教員紹介
NODA Miki
野田 実希

- 所属領域
- 臨床心理学領域
- 職位
- 准教授
- 専門
- 臨床心理学、心理臨床学
- 主な担当科目
- ナラティヴとケア
- おすすめの書籍
- 心理療法序説
現在の研究テーマ(または専門分野)について教えてください。
人生における体験の語りと、その語りを聴くための方法論についての研究を行っています。
具体的には、職業人のメンタルヘルス不調による休職を主テーマに、“人が病い(illness)を患い、休職するとはどのようなことであるか”という個人の体験に着目し、当事者の視点に基づいた理解と支援の検討を重ねています。
その他、人生における喪失、傷つき、危機にともなう自己の揺らぎにも目を向け、人がそれらをどのように意味づけているのか、そこでどのような「わたし」という自己が生きられているのかについて、ナラティヴ(語り・物語)の視点から捉えるための方法論の検討も行っています。
そうした検討を通して、二者関係の中で生成される語りを心理臨床家がどのように引き受けていくのかについて、心理臨床実践と質的研究との接点を模索しながら探究しています。
研究の社会的意義について、教えてください。
職業人の休職の問題は、主に、疾病性の観点と職場適応の観点から検討が重ねられてきました。一方で、個人の体験の観点から捉えると、一人の人が職業人としての役割を失い、職場から離脱するという、「働くわたし」という自己にかかわる事態として理解することができます。復職困難事例や頻回病休が問題視されている中で、より効果的な支援を行っていくためには、当事者である個人の体験と「わたし」という自己の視点に基づいた理解が必要不可欠です。
そのような自己の在りようを検討するためには、体験の語りに耳を傾けることが求められますが、語られた内容だけでなく、「どのように」語られるか、もしくは語られないのか、という語りの多声性や多様性に着目することにより、自己の多面性や多層性への理解を深めることにつながります。さらには、そうした視点が、「人の語りを聴くこと」に関わる心理臨床学実践の発展に寄与することを目指しています。
この研究科でめざしたいこと、院生へメッセージをお願いします。
私たちは語ることを通して、人生におけるさまざまな経験を意味づけ、自分とは何者であるかを説明しようとします。そして心理臨床家は、その体験の語りに耳を傾けることで、その人の生の在りようを理解しようとします。語りはそうして誰かに聴きとられるからこそ、多声的で、常に変化しつづけるという非完結的な性質を伴い、そこに生のリアリティにまなざしを向けることが可能になります。
こころやその体験という不可知なものに対して、語りえぬ語りを含めて、「語りを知ること」「人が語ること」「語りを聴くこと」にアプローチするために、心理・文化・社会的な観点も踏まえ、さらなる実践的研究を展開していきたいと考えています。
多様で多声的な語りに触れながら、言葉はどのように生まれるのか、どのように「わたし」として生きられるのか、もしくは生きられないのかについて、共にこころを傾けてもらえたら、と思います。