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立命館大学

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文学研究科/武内 樹治さん

文学研究科武内 樹治さん

次世代考古学の鍵を握る、GISによる多次元融合

 ~考古学研究、調査報告…あらゆる情報をデータベース化して共有し、活用する~

 埋蔵文化財とは、地中に埋もれた文化財のことで、その存在が知られている土地は全国で約46万カ所にのぼり、毎年9,000件程度の発掘調査が行われている。そんな地中深くにある埋蔵文化財の発掘調査の結果によって、常識だと思われていた事実そのものが塗り替えられることも少なくない。
 武内樹治さん(文学研究科博士後期課程2回生)は、地理情報システム「Geographic Information System(GIS)」を活用し、発掘調査報告資料などの膨大な情報をデータベースに集約・可視化することに情熱を注ぐ。地方自治体や研究機関の研究者、民間企業と広く協力し、考古学の新たな姿を生み出そうとする彼に迫った。

2023.08.23

  • 膨大な埋蔵文化財調査報告を一元化し、散らばった点を面で可視化する
  • GIS(地理情報システム)を使って「つなぐ」研究から見えてくるもの
  • GISを活用した研究との出合い
  • 研究を通して広がる未来
  • 分野を自在に行き来することで、新たな価値創出を目指す

膨大な埋蔵文化財調査報告を一元化し、散らばった点を面で可視化する

 地理情報システム「Geographic Information System(GIS)」は、地理的位置を手掛かりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示することで、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術だ。Googleマップもその一例であり、私たちの身近なところでGISは大いに活用されている。
 武内さんは、膨大な発掘調査報告を集約し、歴史的価値や文化的価値、地理的な角度等の多様な視点から一つ一つひもとき、GISを駆使して、「複数の研究分野を連携させる一元的なプラットフォーム」の構築・研究を行っている。
 その構築は決して平坦な道のりではない。これまで埋蔵文化財の調査主体は、専門機関や地方自治体の行政職員が行っていたが、近年では民間への調査委託が増えたことで、報告内容や情報公開のあり方にばらつきが生じてしまっているという。それでも武内さんの歩みは止まらない。


「『情報を可視化する』と一口に言っても、様々な作業が必要です。ばらつきのある調査内容を精査し、基準を決めて表記を統一するなど、決して1人ではできません。そのため専門知識や現場経験のある多くの方々と協力し、意見を交換しながら一歩ずつ進めています。点であった情報や知識が、一つのプラットフォーム上で融合し、面として現れるのが、この研究の魅力ですね


 そして、一元的なプラットフォームは過去を重層的、多角的に把握することを可能にするだけでない。今後の発掘調査への大切な羅針盤にもなり得るのだ。

GIS(地理情報システム)を使って「つなぐ」研究から見えてくるもの

 歴史や地理といった、さまざまな分野を連携させて「重ねて見せる」プラットフォームの構築。それは、未来の発掘調査をマネジメントする上でも貴重な資源になるという。


「発掘調査というのは、多くの時間的、人的リソースが必要となります。しかも、それらは決して潤沢であるとは言い切れません。なので限られたリソースをいかに活用し、発掘調査を行うのかは、とても重要なテーマだと言えます。こうした課題において、『どこで、いつ、どれだけ、どのように』埋蔵文化財を発掘してきたかという複数の情報を一元的にプラットフォームで把握できれば、発掘調査の効率的な計画を立てられ、調査員の負担軽減も可能になると思います


 そんな武内さんは、立命館大学歴史都市防災研究所にも所属し、立命館大学アート・リサーチセンター(ARC)や京都市生涯学習総合センターなどと連携して、「平安京跡データベース」プロジェクト(バーチャル京都プロジェクトの一部)に中心メンバーとして参画。GISを活用し、平安京にまつわる膨大な発掘調査報告を分析・可視化して一つのデータベースにまとめるという試みに挑戦している。今後もデータやコンテンツ・機能の充実を図る予定だという。

GISを活用した研究との出合い

 徳島大学の学部生時代から、一つの分野にとらわれず「横断的」な研究を行いたいと常に考えていた武内さん。彼の人生の転機になったのは、学部時代に何気なく受講したGISの授業だった。


「歴史学や考古学といった人文系分野に興味を持ちながら、データサイエンス分野にも魅力を感じていました。GISを活用することで、データを多彩な切り口で収集し、学問分野を横断した俯瞰的な視点を持って、一つの地図上に重ね合わせることが可能になります。分野の枠を超えた研究を志していた私にぴったりの内容でしたね


 大学学部卒業後は、GISを使った研究に力を入れている立命館大学大学院文学研究科への進学を決めた。


「指導教官や研究メンバーの人柄と、多様性のある研究環境が魅力的でした。GISを使った人文科学の研究には考古学に精通した方はもちろん、官民問わず多彩な分野から人が集まります。非常に個性的で面白い方が多く、さまざまな知識や情報を共有してくださるので、いつも新しい発見に満ちています」

研究を通して広がる未来

 2022年7月、GISを開発する米国ESRI社が主催する「第11回ESRI Young Scholars Award」を武内さんは受賞した。GISを用いて優れた研究に取り組む若手研究者を表彰する、世界規模のタイトルだ。


「『平安京跡データベース』プロジェクトなど、これまで取り組んできた研究が高く評価されたことはとてもうれしかったです。プロジェクトに関わる多くの調査機関や研究者の協力があったからこそ、受賞できたのだと思います」


 武内さんの研究は研究室の中にとどまらず、国内外の多くの研究者や文化財に関わる自治体職員、民間企業との協働が必要不可欠だ。そのような交流にはさまざまなメリットがあると武内さんは語る。


「アカデミア以外の方とも交流を持てたのは大きな刺激になりました。研究に関することはもちろん、幅広い業界の方と話をすることで、自身の可能性が広がったと感じています。自分の視野だけで将来を限定してしまうのではなく、より広い世界へと目を向けるきっかけになりました

分野を自在に行き来することで、新たな価値創出を目指す

 研究を通した活動の幅は縦横無尽に広がりつつある。専門的な視点から各調査機関に対しマネジメント的な提言をすることで、最新の知見や技術を取り入れた調査の効率化も夢ではない。GISを使った発掘や遺跡のデータベース化に関しては、クラウドソーシングやワークショップなどの試みを通し、市民参加型の「開かれた考古学」として活用することも期待されている。
 GISを用いることで、散逸していた価値ある情報が一つのデータベースに集約され、誰もが見やすく分かりやすいものになる。一見、関係のない分野同士がつながり、研究の枠を超えた課題とその解決策が見えてくる。例えば、山や川、標高などの『地理情報』に加え、建物や遺跡などの現象、自然災害のデータなどを含めた様々な情報を同時に俯瞰する。既存の情報も角度を変えれば、別世界を発見したように新たな問いが生まれてくるのが、この研究の醍醐味だと武内さんは目を輝かせる。


「複数の調査報告や研究資料を関連付けて一つのデータベースに集約することで、データに新しい『意味付け』をすることができます。そして、それらを分析し、新しい課題が見つかれば、次の意志決定の議論の俎上に乗せることができるのが、この研究の独自性です。未知の課題に対する新たなソリューションを開拓するというポテンシャルを秘めていると思います」


 複数の研究分野を往来することで新たな視点を得て、課題や壁を乗り越えてきた武内さん。今後も自身の知識と技術を存分に活用し、考古学の新たな地平を切り開いてくれるに違いない。