着任予定教員紹介
月の水を生成する宇宙風化作用の解明へ
測定機器を開発し、月へ送る
PROFILE
2012年東京理科大学 理工学部 物理学科 卒業、2017年総合研究大学院大学 物理科学研究科 宇宙科学専攻 博士課程 修了。博士(理学)。2017年会津大学 客員研究員、2018年国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 SLIMプロジェクト研究開発員、日本大学 工学部 非常勤講師、東京大学理学部 非常勤講師等を経て、2023年より現職。専門は惑星探査。小惑星探査機はやぶさ2プロジェクト、小型月着陸実証機SLIMプロジェクトにおいて可視・近赤外分光器の開発に携わり、月極域探査機LUPEXプロジェクトにおいて可視・近赤外分光器の開発サブリードを務める。
趣味はドライブ、釣り、カフェ巡り。コロナ禍の時期から自宅の水槽でトカゲとヤモリを飼っている。
先生の研究の内容を教えてください
小惑星探査機「はやぶさ」が、小惑星イトカワの表面物質を持ち帰ったことは多くの人が知っていると思います。その表面物質によって確認されたことの1つが、宇宙風化作用でした。小天体や小惑星の表面を覆うレゴリスと呼ばれる砂のようなものが、太陽から飛来するイオン(太陽風)や隕石の衝突などによって変質し、色も変わってしまう現象です。
今、月に水があることはほぼ確実視されていますが、その水の一部は、宇宙風化作用によって生成されていることもわかってきました。私は、小天体のレゴリスを変質させる一方、月などの大気を持たない天体表層では今この時も水を生み出しているという宇宙風化作用に興味を持ち、その研究を始めました。
一方で興味を持っていた惑星や月の表面を調査するカメラの開発にも携わるようになり、それぞれの目的に合わせて開発されたカメラを「はやぶさ2」や、小型月着陸実証機「SLIM」に搭載しました。こうして、小惑星や月の調査、そのために必要なツールの開発、その両方を行っています。
先生の研究室に入ると、どのようなことを学び、どのような研究テーマに取り組めますか?
宇宙風化作用の解明と、装置の開発に関わる研究です。
装置の開発にはエンジニアとの協働が欠かせません。月に着陸する時代となり、着陸後のモビリティツールが開発、実装され始めているため、そこにカメラを搭載して、ある程度の範囲の移動はできるようになりました。しかし、自分たちの調査の目的に沿って動けるカメラの開発は不可欠です。現在、実制作はメーカーに発注していますが、研究室内でも試作できる体制があると望ましいと考えています。理学と工学の両方に関心を持ち、ものづくりに挑める学生に活躍してほしいと思っています
研究室での学びに、立命館大学宇宙地球探査研究センター(ESEC)の研究成果をどう活用されますか?
月面探査、月面開発に取り組もうとしているESECがすぐ近くにあり、現場の雰囲気を感じながら研究に取り組めるのは、学生にとって非常にメリットが大きいと思います。私自身も、大学院時代はJAXAが身近にある環境で研究し、「はやぶさ2」のミッションに参画したことが大きな経験となりました。
今、ESECでは、施設や設備のさらなる充実をはかっています。宇宙機の正常な機能・性能を確認するための宇宙環境試験ができる「次世代惑星開発ラボ」も構想中です。例えば、人工衛星を作る場合、部品単位での放射線耐性試験に始まり、設計段階でのシミュレーションによる熱解析や振動解析、試作機製造後の電波放射試験、振動や衝撃に関する試験、真空や熱に関する試験、性能の評価試験などさまざまな試験が必要です。ESECに、これらをワンストップで行える施設を整備しようとしているのです。
「次世代惑星開発ラボ」のオペレーションに学生が関わることができれば、非常に大きな学びになることは間違いありません。将来、修了生がスタートアップでこの施設の運営を担ってくれることも期待できます。
日本では、JAXA以外にこれらすべてを備えた施設はありません。関西に宇宙の一大拠点ができるのは、日本の宇宙産業全体にとって大きな意味があると考えています。
先生の研究室で学んだ学生は、修了後、どのようなフィールドでの活躍が期待できますか?
アカデミックの世界で一緒に宇宙用の分光カメラ開発をやってもらえると嬉しいですし、JAXAなどでも活躍が期待できます。
メーカーでの活躍も望みたいです。私たちがものづくりを進める際、メーカーにさまざまな依頼をしますが、前例がないため「リスクが高い」と断られることも少なくありません。企業の内側からその状況を変えられる人材がいれば、ものづくりの可能性はもっと広がるはずです。
分光カメラの技術や知識は、極地での鉱物判定、土木現場の物質判定など、地上にも転用可能です。これまでは経験や勘に頼っていたことを数値で表すことによって、オペレーションの自動化にもつなげられるでしょう。我々の宇宙プロジェクトを近くで見て学べたら、宇宙ビジネス向けのコンサルティング会社でも求められる人材になれると思います。
どんな学生に研究室へ来てほしいですか
惑星科学の分野は、いろんな知識を持った人が集まる総合格闘技のようなものだと言われます。やりたいことはしっかり持ちながら、いろんな人とコミュニケーションを取り、さまざまな情報を吸収しようとトライする人がいいですね。大切なのは、モチベーションと我慢強さ、広い視野、そして想像力です。誰も行ったことない環境、計測数値しか情報がない中でその環境を想像することしかできません。データを扱うにも想像力が求められるのです。チャレンジしたいという意欲があれば、文系学部出身の学生も歓迎します。宇宙の領域を広げていくためにはベンチャーも必要です。宇宙地球フロンティア研究科にはマネジメントを専門とする先生方もおられますので、アイデアが経営的に成り立つかどうかの指標などについても協力しながら議論していきたいと考えています。足りない知識をキャッチアップできるかどうかは個人の頑張り次第ですが、求められればサポートは惜しみません。