」と打った人がネットに接続している可能性がなくても、見ている本人としては今「かわいい」と誰かが言ってくれたような錯覚に陥ります。それがニコニコ動画のもう1つの仕掛けで、すべてのコメントのデータが動画と一緒にログとして残っていますから、それをユーザーに対してぶつけることで、全くネットにつながっていない状態でもいろんな人がつながって、コミュニケーションが取れているような状態になります。それによってユーザーも満足感が得られるというコミュニケーションのサービスを僕たちは成立させています。相手と時間を同期しなくても、時間を超えてコミュニケーションできるニコニコ動画というのは、非同期型のコミュニケーションでもあるのです。

2. 会員登録者数

ニコニコ動画ユーザーは、もうすぐ1,000万人を超えようとしています。これが10月31日現在なので、だいたい今月中には超えてしまうだろうと言われています。モバイル会員も250万人を超えていて、先日もソフトバンクに対応したので少しユーザーが増え始めてきました。皆さんもモバイルで動画を見ることが多いと思いますが、動画でニコニコしようという人が急速に増えてきています。

3. ユーザー構成

ユーザー構成は開始以来ずっと、男性が70%くらいで女性が30%くらいですが、少しずつ女性が増えています。年代別では20代がほぼ半分で、これもサービス開始当初からあまり変わっていません。しかし最近になって30代と10代が逆転現象を起こしています。最初は30代が多かったのですが、今は10代の学生の方がとても多いようです。皆さんのような大学生はもちろん、最近では高校生や中学生が頻繁にニコニコ動画を利用しています。仕事上でお付き合いのある方からは、「うちの子がはまってしまってしょうがないのですよ」という話がよく出ます。このように、ニコニコ動画が低年齢層に広がりつつあるということです。

4. 1日の平均利用状況

それから、1日の利用状況がデータとして出ていまして、ちょっと想像がつかないと思いますが1日に6,500万PVあります。月間にすると20億くらいになり、日本のウェブサイトの中では3番目や4番目くらいの位置で、大体mixiと同じだと思えばいいと思います。そして訪問者数が1日に230万人。1,000万人近くいる会員の20%強が毎日来ています。こういうオンライン型のサービスでは通常10%くらいなのでアクティブ率がいい、つまりユーザーの動きが非常に良いという状況になっています。
 それから、230万人の方が1日に1,900万回動画を再生して、コメントを260万回出すということです。想像がつかないくらい多いわけで、動画の投稿も1日に10,000件くらいあります。それから、ポイントとなる平均の滞在時間は30分を超えています。皆さんもネットに毎日接続していると思いますが、ニコニコ動画を見る時間は結構長いと思います。しかし通常のウェブサイトを見る場合、30分を超えることはほとんどないと思うのです。僕もいろんなウェブサイトをサーフィンしますが、1つのサイトに30分以上いることはありません。でもニコニコ動画を見ていると、動画の長さがあったりするので20分や30分はすぐに経ってしまいます。このように滞在時間が非常に長いという点で、ニコニコ動画は高い評価を受けています。ちなみに統計調査をしている会社によると、30分強というのはYou Tubeの約倍の時間ユーザーが滞在しているということです。
         【資料サイト 『ニコニコ動画』が再生されました】
 では、ニコニコ動画でどんなことが起きているか見てみましょう。これは、猫鍋という非常に有名な動画です。単純にかわいいというだけですが、ワイドショーで評判になったりDVDになったり、あるいは写真集になったりしていて、この動画は100万回以上見られています。そして何が楽しいかというと、「かわいい」と打ち込めるところです。そのことはユーザーが一番理解していると思います。
 ニコニコ動画の中で自己表現をしたいという方がかなり増えています。これなんかもご存じだと思いますが、ニコニコ動画を軸に流行っていった音声合成ソフトの『初音ミク』です。大学生が作詞・作曲したものを機械が歌っているのですが、着うたや着メロとしても売られており、この曲に対する権利を得ている大学生がかなりの収益を上げているということでも代表的なケースです。
 それから、こういうクリエイティブがつくられることによって、いろんな人がここに参加してコミュニケーションをします。今ものすごく字がグワッと出ましたが、僕らはダンマクと呼んでいて、このシーンでは全く動画が見られません。でも見なくていいんです、動画ではありませんから。ここで皆が何をやっているかというと、ここは「みっくみくにしてあげる」というサビの部分です。それに従ってキーボードを打ち込み合唱しています。非常にオタクな行為ですが、ニコニコ動画の中ではこれが1つのトレンドになっています。こういうものがトレンドになることで、ニコニコ動画に対するサービスが伝播したり、ネットでの新しい遊び方やコミュニケーションの取り方だということで、非常にもてはやされたのだと思います。
 ちょっと前に模様みたいなものが出たと思いますが、これもコメントができる機能をうまく使ったもので、アスキーアートのようなものです。絵を描くので「コメント職人」と呼ばれていますが、コメントアートをつくってそれをニコニコ動画で展開するもので、これも1つの文化として定着しています。
 さらに、例えば音声合成ソフトウエアでできた作品があると、それに対して加工してみようという人が出てきます。そういう人は動画ファンでもあるのですが、もっと自己表現をしたいと考えている人です。そういう人がニコニコ動画で非常に人気になったりします。これももとは初音ミクの曲で『メルト』と言いますが、その曲に感銘を受けたユーザーが自分たちで演奏したり歌ったりしたものを収録してアップロードすると、さらにファンが付くという連鎖を繰り返します。
 これなんかは内容的には完全な素人ですが、演奏している人たちはネット上で知り合ったので、直接会ったことがないということもあります。場合によってはイベントに呼ばれて初めて顔を合わせて、「さあやってみよう」というケースが出てきたりします。ですから、今歌っていた女の子は僕たちも完全にプロフィールを知っているわけではないのですが、高校生らしいという感じです。
 こういう人たちの中でさらに人気が出ると、企業やレコード会社、プロダクションの方から、「すごく流行っているものがあるようだが、うちでデビューしてもらえないかな」と言われることが結構出てきているので、これについては後でご紹介します。
 このように、ニコニコ動画が単なるネット上のコミュニティや、ネット上で自己表現するお楽しみの場を超えて、新しいアーティストや商品を生んでいくような場所になっています。格好良く言えば、「経済効果を出している」というようなことを僕たちも言っていますし、実際にそういうことが起きています。そういった意味ではYou TubeやYAHOO!動画は経済活動まで巻き起こしていないので、そこがニコニコ動画と違う点の1つであったりします。

5. ニコニコ経済効果@ 「ニコニコ市場」

ニコニコ動画が経済効果を引き起こしたものの1つとして、「ニコニコ市場」というのがあります。これはニコニコ動画の新しい楽しみ方で、ニコニコ動画でEC(電子商取引)ができるというものです。例えばAmazonやYAHOO!ショッピングやdwango.jpというのは携帯のコンテンツサイトで、着メロや着うたといったものを動画と一緒に商品に張り付けて売ったり買ったりできます。それそのものは、ドロップシッピングみたいなことで語られることが多いのですが、ニコニコ動画では売ったり買ったりすることをコミュニケーションとして成立させようとしています。
 これはエレクトーンがすごくうまい方の動画ですが、まだ見たことがない人が多いと思います。この方がすばらしい演奏をするのですが、ちょっと酔っぱらっているので着ぐるみを着て演奏したりするそうです。では、曲がかかる前にニコニコ市場を見てみると、こんな感じで着ぐるみがあったり、あとはエレクトーンも通信販売で売っています。エレクトーンが『パイレーツ・オブ・カリビアン』の曲を奏でるので、『パイレーツ・オブ・カリビアン』のサウンドトラックやブラックパール号のフィギュアというものをユーザーが勝手に張り付けるのです。「こんなものがあったら面白いよね」ということで紹介したいユーザーと、「それが買えるんだ」と買ってしまうユーザー。その出会いの場としてニコニコ市場が成立しています。
 僕たちもそうでしたが、「これってエレクトーンで弾けるんだね」という話をしつつ、そのエレクトーンが売っているのがわかると結構感動するわけです。さすがにここで買う人はあまりいないのですが、買ってみようかなと思う人は結構いるという感じです。この着ぐるみでしたら結構買う人がいるので、新しいECの形としてこういうことが起きています。実際、このECでAmazonやYAHOO!などを合算すると、1カ月で3億円くらいニコニコ動画でモノが売れています。これはすごいことで、Amazonの方もびっくりしていました。「なぜ売れるのですか?」と言われたので、「ユーザーが勝手にやっています」と答えたら、ちょっとびっくりして「新しいマーケティングですね」という話をしてくれたこともあります。

6. ニコニコ経済効果A 「ニコニコ割り込み」

また僕たちは、「ニコニコ割り込み」という機能をユーザーに向けて実施しています。これもユーザーに楽しんでもらうためのきっかけづくりなのですが、19時と0時と2時に動画が止まってしまいます。止まって「今19時です」と知らせてくれたり、「0時ごろですよ〜」と教えてくれたりします。それによってユーザーは非常に迷惑を被るのですが、それがまた話題になります。このニコニコ割り込みに対するユーザーの感想は「うざい」。そして、「非常にうざい」ということを人に言いたくなるので、それがまた伝播していき、「うざい時間に皆で集まろうではないか」「そのうざさを共感しようではないか」ということがニコニコ動画の中で起きるというのがコミュニケーションの1つなのです。
 最も人が集まるのは0時なのですが、ユーザーはわざわざ動画が止まる0時に、「あっそろそろ0時だからニコ動見るわ」と言って入ってきます。そして、動画ランキングが上の人気のある動画を皆で見ながらその時を迎えるのです。そうすると画面では、「うおぉ、やっぱりうざいね」とか「今日のニコ割見た?」と言って話し合っていくというコミュニケーションの取り方をしていきます。
 しかも広告活動の場にもなっていて、ここはバナーみたいになっていますが、こういった企業がスポンサーとして入ってきています。一番左の上は明治製菓のきのこの山で、ここにはのっていませんが過去にはコカ・コーラが出たりしました。ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂというのは映画の宣伝です。シャッターも映画です。また日経就職ナビというところも出しています。では、どんなものかと言う前に1つ面白い事例があるので紹介します。
          【資料サイト 『ニコニコ動画』が再生されました】
 これは先ほど紹介した初音ミクという音声合成ソフトのフィギュアです。ネンドロイドというフィギュアがここで買えます。そしてこのフィギュアを買ったユーザーは、これを3Dアニメのソフトと合成して動かします。僕たちもびっくりしたんですが、それがすごくいい出来なのです。もっとびっくりしたのは、このフィギュアを売っている会社の社長さんです。あまりにもびっくりして、先ほどのニコ割広告というのを出してくれました。どんな広告を出したかというと、ちょうど先ほどの動画の上に流れるのですが、本来は「ニコニコ動画」と書いてあるところに流れます。
          【資料サイト 『ニコニコ動画』(ニコ割広告)が再生されました】
 「ニコニコ動画。グッドスマイルカンパニー代表・アキです。初音ミクの動画をつくった方を探しています。感動しました。お礼を言いたいので、このアドレスまでご連絡をお願いします。グッドスマイルカンパニーが午前2時くらいにお知らせします(時報)」。
 このように、グッドスマイルカンパニーというフィギュア会社の社長さんが作品のお礼を言いつつも、実は宣伝になっています。つまり、メーカーがユーザーに目線を下げて「お礼が言いたい」と言うと、「アキさんっていい人だな」とユーザーが思う。これだけのフィギュアをつくる、あるいはこんなことをしてくれる会社であれば、フィギュアを買ってしまおうかなという人が出てきて、これでまたモノが売れるという連鎖がニコ割では起きています。

7. ニコニコ経済効果B 「ニコニコ生放送」

さらに僕たちは、新しいイベントの形である「ニコニコ生放送」というものを仕掛けています。ニコニコ動画はサーバーに保存された動画を引っ張り出し、皆で共有して見るというもので、You Tubeなんかもそうです。しかし、ニコニコ生放送では何をするかというと、単純にライブを発信します。
 例えば教室にカメラを持ち込んでニコニコ動画と接続し、この授業風景をそのまま流します。そうするといろんなユーザーがその動画を共有するわけですが、ついでにコメントも共有します。そうすると臨場感が出てくる。このライブを見ている人たちが、この教室の皆さんの顔や僕のやっていることに対して感想を言い始めます。「何番目の子、かわいくねえ」「何番目の人、寝てるよね」とか、「このプレゼンテーション、前に見たことがあるよ」というふうに勝手に始めるのです。そうすると、お茶の間でテレビを見ているような状況が再現され、さらにリアルタイムでもっと大勢の人がやってくるので、例えばライブ会場でワアワア歓声をあげたり、スポーツ観戦をしながらヤジを飛ばしたり声援を送るということが、ネットを通じてリアルタイムでできるのです。当然演じる側もライブなので、まさにライブというものがその場で共有できます。
 これまでもネットライブは実現していましたが、それは1人でパソコンに向かって見るだけなので、ただのビデオ・オン・デマンド、つまりビデオを見るだけの世界観でした。しかし、ニコニコ生放送ではリアルタイムで皆が参加できるという付加価値があり、いろんな人と感情を共有しながらライブを観ることができます。ライブといってもネットワーク上でしかやらないので、どこかのドームやホールを借り切るといったコストも手間も掛けずに、非常に大きなイベントができます。現状では、この生放送に1万人までの同時接続を可能にしており、それは日本武道館と同じくらいの収容規模になりますから「ニコ道館」と呼んでいます。
 これは、ニコ道館で行われたライブイベントのラインナップの一部です。ちょうど先週の日曜日、東京の東洋大学に民主党の小沢さんを招いて、1万人ネット会議が開かれました。
 ここでは小沢さんに対してユーザーがいろんな質問をし、小沢さんがニコニコ動画の中でライブで答えます。それに対してまたほかの人が質問して、その質問がイケていれば「おぉ、すばらしい。パチパチパチパチ」と拍手を送ります。音は共有できないので、「パチパチ」と書きます。それから、麻生首相の街頭演説も許可を得てやってみました。
 ライブイベントとしては、アニメのサマーライブというのをやりました。右側の上から2番目はヒップ・ホップ系のライブです。先日はYAHOO! の協力を得て、ソフトバンクとオリックスの野球の試合を生中継で流しました。これなんかはスタジアムに行かなくても生で観られますし、ついでにヤジを飛ばしたり、人の解説も聞けるので非常に盛り上がりました。1万人が同時に見ることができるのですが、だいたい平均すると延べ3万人とか、多いときは5万人がその場に集まります。短いもので30分、長いもので2時間くらいの間にそれくらいの数の方に見ていただくと、コメントが最大で50万コメント、平均でも20万くらいのコメントが打たれます。ですからこのような臨場感に対して、皆が「何か言いたい」「何か共有したい」という気持ちを強く持っているのだということがわかりますし、ネットの利用者は、ネットを通してでもリアリティのある空間を求めているんだなということがわかってきます。

8. ニコニコ経済効果Cクリエイターの創出」

もう一度話が戻りますが、ニコニコ動画ではいろんな人がいろんな動画をあげたり、いろんなパフォーマンスをしています。それがニコニコ動画の中だけではなく、企業やメーカーの眼にとまったりして、ヒット商品や新しいアーティストを生み出し、CDやDVD、本、あるいはイベントになったりするということが起こっています。

9. ニコニコから生まれた商品

これらはその一部で、CDをメインに挙げてみましたけれども、ニコニコ動画ですごく人気の上がったアーティストのものです。もともとは素人ですが、いろんなアニメの歌を歌ったり演奏したり、あるいはオリジナルの曲を歌ってみたりということで人気が出てきました。それに眼を付けたレコードメーカーの方から、「うちで出してみない?」と言われ、その成果物が商品になったケースです。特に右側の上の「Re: Package」と書いてあるものはビクターから出ているのですが、先ほどの合成音声の初音ミクに歌わせたものの特集で、アルバムがオリコン初登場で5位になったり、アマゾンの音楽ランキングで2位になったりしました。通常のアーティストでもそこまでいかないのに、ニコニコ動画発でヒットチャートに入ってしまうということが起きています。全てではありませんが、音楽トレンドみたいなものもニコニコ動画から生まれるという現象が出てきている感じがします。
 これはご存じの方も多いかと思いますが、ロックマンというゲームのキャラクターを歌ったもので、こういうものがいろんなコミックのイベントで歌われたりします。これがオリジナルなのですが、これをさらにいろんなところで歌う人がすごく増えていて、それに眼を付けたメーカーの方によって、『エアーマンが倒せない』というCDになりました。
 それから、これはコンテンツとしてはちょっと微妙ですが、あえて今日は見せてしまいます。例えば徳間からCDを出しているパフューム。今年結構流行っていて、今日か明日かに武道館でコンサートをするらしいです。もともとは、ニコニコ動画でバックに流れているアイドルマスターというXboxのアイドル育成ゲームに合わせて、いろんなプロモーションビデオをつくるというのが非常に流行っていました。それに一番マッチした曲の1つとしてパフュームのこの曲がありました。これを1つの軸としてパフュームの人気が上がり、今みたいにいろんなところで取り上げられるようになったのです。それと同時に、このXboxのアイドルマスターもすごく売れています。当時Xboxはほとんど売れませんでしたが、ニコニコ動画の中ではWiiよりもXboxが売れた時期がありました。こういうロイヤリティの高いユーザーが付いていって、今の彼女たちを支えているというような現象を引き起こしています。
 あとは、最近吉幾三さんがリバイバルで流行っています。僕たちの親会社であるドワンゴという会社も新しく着うたや着メロを出していいと言っていますが、その辺のブームの1つを引き起こしたのが、このパフュームの曲に吉幾三さんの曲を乗せたリミックスです。これはまた権利のところで触れるので、いろいろと細かい話がありますがいったん素直に聴いてください。
             【資料音楽 吉幾三『おら、東京さ行くだ』が流されました】
 吉幾三さんもニコニコ動画がきっかけで流行ったので、「ニコニコ動画にぜひ協力してくれませんか」とか「着うたを新しく収録したいんですが」と頼んだのですが、当初は「何だかよくわからないからイヤだ」ということでした。ところが娘さんから、「お父さん、格好いいからやりなよ」と言われ、それでやることになったのです。吉さんは、今ではこういうリミックスに対して非常に積極的で、ニコニコ動画に対しても積極的に協力していただける態勢ができています。
 『おら東京さ行くだ』というオリジナル曲がヒットしたのはずいぶん前ですが、そのとき娘さんが大層いじめられてしまったということです。「お願いだからお父さん、こういう歌は歌わないでほしい」ということを涙ながらに懇願されたのですが、当時はその曲が非常にヒットしたので、やはり生活には代えられないからと娘さんの意見は無視されたのです。「あのときは本当にすまない思いをさせたが、今は娘が格好いいと言ってくれるからやってしまおう」と言って、積極的になってくださっています。

10. ニコニコ動画

 これまでの話はほんの一部でして、ニコニコ動画においては僕たち運営側からも積極的にいろんなことを仕掛けています。そして、僕たちの予想以上にいろんな人がいろんな楽しみ方をしてくれているのですが、その根源にあるのは全てコミュニケーションなのです。単純に動画を見たいという欲求から、ニコニコ動画を見ている方もおられます。最初はコメントが邪魔だといって消して見る方が多いのですが、いつの間にかコメントがないと面白くないし、見る意味がないと言われるようになります。動画をつくる方もコメントが入るということをすごく意識してつくるようになってきています。例えば動画ではなく、音もない完全なブラックの状態で流している方がいても、それに対して「この曲すごくいいね」とコメントをつける方がいます。そうすると「そうだね、いいね」と勝手に話しが始まります。このように、コミュニケーションの場が貪欲に求められている状況が生まれていると思っています。

11.ニコニコ権利問題@

後半はもう少し真面目にニコニコ動画で何が起こっているかということをお話しします。皆さんもニュースやいろんなメディアを通じて、動画共有サービスが社会問題になっているということはご存じだと思います。そもそも何が問題なのかというところを、もう一度ひも解いてみたいと思います。
 しかしその前に、我々のスタンスを明快にした方がいいですね。You Tubeも同じことを言っていると思いますが、僕たちは基本的に、ネット上に投稿していただいた皆さんがつくった動画やコンテンツを、さらに共有するための場を提供しています。プラットホームという言い方をよくするのですが、場は提供しているが皆さんが登録してくれたコンテンツの管理は厳密に言うと行っていません。基本的には、それは自己責任でやってくださいというスタンスを貫いています。なぜなら我々はプロバイダーだからです。我々が皆さんからコンテンツをお預かりして自ら配信する場合は違う立場になってしまうので、僕たちはニコニコ動画を通して、あくまでも場の提供に徹しますという宣言をさせていただいています。
 しかし、授業で聞いて初めて著作権とは何かとわかる方もいるように、権利のあり方についてはほとんど知られていなかったりします。そうすると何が起こるかというと、当然知っている方も含めてですが、自分なりに面白い動画をいろいろつくってみようということになります。それ自体は純粋な気持ちなのでいいのですが、例えば昨日見たアニメのワンシーンがすごく面白かったので、それをちょっと引っこ抜いて自分でアフレコして、ホットペッパーのCMみたいなのをつくり、面白いから皆に見せたいとアップロードしてしまう。これは権利侵害になってしまいます。
 あるいは、このあいだ観た映画がすごく面白かったから、DVDからリッピングしてネット上にあげてしまうとか。友だちやいろんな人に見せてあげたいと思うのは親切心だったりするのですが、そういうことがニコニコ動画やYou Tube などのいったん動画を投稿して共有するサービスの中ではどうしても見られがちです。僕たちもそういったものに対しては全く本意ではないのですが、使い方は自己責任に任せているので、自己責任においてそういうことをやってしまう方がいるのです。責任は取れないんだけれどもやってしまう。それは「よくわかっていないから」とか「よくわかっているが自分は大丈夫だと思うから」とか、いろんな理由があると思うんですが、とにかくそういうことが起こってしまいます。
 そういうことが起きて誰が怒るのかというと、その権利を持っている方です。その方からすると「誰の許しを得て使っているのだ」ということになります。「そんなことをされたらCDやDVDが売れなくなってしまうから勘弁して」ということを言い出すわけです。でもニコニコ動画やYou Tubeの場合は、そのユーザーに対して直接言う窓口はありません。誰があげているのかよくわからないし、その人に直接連絡をとる手立てもないのに、「運営している者はわかるはずだから、ちゃんと管理しなさい」という話が取り沙汰されます。
 僕たちも確かにおっしゃる通りだと思います。権利というのは権利者に帰属しているもので、勝手に公衆送信しても変えてもいけません。同一性の保持をちゃんとしなければいけないということで、権利者の方々からご意見をいただき、また権利者の方から法律に則ってこれはダメだと言われたものに関しては、きちんと対応するようにしています。これは「プロバイダー責任制限法」という法律に則った形で、権利をもつ方が「これはうちの権利に帰属しているからダメじゃないか」と言われたときに、その権利が侵害されているという事実関係がはっきりするのです。さらに、それが本当なのかということを我々なりにきちんと調査をさせていただいてから、「これはおかしくないですか」というようなノーティスを動画をあげたユーザーに対して施します。あるいは、「権利を侵害していると権利者の方が言っていますよ」と知らせます。そして、通知期間を過ぎたり、完全に権利を侵害していることがわかった段階でその動画を排除・削除します。面白いものもあったりするので非常に残念なのですが、やはりルールはルールですから、それは削除させていただくという処置を基本的にはとっているという状況です。
 ただ、そういうのを知ってか知らずか、やってしまう方がすごく多くなっているので、権利侵害問題が非常に多くなってきているという感じがします。それは映像だけではなく音楽もそうです。BGMと称してCD音源を引っこ抜いて動画の状態にしてあげる方もいるので、非常に残念な話ですが、そういった行為に対して権利者の方からクレームが出ていることが現状起こっている問題です。
 それからニコニコ動画の上にコメントが流れますが、これには問題が2つあって、1つは動画にコメントを被せるので改変しているのではないかということです。要するに同一性保持の侵害であると言われたりしますが、これに関しては我々に正当な持論があります。少しシステム上の話になるのですが、動画とコメントはシステム上サーバーが別々です。フォットショップを使ったことのある人はわかると思いますが、レイヤーといってデータが別になっています。つまり見ている動画の上に、もう1枚透過するデータを被せたのがコメントのデータです。つまりコメントの下にはオリジナルの、コメントのないデータが流れているのがニコニコ動画の仕組みです。透けているので被っているように見えますが、厳密に言うとそれぞれのデータは別々のところに格納され、別々に表示されているのです。ということで、同一性の保持は侵害していないということを、我々は声を大にして言っています。
 もう1つ問題になっているのは、コメントそのものが誹謗中傷してしまうことです。当然、賛美のコメントもたくさんあるのですが、中には心ない方が「死んじまえ」とか、その人の身体的な特徴を書いたりする方がいます。これに関しては、法律で片づかない問題でもありますから、一つひとつ通報していただき、ご本人の所在を明らかにしていただいた段階で、運営措置としてそのようなコメントを落とさせていただくということをしています。

12. ニニコニコ権利問題A

法律に関わる部分としては、たまたまその人の住所や電話番号を知っているからといって、個人情報を公の場に書き込んでしまう方がいることです。これは完全に個人情報保護法に抵触しますので、発見次第落とさせていただくという措置を取っています。
 このようにいろんなクレームが起きているのですが、先ほど述べたように我々はプロバイダー責任制限法に則って、音楽著作権を勝手に使った場合でも、権利者の方が通知してくださったり、クレームを入れてくだされば即座に対応します。それで納得してくだされば、その問題に関しては平和的に話が進むのですが、権利者の方と我々業者の争点がズレてしまった場合は我々の管理責任が問われます。「見ればわかるはずなのだから、発見次第対処しなさい」というのが権利者側の持論であります。ただ法律上は、権利者の方が権利を侵害されたら対処すればいいと書いてあるので、まずはそのように対応させていただきます。しかし権利者の方々からすると、「法律ではそうかもしれないが、誰が歌っているか聴けばわかるし、動画を見ればどの番組でどの俳優さんかわかるでしょう。明らかに権利侵害なんだからさっさと落としなさいよ」となります。それはおっしゃる通りなのですが、曲であればヒットチャートにのっているもの、俳優であれば人気のある方はすぐわかる場合もありますが、わからないものも山ほどあります。ユーザーもわざとそれっぽいものをつくってあげる場合があるので、実は運営側から見ても非常にわかりづらいというのが現状なのです。
 公平性を保つためにわかるものだけ落とすというのではなく、わかるものもわからないものも、ある一定のレギュレーションに基づいてちゃんと管理していくということが成立するのであれば、もちろん喜んでやっていきます。ですから、ニコニコ動画の運営者として、権利者の方々に公平に対応させていただくために、レギュレーションをちゃんと決めていこうということでいろいろな話をしています。
 実際、ニコニコ動画そのものが新しい場なので、それを取り締まる動きが権利者側にもなかったため、では誰がやるんだという話になっています。そうすると、「サービスを始めた人がやるのが当然だろう」というのが権利者側の持論です。それに対して僕たちは、「法律上の責任はまっとうしているので、そこは権利者の方が守ってください」と主張します。なぜなら権利物は権利者のものだからです。このような立場の違いから、なかなか話がまとまらないというのがこれまで話し合ってきた内容で、論点の中心の部分なのです。
 特に日本の場合、管理責任に関しては法律上できちん定められていないという状況です。今後は判例に基づいて決まっていくかと思いますが、とにかく現状としては決まっていない。事例をつくってしまうことで、どちらが管理責任を取るかを決めていきたいという双方の思いがあるので、現在はそのパワーバランスを取っている状況なのかなと思います。
 これは僕たちの意見ですが、著作権の権利を守っていく場合、海外の事例を見ると権利者側により責任が重くのることが結構多いのです。日本においても、流れ的にはそちらの方にやや傾き始めているのではないかと思います。権利者の方々も積極的になり始めています。ただ、これまではその辺があやふやであったことと、とりあえず押し付けてしまえという思いが双方にあったので問題になったということはあります。
 我々もニコニコ動画を続けていくため、権利者の方々と良い方向に向かっていくために、できる限りの努力をしていこうと思っています。もちろん法律上の責任はまっとうしなければいけませんが、具体的にどれが問題なのかという情報を事前に教えていただければ、権利者の方の代行という形で見つけていく、あるいは判断を仰ぎながら対応していくというふうに、これまでもいろいろ話し合っています。実際、チームみたいなものを会社内に組織して、権利対応型のオペレーションを始めています。サービス上の責任を権利者の方に求められたので、法律上の責任と管理上の責任のバランスをうまく取るため、要するにニコニコ動画が世の中に認められるサービスになっていくため、商行為としてちゃんとバランスを取っていこうということで、僕たちからも積極的に歩み寄ったという事例があります。

13. ニコニコ権利問題B

過去にも何回か報道になっていると思いますが、権利者側との対話としてはテレビ局の方々が集まる中で話し合いをしたり、あるいはアニメーションの制作会社が集まってできた権利者の団体やソフトウエア関係の団体、音楽関係の権利者の団体の方たちと、いわゆる団体協議という形でいろいろなケースについてお話しさせていただいています。そして事前に情報をいただけるものに関しては、我々の自助努力という形で対応させていただいたり、権利所在をはっきりさせたものに関しては、防止策を講じて対応していくということをしています。
 このようなことは昨年くらいからかなり積極的に行っており、ニコニコ動画の中でもだいぶ減ってきたところ、JASRACやイーライセンスといった著作権の管理団体から、ニコニコ動画の中で音楽著作権の使用を認めるという話が来ました。そして、著作権使用料を払えば使用を許可するという許諾契約を取ることができたのです。
 これでニコニコ動画の中では、先ほどのように演奏したり歌ったりする行為が認められるようになりました。要するにJASRACの登録楽曲の音楽著作権を使うということで、その音を奏でるとかその歌の歌詞を歌うといった行為に関しては完全に許諾が取れているのです。ただ一般的にその音源とされるCDには原盤権が存在していて、この原盤権の許諾に関してはそれぞれのレコードメーカーや原著作者に帰属しているケースがあるので、また別の交渉が発生します。
 例えばニコニコ動画の中でCDをかけたり動画を使うことに関しては、各レコードメーカーを主体としたCDの音源を持っている方たちとの協議というのが別途必要になってきます。こういったところも今はかなり進んできていて、今後はそういうものも許諾になるケースがあると思います。そうすれば公衆送信そのものも可能になってくると思いますので、もうしばらくお時間をいただければという感じです。また動画を使っていいかどうかというのは、動画の権利を持つ方との協議ということで現在鋭意交渉中です。
 権利関係に関してはとにかく権利者の方々と対話の時間を持ち、どちらに責任があるという話をする前に、ちゃんと処理する方法を見つけましょうというようなことを話し合っています。

13. ニコニコ権利問題C

このような取り組みの中で僕たちは今、「ニコニ・コモンズ」「ニコニコ・チャンネル」「ライツ・コントロール・プログラム」という3つの施策を講じています。名前だけ聞くと全くわかりませんが、ニコニ・コモンズというのはいわゆるクリエイティブコモンズ的な話です。クリエイターがつくった著作物の権利をある程度伝播させていくために、皆で使うためのルールづくりをしようということです。クリエイティブコモンズの場合はルールづくりだけですが、そうではなくてそれを皆に使ってもらうための場、アップロードすることができてダウンロードすることができる場をつくろうというものです。
 エイベックスのGIRL NEXT DOORというアーティストに賛同していただいており、「自分たちのプロモーションビデオの素材を使って、皆で創作してください」というお許しをいただきました。これに関しては改変の許諾も受けていますので、それを画像としてリミックスして使うということが許されています。
 それからニコニコ・チャンネルは、今ニコニコ動画の中で公式動画というネーミングで展開されていますが、コンテンツホルダーと呼ばれる方たち、ここで言うとロックマンというのがカプコンで、その右がMTV、よしよし動画というのが吉本興業、そしてエイベックスなどがいます。ニコニコ動画の中で、その動画や音声などのコンテンツを持っている方にメーカー発でアップロードしてもらいます。それらを皆で共有しながら、どんどんコミュニケーションを取っていくという行為を現在チャンネルという形で始めています。これは、「いったんメーカーから提供されたオリジナルの動画や音源を、皆でちゃんと聴いてくださいね」ということに対して協力されており、権利者そのものがアップロードしているので問題がありません。今後はそれを改変したり、あるいは引用することが許されていくのかなと思っています。このように、自分の肖像も含めて権利を持たれている方をニコニコ動画に巻き込むことによって、権利というものをどんどん処理していこうという方向性をつくり出しています。
 それとライツ・コントロール・プログラム。これはサービスという実態はないのですが、音楽著作権というかコンテンツそのものの管理を機械的にやっていくことを僕たちは考えています。これはYou Tubeでも行っている事例です。まずは音源データをメーカーや権利者の方から提供してもらいます。それをニコニコ動画のデータベースの中のライツ・コントロール・プログラムと書いてある部分に保存します。そしてそれをフィンガープリントという状態、指紋の状態と言うのですが、音では聴けない状態に変換して格納します。またユーザーがアップロードした動画も、フィンガープリントとして読み取れる状態に変換して、格納されているデータベースとマッチングしていくのです。
 そうすると、問題がなければ何もマッチしないはずですが、マッチしたものが出るとピコンとお知らせが入ります。つまり、「あなたの動画のこの部分に、どこのどういう音源を使っている可能性がありますが大丈夫ですか」というようなアラートを示したり、当然CDそのものを丸ごと引っこ抜いたようなものは100%マッチングするので、「これはダメですよ」というアラートがユーザーに届く。一方では、「こういうものがあがってきたのですが、どうしますか」ということを権利者の方に通報します。僕たちは中間的な立場ですが、そのようなことをフィンガープリント認証システムを使って今後やっていきます。これには我々も含めて、動画共有型のサービスを行っているところはかなり積極的に取り組んでおり、今後のスタンダードになるのではないかと思っています。

14. ニコニコ権利問題D

最後になりますが、権利者の方々といろんな取り組みを行う中で、どういう動きが出ているかということをお話しします。先ほどご紹介したフィンガープリントのシステムを通じて、簡単に言えば権利侵害をしている動画を発見できます。そして、発見された後にどうするかというのが今後の課題です。これまでの権利者側からすると、「とにかく全部消してしまえ」ということなので、僕たちは発見されたものは全部削除しています。そうするとニコニコ動画が面白くなくなってしまうというのがあるのですが、実はそれが権利者の方々にとってもプラスではなかったりするというのが事実関係としてわかってきました。確かに、権利侵害をされるとCDやDVDが売れなくなると言われる方もいらっしゃいますし、現にそういうデータもあるらしいのですが、それだけではない効果というのが認められてきています。
 先ほどご紹介した通り、ニコニコ動画でパフュームが流行ったり、吉幾三さんがリバイバルでヒットした第一歩めというのは、もしかしたら権利を使ってしまったからかもしれません。それはある意味プロモーションになったということです。フェアユースというものがアメリカの著作法に入っていますが、あくまでも最初は私的な利用であったり、皆に知らせたいというフェアな気持ちからの利用で、決して商用ではなかったのに商用に結びついてしまった。そして一番恩恵を受けているのが実はメーカーであるという事実がなくもないのです。ですからそういったことに対して、メーカーも無視できない状態になってきています。
 そういう観点から、権利を侵害しているものがマッチングしても、全部落としてしまうのではなく、1回見てみようという動きが出てきています。「これはさすがにひどい」「これはアーティストが怒る」というものは落としていきますが、先ほどのパフュームみたいなものに関しては、アーティストも「これなんか自分たちよりもかわいいゲームのアイドルが歌っているわ」とか、ゲームメーカーも「こういうBGMをのっけてくれるんだったらいいね」となるかもしれません。要するにプロモーションになるという判断がされるケースも出てきているのです。ですから、完全な侵害監視をしてそれを排除していくよりも、それを収益に変えていかに貢献するかといったことが積極的に話し合われています。
 ほんの1年前までそんな話は全くなくて、とにかく「落とせ、落とせ」ということで、僕たちも「いやあ、いけませんね」という話をしていたのですが、今年に入ってからは「権利侵害と言われるものを、権利者に還元していけるフローがあるか」ということをとても聞かれるようになりました。やはりニコニコ動画やYou Tubeは、文化として、トレンドとしてもう無くならないだろうという認識を受けているということと、その場においていろいろな経済効果が出てきているということが、権利者の方々にも見えるわけです。相変わらずダメだという方はいらっしゃるのですが、いかにニコニコ動画の中で流行らせるかという動きにシフトしてきているのも事実で、権利者の方々から僕たちに問い合わせが来る場合は、「ニコニコ動画で何をやったら流行るんですか」というような質問をされるケースもすごく多いです。その際は、今までのマーケティングは通用しないので、例えば「これヒットします」とか「これ、今後いいですよ」というような一方通行のアプローチは良くないですと答えています。先ほどのグッドスマイルカンパニーのアキさんのように、ユーザーがいいものを作ってくれたり、いい改変をしてくれたときは、素直にメーカー側もありがとうと言うのがいいし、あるいは「これをよろしくお願いします」という感じでユーザーと立場を同じにしてディスカッションすれば、きっとニコニコ動画の中で受け入れられますよと答えます。「それはネットの社会に受け入れられるということですよ」というようなことを言うようにしています。
 このように権利侵害をいかに防止するかを継続的に協議しながらも、いかに権利を処理してそれを経済活動に変えていくかということを、我々やYou Tubeのような動画コミュニティのサイトの中では頻繁に行われています。レコード会社にしても、ニコニコ動画に対する見方がすごく変わってきて、「この音源ちょっと使ってみない?」という話も内々に出てきたりするので、権利に対する考え方そのものが業界全体で変わってきているということです。
 現状の著作権法ではフェアユースは認められていませんが、ニコニコ動画を運営している側にとっても権利を持っている側にとっても、フェアユースみたいなものがあった方がいいのではないかという流れが出てきています。そういう意味で、現行の著作権法の限界というものが少し見えてきているな、ということが業界では話し合われています。
 つまり、ある程度経済効果をもたらすもの、あるいは原著作者が良いと思うものであれば、許諾を得なくても使っていいのではないかということです。それはデジタルミレニアム法(DMCA)にも制定されている通りです。You Tubeはサーバーそのものがアメリカにあるので、デジタルミレニアム法に準拠した形で考えられており、フェアユースという考え方もYou Tubeの中ではある意味認められています。でも、日本国内において配信されているものに関してはダメだと言っている権利者の方々は日本の法律の上で話しをしているので、会話になっていないという状況です。ですから、その部分をちょっとアメリカよりの考え方、要するにワールドワイドに改変していく必要があるということで、我々のようなサービス事業者たちを巻き込んだ形で、著作権の改変に向かって話は始まっています。そのような協議会が数多く始まっているので、今後はそういったことがトレンドとして起こる可能性があるなと思っています。
 ニコニコ動画は、最初はコミュニティから始まっていろんなトレンドを巻き起こしてきましたが、現在は音楽著作権はもちろんのこと、「著作権」という言葉そのものの考え方を変えていくような効果をもたらしてきています。皆さんにはもっと積極的に参加していただいて、新しい仕組みづくりを一緒にやっていただきたい。そうすればニコニコ動画のサービスがより活性化しますし、皆さんにとっても非常に使いやすい著作権のあり方にブラッシュアップされていくことになると思うので、引き続きニコニコ動画を応援していただければと思います。

―以下、質疑応答―

Q. ニコニコ動画は儲かっているのか教えてほしい。

A. まだ儲かってない。1,000万人が動画を見る環境を揃えるためには、ものすごい数の回線とサーバーが必要で、コストが数億円規模でかかる。それに対して売り上げはある程度上がってはいるものの賄い切れていないため、赤字事業として現在進行中である。

Q. そのうえ権利問題などでお金を払うことになっても、ニコニコ動画を守っていくことに意義があると考えるのか

A. 僕たちはネットに新しい文化をつくり、それを後世に残したいと大まじめに考えている。今はネットでの新しいコミュニケーション方法が望まれていており、皆が模索している最中だと思う。僕たちはそこにマッチするものを提供し、世界中のコミュニケーションの軸になるものをつくることでネットに貢献できるのではと考えている。ネットの中に皆の生きる場所をつくることができないかドワンゴやニワンゴという会社は、企業努力というよりもそういうことをやりたい集団である。そのために、現在一生懸命規模を拡大しているが、それを賄うためにどうすれば売り上げが上がるかということも同時に考えているので、そこがちゃんと転換して健全にお金が稼げるようになれば、もっといい環境がつくれると思っている。

Q. 動画配信社ではなく、利用者に求めることを教えてほしい。

A. ユーザーには、ニコニコ動画をネット上の生活の軸にしていただきたいという気持ちが強い。僕たちの生活はいろんな人と会話をすることがベースになっていると思う。引きこもっていても実はネットにはつながっている方が多く、誰かと対峙する、誰かとつながるということがかなり求められていると思う。リアルなコミュニケーションが希薄になればなるほど、根本的なつながりがどこかに求められると思うので、そういったところをニコニコ動画は提供しようと思っているし、誰かとつながる場所としてニコニコ動画を使っていただきたいと思っている。

Q. 私はゲームのプレー動画が好きでよく見るが、権利侵害の問題は解決しているのか。

A. ゲームのプレー動画そのものに権利は帰属しないという言われ方もあるが、明確になっていない部分があるので、ゲーム会社の中にはプレー動画でも困るというところもあるし、プレー動画がプレーをしたいという気持ちをあおるので、非常に歓迎だというゲーム会社もある。
 しかし、やはり勘弁してほしいのはネタばれ。どんな隠れキャラが出てくるかとか、RPGであれば最後はどこに行くのだとか、面をクリアすると出てくるプロモーションビデオみたいなものは勘弁していただきたい。そうでないものに関しては、どんどんのっけてほしいという話は出たりする。

Q. ニコニコ動画は新しいビジネスモデルだと思うが、それを真似したサイトがたくさんある。ニコニコ動画の特許や権利についてどのように考えているのか。

A. 特許に関しては申請中のものがほとんどであるが、ニコニコ動画の画面上にコメントを流す部分は特許の申請をしている。例えばある量のコメントが打たれた時に、それを表示するためにどのようなシステム的な処理をするか。量が少ないときは早く流れたり、多いときにはあえてゆっくり流したり、コメントが一気に打たれた時は行間をどれくらいにするかということがシステマティックに計算されている。そういうところにニコニコ動画のコメントのテクノロジーがあり、そういった部分に関しては特許申請をしている。

以上

【参考になるHP】
http://nicovideo.jp(ニコニコ動画)
http://niwango.jp(株式会社ニワンゴ)
http://dwango.jp(株式会社ドワンゴ)





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後藤先生