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2021/03/23

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【対談企画 Vol.1】ユーフォリア(ONE TAP SPORTS)・宮田誠代表×川方裕則学生部長 “スポーツテックと学生の成長“

スポーツを学生の成長の場とみなし、学業とスポーツの両立を支援する姿勢を明確にしてきた立命館大学。

アスリート学生サポートの一環として、コンディションやトレーニングのデータを管理するデジタルツール「ONE TAP SPORTS」を導入しました。

テクノロジーの発展が目覚ましい今、スポーツにおけるデータ活用の価値とは何か、また大学アスリートはデータとどのように向き合っていくべきか。

ONE TAP SPORTSを開発した株式会社ユーフォリア代表取締役の宮田誠さんと理工学部教授であり、本学のスポーツ振興担当を務める川方裕則学生部長が語り合いました。

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近年注目を集めるスポーツテックの力 

宮田 スポーツとテクノロジーを掛け合わせた「スポーツテック」の話をする際には、見る・する・支えるといった三つの観点があります。世間で目立つのはエンターテインメントとしての「見る」なんですが、私たちは「支える」という部分にフォーカスしています。支えるスポーツテックが急激に成長してきたのは、ここ2〜3年ほど。ONE TAP SPORTSを始めた約10年前は、データでコンディションを可視化するという取り組みは国内では非常にレアでした。トップアスリートの方々は日々の体調やコンディションを練習ノートに記録したりしているんですが、それをデジタルに置き換えようというのが出発点の1つです。2012年くらいからラグビー日本代表チームと一緒に開発を進める中で、ラグビーワールドカップを2回経て、特に2019年には日本で大会が開かれました。そこで、選手たちがどのようにコンディションを可視化し、フィジカルを鍛えていったのかに注目が集まって。その頃からサッカーやバレーボール、アメリカンフットボール、陸上競技などでもデータ活用が注目されるようになってきました。スポーツテックの成長の背景にはもう一つ、テクノロジーの進化があります。例えばウェアラブルデバイスが小型化し、さまざまなデータが取れるようになってきたのも大きな要因だと思っています。

川方 スポーツのテクノロジーは近年非常に発達してきたと感じています。練習ノートを意識の高い子はつけていますが、客観視ができるのかという問題がありました。それがデジタルにすると、いとも簡単に統計的な分析ができて、自分の状態をより分かりやすく見せてくれる。ただ、それを見るだけでは意味がなくて、考えることが重要。考えるきっかけを生み出し、人間的成長を支えるものとしてテクノロジーは大きな力になると思います。

宮田 ONE  TAP SPORTSには三つの効能があります。一つ目は本番にコンディションのピークを合わせるピーキング、二つ目はけがの予防。そして三つ目が川方先生のお話とオーバーラップしますが、選手の意識向上です。体温はどうか、筋肉の張りはどうか、毎日自分の体調と向き合う意識を高めていかないと、ピーキングもけがの予防も実現できません。そのために、ONE TAP SPORTSはユーザーにセルフフィードバックを促すことを大きな目的としています。

川方 昔ながらの指導では、ある方法が上手くいった時に、何と何がどのように相関しているのか知るすべがありませんでした。定量化して、可視化してやっと「こんな傾向があるんだな」というのが分かってきます。ONE TAP SPORTSを使えば選手本人がそれを見られるようになって、「自分はこうしたらこう伸ばせるかな」と、データの使い方を学びながら自身をつくり上げていける。そこまでできるかどうかが、大学スポーツでは大きな差を生むのではないでしょうか。

宮田 指導者が過程と結果についての仮説を持ち、しっかりフィードバックしてあげることも大切ですよね。五里霧中でトライ&エラーを繰り返せ、というのは学生にとっては辛いと思います。

川方 そこのバランスなんでしょうね。僕も教員という立場で、自分を超える学生を育てないと意味がないと思っているんですけど。僕が分かっていることを一から十まで教えてしまうと成長できないし、何も分かっていないけど一緒に考えよう、となると力尽きてしまう。どこかではチャレンジさせながら、致命的なけがや失敗はさせないという場をつくることこそが、指導者に求められる部分かなと考えています。

 

大学スポーツの価値とは 

川方 技術発展の恩恵を享受する一方で、機械に負けてはいけないという危機感を持つ必要もあると思います。例えば、ロボット同士がラグビーをした方が人々に感動を与えるようになってしまったら、人間によるスポーツの価値はなくなる。技術的・性能的に見たら現時点でもロボットが勝っているのかもしれませんが、人間がプレーすることでこそ「自分と同じ人間がこんなことをできるんだ」という感動が生まれ、それによって人のスポーツは生き残ってきました。あまりに機械やツールに頼り過ぎると、自分たちの首を絞めることになりかねない気がします。

宮田 機械対人間の争いは熾烈ですよね。これからは囲碁や将棋だけではなく、スポーツ分野においてもAIやロボットが話題になるのは間違いない。さらに、今はコロナ禍で人間の活動が制限されていてこんな時代だからこそ、スポーツの価値とは何なのだろうと考えることが大切だと思います。2020年は、なぜコロナ禍においてもスポーツを続ける必要があるのか、スポーツは人に何を残してくれるのだろうと問い続けた一年でしたね。学生スポーツが自分に何をもたらしてくれるのか、学生の皆さんも真剣に向き合っているところなのではないでしょうか。

川方 学業と違ってスポーツには留年がないし、勝ったからといって無条件で称えられるものでもない。自分をどのように高めて、どのように大学4年間を全うするか、そこに学生スポーツの価値があると思います。パフォーマンスの向上は目標の一つであって、それが全てではありません。ただ言いたいのは、負けた時に悔しいのは自分自身であってほしいですね。誰かの期待に応えられなくて残念、というだけではなく。

宮田 自分の全力を出し切ってこそ、負けた時に本当に悔しがれる。そのために、私たちはピーキングのサポートをしているわけです。実力は違ってもポテンシャルはみんな持っていて、とにかくそのポテンシャルを最大化することが、私たち支える側の役割だと思っています。

川方 体育会のアスリートたちはストイックに努力を重ねていて、掛け値なしに尊敬しています。自分自身のポテンシャルにキャップをはめるようなことはしてほしくないですね。

宮田 立命館大学では、スポーツの価値をどのように捉えているのでしょうか?

川方 体育会学生の営みによって学生・教職員が勇気づけられる、アスリート自身が成功体験を通してさらに成長できる。その二点を体育会の価値と考えて取り組んでいます。

宮田 成長は大事ですよね。

川方 学園ビジョンR2030でも「成長実現・実感No.1」を掲げています。成長を実感するだけでは自己満足に過ぎず、成長を実現したのに「私なんかまだまだ」と自信を持てないのもよくない。実現・実感してもらうために、大学としてどんな支援ができるかを考えていかないといけません。

宮田 最近、成長実感というのはともすれば危ういものだなと思うことがあります。私たちのようなスタートアップ業界には意欲的な若いが入ってきてくれる傾向があるのですが、成長が自分自身で”実感できないからと目の前の仕事に飽きてしまったり、早々に次に行ってしまう人もいる。客観的にはとても成長して真っ只中にいるのにすごくもったいないなと思うことがあります。

川方 どうしても自信が持てない学生と話す時には、「まずはメッキを張ろう」という話をしますね。自分でメッキだと理解しておいて、それがはがれる前に裏側を立派にしておけばいい。自分を少し高く見せながらその間に内面を高めていけば、少しずつ成長の実感が得られるだろう、と。

宮田 なるほど。自分をストレッチさせよう、背伸びさせようということですね。

 

学生に向けたメッセージ 

川方 学生の皆さんは周囲からたくさんの期待を寄せられ、プレッシャーを感じることもあると思いますが、チームのため、ひいては自分のために頑張ってほしいですね。そして苦しさと楽しさ、どちらかが10対0になってはよくない。苦しい中にも楽しさがないと何のためにやっているのか分からなくなるし、楽しいだけでは得られないものもある。さまざまな失敗体験・成功体験から、大学の授業だけでは得られない成長を果たしてください。ただ大学生として、「学生生活で何に力を入れていましたか」と聞かれた時に「スポーツと、○○学部のこの学びです」と言えるように、両方に全力で取り組んでほしいと思います。

宮田 まず絶対に、いわゆる「聞き分けの良い」学生にはならないでほしい。私自身、学生生活でやりたいことはやりきりましたし、ちょっとメッキを張って困難な場所に身を置いてみたりもしました。海外に行ってみるなど何でもいいのですが、自分をストレッチさせられる環境で可能性を伸ばしてください。もう一つ、常識や普通を疑ってみるのがいいかなと思います。今の事業をスタートした当時は、「そんなものは商売にならない」と散々言われてきましたが、何とかやってこられました。その人たちの声を聞いて小さくしぼんでいたら、こうして川方先生と対談させていただく機会もなかったはず。他人と反対の方向へ行くこと、変人と思われるようなことを恐れないでほしい、と伝えておきます。