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立命館大学

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情報理工学研究科博士後期課程 2回生/長谷川 翔一さん

情報理工学研究科博士後期課程 2回生長谷川 翔一さん

つくりたいのは“ドラえもん”

 ~「常識」を用いてロボットの学習コストの効率化を図る~

 急速に社会に浸透し、ビジネスなどさまざまな領域で活用されているChatGPT、ファミリーレストランで料理を運ぶ猫型ロボ。AIやロボットの技術・研究が日進月歩で発展していることを、何気ない日常生活の中でも感じられる。注目の分野を支えるのは、研究者一人一人の新しい発想や積み重ねられた研究成果に他ならない。
 そんな研究者の1人である立命館大学情報理工学研究科博士後期課程2回生の長谷川翔一さんは、独自のアプローチで家庭用ロボットの学習コスト低減を目指している。幼少期に抱いた「友達のようなロボットをつくりたい」という夢を胸に研究を続ける長谷川さん。国際シンポジウムで受賞し、世界から注目される研究の内容や、研究生活の魅力について伺った。

2023.09.21

  • 確率的論理推論で、常識あるロボットに。
  • 少ない語彙を補うために、大規模言語モデルを活用。
  • ロボット人生の始まりは、受付アンドロイド!?
  • 学会で出会う同志たちから、知見と刺激を。
  • 夢をかなえるために進む、研究者の道。

確率的論理推論で、常識あるロボットに。

 私たち「ヒト」は新しい場所や環境に置かれても、今までの経験をもとにある程度状況を理解したり、物事に対応したりできる。初めて訪問する家でも、「キッチン」を認知する際、置いてあるモノ、例えば冷蔵庫やコンロ、フライパンなどを見て、「ここはキッチンだ」と判断する。このような「常識」的な知見の活用は、ヒトだからこそ感覚的に実行できるが、ロボットが学習するとなると話は異なる。
 家事を手助けする既存のサービスロボットは、「何がどこにあるのか」という詳細な説明を受けた上で、モノを所定の位置に運ぶことができる。そのためには、コップや皿といった言葉が何を指すのかという定義付けから、「何がどこにあるのか」というモノと場所の関係を、大量のデータを用いて学ばせなければならず、学習コストの高さが課題だ。そのため、場所などの指定をせずに、「コップを持ってきて」という曖昧な命令をしても理解できず、生活空間でスムーズに活躍するためには、一連の課題をクリアする必要がある。
 そこで、長谷川さんが着目したのが、ヒトの常識に近い「確率的論理推論」という考え方だ。実際の研究では,物体の配置場所に関するアンケート結果を用いて、ヒトの常識に近い知識を作成。それらの知識とロボット自身が実験環境で得られた視覚情報などの知識を組み合わせて予測することで、データ学習の効率化と定義されていないモノの場所を予測可能にするシステムを実現した。


「『お茶を取ってきて』という命令があったとします。確率的論理推論を用いると、『お茶』という言葉は『飲み物』のカテゴリーに含まれるから、『牛乳』や『水』などの他の『飲み物』と同じ場所にある確率が高いと判断します。そして、学習データで得た『飲み物』がある確率が高い『キッチン』に、『お茶』もある可能性が高いぞと考えることができるようになるわけです。言葉の関係性から情報を処理し、確率と結びつけて高度な予測を実現できました」


 仮想の居住スペースをベースにしたシミュレーション環境で実験した結果、既存の手法と比べて1.6倍以上の学習コストを低減できたという。画期的な研究成果はアトランタで開催された2023 IEEE/SICE International Symposium on System Integrations(SII2023)において、「Best Paper Award」 と「SICE International Young Authors Award」をダブル受賞。実環境での実験結果も発表し、現在は社会実装に向けた研究を進めている。

少ない語彙を補うために、大規模言語モデルを活用。

 輝かしい成果を生み出しながらも、長谷川さんは自身の研究の問題点を常に省みて、新たな研究アプローチを模索することに余念がない。確率論理的推論を用いた手法では、ロボットの使える語彙が少ないという課題があった。それを解決するために着目したのが、大量のテキストデータを学習して、文章生成や機械翻訳、質問応答など言語処理タスクを実行する「大規模言語モデル」だ。



「大規模言語モデルは、ロボットの行動計画を立てるツールとして注目されています。『モノを運搬する』という行動計画を実行するためには『移動する』→『触れる』→『つかむ』というように、フローチャートを人の手で設計していましたが、これでは言語命令に対応できる範囲が限られてしまいます。そこで、モノや場所の名前、モノが置かれている位置といったロボット自身が自動的に獲得した情報、ロボットの持つスキル、言語命令をテキストで入力し、ロボットがすべき行動を大規模言語モデルに書き出してもらうという試みです。システムの構築は完了しており、今後は実験段階に移行しようと考えています」


 大規模言語モデルを採用したこの研究は、「RoboCup Japan Open 2023」の@ホーム・Domestic Standard Platform League Open Challengeにおいて2位となるなど、実績ならびに高評価を獲得しており、より汎用性の高いサービスロボットの誕生が期待される。

ロボット人生の始まりは、受付アンドロイド!?

 博士後期課程の段階で、豊富な受賞実績と研究業績を持つ長谷川さん。研究に情熱を注ぐ日々を送る彼がロボットにのめり込むきっかけとなったのは、小学生時代に愛・地球博(愛知万博)で目の当たりにした、人間そっくりの受付アンドロイドだった。


「衝撃を受けたことを今でも覚えていますね。未来への期待感とサービスロボットへの関心が一気に高まりました。その後、『ドラえもん』が好きになり作品を読み込むうちに、ヒトの会話を理解して自ら考え、感情をもって話せる友達のようなロボットをつくりたいと本気で思うようになりました


 あふれ出る研究意欲を胸に、立命館大学理工学部ロボティクス学科に進学。制御や技術を学びながら、ロボット技術研究会に所属して自らアルミ板を削るなどのロボット設計も経験した。大学院では夢の実現により近づくために、知的サービスロボットを専門的に研究できる情報理工学研究科に進学したのだという。


「データを複合して生じる概念のような上位知識をロボットに活用することで、未知の情報を処理できるシステムの開発につながると考え、谷口忠大教授の研究室を志望しました。研究を進めるほどにロボットという存在をより身近に感じています」

学会で出会う同志たちから、知見と刺激を。

 自分で研究テーマを設定する大学院生は、慌ただしい学部時代と異なり、先行研究や関連文献とじっくり向き合う時間がある。腰を据えて知見を蓄え、考察を深められるため、密度の濃い研究に取り組めると長谷川さんはいう。また、専門の学会に参加する機会が増えるため、さまざまな研究者と交流し、刺激を受けられるのも大学院生活の魅力だ。


「人工知能学会に参加した時に、ドラえもん研究者として知られる大澤正彦先生と出会い、先生の研究に興味があるとお伝えすると、その後懇親会に招待してくださいました。その場で意見交換をして、現在は大澤先生の研究活動にも参加しています」


 また、長谷川さんは、「立命館大学NEXT フェローシップ・プログラム生」に採択されている。「立命館大学NEXT フェローシップ・プログラム」は、先端的な研究を行う多様な分野の研究人材と協働しながら、自らの専門性を深め、幅広い研究視点の獲得を目指すプログラムだ。プログラムでは、文理問わず、他のフェローシップ生との交流の機会も多いという。


「博士課程に進むと、自分の研究分野に没頭してしまい、孤軍奮闘になりがちです。他のフェローシップ生との交流を通して、様々な分野の研究動向や視点を得られ、貴重な経験ができる上、研究仲間ができて心強く感じました。それと、自分の研究を分かり易く説明する機会を通して、自分の研究の俯瞰的に見ることができるのも魅力ですね」


 最先端で活躍する研究者たちと切磋琢磨しながら過ごす大学院生活は、充実感に満ちているようだ。

夢をかなえるために進む、研究者の道。

 小学生の頃から抱き続けた夢を実現するため、長谷川さんは今後研究者の道に進みたいと語る。


「現在取り組んでいる研究の有用性を示せるように、着実に成果を積み重ねていきたいです。国際的な学会で注目を集め、サービスロボットの普及を推進することが当面の目標ですね。そして、何よりもドラえもんをつくりたいという思いは変わりません。現在の研究分野だけでなく、ロボットの人らしさを実現するヒューマンロボットインタラクションなどの領域にもすそ野を広げて、夢の実現に一歩でも近づけるように研究を続けます


 論文の執筆に追われながらも、それが苦ではないと笑顔で語る長谷川さん。彼がつくりだすまだ見ぬ未来の姿に期待が膨らむ。未来の世界の猫型ロボットに会えるのは、そう先ではないのかもしれない。