私は、朝鮮時代の申潤福(シン・ユンボク)という画家の「月下情人」という作品が一番好きだ。 この絵は、眉毛のような月が浮かんでいる真夜中に、ある街角の塀のそばで若い男女が密かに会う姿を描いている。 貴族に見える若い男は片手に提灯を持ち、もう片手では懐を何かを探しているような姿だ。 スカートがひるがえった女は、身なりから見て貴族家の女に見えるが、おとなしく頭を下げてはにかんで見える。
申潤福の風俗画は男女間の愛情を率直に表わしているのが特徴だが、この絵も月夜に密会する若い男女の雰囲気を洗練して描いている。絵の塀の片隅には縦3行で画題が次のように書かれている。 「月沈夜三更/兩人心/事 兩人知(月明かり暗い夜三更/二人の心の中/二人だけが分かるだろう)」"三更は夜11時から夜明け1時の間を指す。朝鮮時代には正月と省庁が生まれた月、釈迦誕生日を除いては、一般人の通行が禁止された時間だった。 禁止された時間に密かに会った二人の男女は、描かれた足の形から見て、どこかに向かっているようだ。
全体的に背景は淡彩で表現されているが、これと相対的に二人の男女の姿は細い筆線で鮮明に描かれ、視覚的にまず目がいく。それでこの絵を見ると、緊張感が漂いつつ、ドキドキする。 そして朝鮮時代の恋愛に対する好奇心を呼び起こす。 この絵を見ると, どんなに厳しい社会規律でも男女の愛は防げないことが分かる。それで私はこの絵が好きだ。