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2006年度研究会報告

第3回(2006.9.15)

テーマ 山東牛貿易の研究 ─ 膠州湾還付に伴う輸出権益確保をめぐって ─
報告者 河端 正規(経済学研究科)
報告の要旨:山東牛貿易の研究 ─ 膠州湾還付に伴う輸出権益確保をめぐって ─

1914年11月、日本は日独戦によってドイツの租借地膠州湾を奪取し、山東牛輸出機構を含む多くの経済的権益を手中にした。資源豊富な山東牛の輸出振興は統治方針に沿うものであり、青島守備軍は屠獣場の修復と獣医警察体制を再構築し輸出を奨励した。

青島に蝟集した日本人業者は、守備軍主導の輸出体制下に山東省奥地済南を中心とした市場において中国人業者から畜牛を買付け、山東鉄道により輸送し青島から生牛のまま輸出する一方で、屠獣場で牛肉として輸出する体制を作り上げ青島を山東牛の対日供給の最大拠点として成長させた。

ワシントン会議下で膠州湾還付を余儀なくされた日本は、喪失する公有財産青島屠獣場、検査権など対日輸出機構の確保をめぐって中国側と柔軟な交渉を続け、屠獣場の日中合弁による事業継続、検査体制を含めた輸出権益の細目を協定した。

1922年12月、施政が返還され青島守備軍は撤退したが新たに青島総領事館が設置され、細目協定の実務的具体的内容の要求は、領事館の膠澳商埠督弁公署に対する交渉によって大略確保された。青島屠獣場は還付後の屈曲を経て2年後日中合弁の株式会社に移行、対日輸出検査は青島総領事館付として配属された獣疫調査所獣医官によって行われた。権益の確保は、山東牛が日本帝国崩壊まで日本の外国産輸入牛肉の太宗となる礎となるものであった。

河端正規

テーマ 日本国憲法制定と地方新聞
報告者 梶居 佳広(法学研究科)
報告の要旨:日本国憲法制定と地方新聞

日本国憲法は、今年公布60周年にあたるが、政府周辺では第9条を中心に憲法を「改正」する動きが強まっている。 そうした中、地方新聞の大半が「改正」慎重ないし反対であることが最近注目されているが、日本国憲法制定当時の地方新聞の論議はどうであったか。 本報告は、占領直後の明治憲法改正論議の開始(1945年10月)から日本国憲法施行(1947年5月)までの憲法に関する地方新聞(戦時中の統合で「一県一紙」が基本であった)の社説・論説を整理・検討した。 結果、まず戦争の後遺症で発行も困難な地域が多く、通信社(共同通信など)の配信記事に論説も含め依存する新聞もあり、やや自主性に欠ける傾向が認められる。 全体の議論の枠組みも、1946年3月の政府の憲法草案発表前は天皇制の       「呪縛」もあって「奥歯の挟まった議論」しか出来ず、発表後は以前の態度とは一変して「主権在民」の草案を支持し、公布・施行に際しては読者=国民に対して説教めいた「啓蒙」を行う、という「全国紙」の論調と類似するものであった。しかし、その一方で、草案発表以前から限りなく「主権在民」に基づく改憲を求める新聞、逆に議会審議中でも天皇元首論に固執する新聞など、より多様な意見が表明されていた。 また、議会の憲法審議以降は、(狭義の憲法論議からは外れるかもしれないが)家族制度や地方自治など、一般国民にとって身近な問題に関心を示す傾向が「全国紙」より強いことが明らかになった。

梶居佳広

テーマ 日本における上院の意味 ─ 貴族院の職分をめぐって ─
報告者 吉田 武弘(文学研究科)
報告の要旨:日本における上院の意味 ─ 貴族院の職分をめぐって ─

本報告では、日本における貴族院の位置づけについて、貴族院制度制定者の意図、その意図がどの程度社会的コンセンサスを得ていたかという観点から考察を加えた。議院内硬派の特色とされた「国利民福の院」「独立自主」といった上院像は、貴族院制度制定者においても強く意識されており、制度制定段階から相当の配慮がなされ、英国上院を模範とする「貴族的要素」の必要性が認識されていた。またこうした志向は決して当時の「藩閥政府」において特有のものではなく、民間の憲法構想においても、多くが華族議員を含む上院構想を有し、「下院の独裁」に歯止めをかける上院の必要性を政府と共有していた。 しかし、衆議院のように具体的存在背景を有せず、抽象的理念に立脚する貴族院は、常にその正当性を発信し続けなくてはならない宿命にあり、これが後に幾度も起こる貴族院改革問題の内発的動機となったのである。

討議の内容

まず、本報告が思想的側面の解明に終始し実際の制度運営段階における事例との関連の解明が不十分となったことに対して疑義が出された。これに対し報告者は、制度制定時における思想的背景を踏まえた上で具体的事象の検討に入るという研究意図を説明した上で、出された疑義は今後の課題として想定している旨回答した。また、日本がモデルケースとした英国など欧州との歴史的背景の違いに留意する必要に対して指摘があった。また、実際の政治過程において政府と下院が接近し三極体制が実質的に崩れてくる中で貴族院がどのような意味を持ちえたかという点を考慮する必要性についても指摘がなされた。

吉田武弘

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