EIZO NEWS

2025.4.21

2024年度 卒業研究の「学会賞」「特別賞」発表!


2024年度の卒業式・学位授与式が、3月20日(木・祝)に執り行われました。
ご卒業・ご修了おめでとうございます!!!

今回のEIZOVOICEでは、「立命館大学映像学会『優秀研究(制作・論文)の顕彰』」の受賞作品をご紹介します。

「映像学会」とは・・・
映像学に関する学術の研究と普及を目的とした学会で、映像学部・研究科に属する教員、映像学部生・研究科院生、卒業生・修了生などから構成されています。
学会賞とは、その映像学会から、学びの集大成でもある「卒業研究」「修士研究」に授与される栄えある賞です。
最も成績が優秀と認められたものに「学会賞」、今後の活動を期待し表彰される「審査員奨励賞」、成績に関わらず特筆すべき意義をもったものと認められたものに「特別賞」が授与されます。

【受賞作品をご紹介】受賞理由もぜひあわせてご覧ください!!
2024年度 立命館映像学会 優秀研究顕彰(受賞者・受賞理由)

「学会賞」(修士研究) 

氏名:門前 美樹 
題目:医療に対する子供の理解を支援するインタラクティブメディアの制作 

受賞理由: 

 本研究は、小児医療における心理的準備(プレパレーション)の課題に着目し、子供が疾患や治療方法を遊びの中で理解することができるインタラクティブ映像システムの制作と検証を行ったものである。具体的には、アレルギー疾患とその治療法のひとつである舌下免疫療法を題材とし、アレルゲンや治療薬を模した独自のデバイスによって映像を切り替える映像システムの開発を行った。医学的な知見に基づきながら制作されたキャラクターやアニメーション映像はプロジェクターを通じてぬいぐるみに投影され、映像とフィジカルな体験が融合した一連の遊びの中で子供たちが自ら学習することができるようデザインされている。
 作品の検証においては、作品の体験アンケートと疾患および治療に対する理解度テストの分析結果に基づいて、子供たちの治療に対する自発的な興味を促進し、より深い理解と治療への積極的な姿勢を引き出した成果が示された。加えて、医療関係者によるフィードバックを踏まえて、医療現場における負担軽減効果やアレルギー疾患以外の様々な疾患にも展開する可能性についての展望も示された。
 本研究は、発達段階にある子供に寄り添い、医療に関する情報の伝える手段としてテキストや映像のみならず、身体性を取り入れた体験デザインとして創意工夫を凝らした作品制作がなされており、医療・教育分野においても新たな可能性を示す研究として高く評価できる。 


「学会賞」(論文) 

氏名:足立 琴音 
題目:未知顔における再認促進手法の検証:観察、似顔絵、Miiの比較分析

受賞理由: 

 本研究は、「未知顔」の記憶方法に焦点を当て、「観察する」「似顔絵を描く」「Miiを作成する」という三つの手法を比較し、その効果や時間的推移、性別の要因など多面的に検証した非常に意欲的な取り組みである。顔の記憶という日常生活やビジネスシーンなど多岐にわたる応用可能性が広いテーマについて、多様な映像メディアの活用した可能性を探求しており、学術的価値のみならず、映像学部ならではの研究内容である。
 本論文は、複数回の再認実験(直後・1週間後・1か月後)を組み合わせることで、記憶の忘却のような時間経過に伴う記憶変動を丁寧に捉え、その上で、性別や刺激の難易度差といった多角的要素を考慮したうえで、手法そのものの再認効果を評価し、一見すると差がありそうなそれぞれの記憶手法について、大きな差があるとは言えないことを確認した。また、女性顔の再認が一度低下した後に再び成績が向上するという現象は、記憶過程の複雑性を示唆しており、さらなる研究展開を期待させる。
 この成果は、顔記憶に悩む人々への具体的手段を検討しており、ゲームやイラストを活用した新たな学習技法の応用など、様々な可能性に繋がるものである。そして、厳密な研究設計によって得られた議論は、学部卒業論文として高い水準にあるといえる。

「学会賞」(制作物+解説論文、小論文) 
氏名:松井 彰太 
題目:MRとMVの組み合わせによる新しい表現の探究 

受賞理由: 

 本作は、現実と仮想が交錯するメタバースの中に、ひと夏の記憶をそっと封じ込めたようなMRミュージックビデオである。VRChat上に構築された空間は、誰かの過去の記憶にある風景のようでありながら、そこに身を置くうちに、観る者自身の記憶と静かに重なっていく。アバターはその場の空気を共に感じ、さりげなく佇む存在として、「夏」をともに生きている。映像と音、粒子と光、それらすべてがやわらかな気配となって、記憶をそっと撫でていく。本作の主題は、体験としての情感の構築にある。複数人で同時に体験できる「共在型の夏」という仕掛けは、メタバースにおける新たな詩のかたちを示している。制限ある技術環境の中でも、松井は粘り強く工夫を重ね、この小さな奇跡のような空間を作り上げた。私たちは、瞬間と永遠を同時に生きる。そして、また夏がやってくる。


特別賞(制作物+解説論文、小論文)
南部 良佳さん
論文題目:AMI-NOOH: ミクストリアリティを用いたアミノ酸学習教材の研究

受賞理由:

 本研究では、ミクストリアリティ技術を活用することで、アミノ酸の構造に関する理解を効果的に行うことができるような学習教材の開発を行っている。アミノ酸についての学習は、有機化学の基礎的素養として重要な意味付けをもつが、一般的には化学式などによる抽象化された形態で学習することを強いられてきた。こうした課題に対して、本研究ではミクストリアリティ技術を導入しつつ、自らブロックを組み合わせていくことで、きわめて直感的にアミノ酸の構造について理解することができるものとなっている。
 具体的な作品の制作においては、先行作品や研究について十分に吟味を行った上で、アミノ酸構造の理解という課題の特性を利用者目線から丁寧に分析し、ミクストリアリティ技術を適切かつ有効に活用している。また、制作過程において生じた諸々の課題に対しても、例えば分子間の接合や分離を操作する新たなデバイスとしてフットペダルを導入することで操作性の改善を図るなど、緻密であると同時に独創性に満ちた解決策を生み出している。
 こうした創意工夫の結果として、子どもや初学者であっても十分に理解が進むような教材開発が実現していることは高く評価すべきであり、顕彰に値するものである。

特別賞(制作物+解説論文、小論文)
御池 虎太朗さん
論文題目:ドキュメンタリー映画『臙脂の勇士』の制作について

受賞理由:

 ドキュメンタリー映画『臙脂の勇士』は、立命館大学アメリカンフットボール部「パンサーズ」に約7か月間密着し、その過程で得られた約212時間の映像素材を58分20秒に編集した作品である。
 本作の最大の特徴は、スポーツ映像が一般的には「勝利」や「名プレー」に焦点を当てがちであるのに対し、「勝利に至るまでのプロセス」に丹念に描いた点である。2024年、パンサーズは9年ぶりに優勝した特別な年であったが、本作ではその成果自体はエンドクレジットにとどめ、むしろパンサーズがいかに実力を高め、自信を獲得し、成長していったのかが映像を通して明確に伝わる構成になっている。さらに、撮影者が内部の人間であることも大きな強みとなった。これにより、選手たちの活き活きとした表情やプレーを鮮明にとらえている。
 本来、ドキュメンタリーは被写体を客観的にとらえなければならず、必要以上に誇張(ドラマ化)せず、ありのままを切り取ることが求められる。本作は、その原則を守りつつ、それぞれの被写体の「ドラマの瞬間」を「ありのまま」に捉えることができた点が特筆すべきであろう。また、本作は、スポーツに秀でた学生が、映像学部のカリキュラムを通して学んだ知識と自身のチーム経験を融合させ、チーム内の信頼関係を生かして制作した点において、映像学部で生み出された作品としての新たな到達点とも評価できる。

特別賞(制作物+解説論文、小論文)
山田 夏穂さん
論文題目:映画『ラブポーション』における演出について

受賞理由:

 心理描写ではなく、登場人物のアクションが優位である点で、本作にはすでに十分な映画的魅力があふれている。それを支えている要素の一つがロングショットを適切に活用した撮影で、その的確なフレーミングが、山田さんの編集の巧みさと相まって、作品にユーモラスな「間」を生み出すことに成功している。ロケーションにこだわり、舞台となる高校を生き生きとした空間に変容させた映画美術も特筆されるべきだろう。終盤における物語の停滞は否定しがたいものの、その不足を、この映画空間の統一性が補って余りある。
山田さんは、本作のクライマックスと言っていいプールの場面で、山戸結希監督の『5つ数えれば君の夢』(2014年)を参考にしたそうだが、『5つ数えれば君の夢』だけでなく、山戸監督の他の作品――『あの娘が海辺で踊ってる』(2012年)や『Her Res~出会いをめぐる三分間の試問3本立て~』(2012年)、山戸監督がプロデュースした『21世紀の女の子』(2018年)など――にも通じる表現が随所にあって、本作が今日の日本の優れたインディペンデント映画と地続きであることを実感させられた。
荒唐無稽な設定であるにもかかわらず、その設定を通じて、青春の儚さを表現しえた山田さんのストーリーテラーとしての力は本作にしっかりと示されている。山田さんの今後の活躍に大きな期待を寄せたい。


受賞された皆さん!おめでとうございました!!!!
今後の皆さんのご活躍を祈念しております。 
BACK