GSIA NEWS
2023.03.23
2022年度 卒業研究の「学会賞」「特別賞」「審査員奨励賞」発表!
2022年度の卒業式が、3月20日(月)に執り行われました。
1月末に授業が終了し久しぶりの再会となる卒業生の皆さんは、とても活気にあふれていました。
ご卒業おめでとうございます!!!
1回生の頃から新型コロナウイルスの影響を受けた皆さんは、なかなか学校で友人と会うことができない日々が続き、想像していた大学生活とかけ離れた日常になったことが多くあると思います。
4年間大変なことも多くあった中で、映像学部で勉学に励み卒業を迎えられた皆さん、本当におめでとうございます。
今回のEIZOVOICEでは、「立命館大学映像学会『優秀研究(制作・論文)の顕彰』」の受賞作品をご紹介します。
「映像学会」とは・・・
映像学に関する学術の研究と普及を目的とした学会で、映像学部・研究科に属する教員、映像学部生・研究科院生、卒業生・修了生などから構成されています。
学会賞とは、その映像学会から、学びの集大成でもある「卒業研究」「修士研究」に授与される栄えある賞です。
最も成績が優秀と認められたものに「学会賞」、今後の活動を期待し表彰される「審査員奨励賞」、成績に関わらず特筆すべき意義をもったものと認められたものに「特別賞」が授与されます。
学会賞とは、その映像学会から、学びの集大成でもある「卒業研究」「修士研究」に授与される栄えある賞です。
最も成績が優秀と認められたものに「学会賞」、今後の活動を期待し表彰される「審査員奨励賞」、成績に関わらず特筆すべき意義をもったものと認められたものに「特別賞」が授与されます。
【受賞作品をご紹介】受賞理由もぜひあわせてご覧ください!!
2022年度 立命館映像学会 優秀研究顕彰(受賞者・受賞理由)
◆学会賞(修士研究)
YANG Mantingさん
論文題目:動画共有サイトのオーディエンスと異文化接触に関する研究―「利用と満足」研究アプローチから―
受賞理由:
本研究は、利用と満足研究のアプローチから、中国の動画共有サイト「Bilibili」における日本関連動画を通した異文化接触や異文化コミュニケーションの捉え方、そしてその問題点について明らかにすることを目指したものである。Bilibili の中国人視聴者を対象に、日本に関する動画の視聴行動およびその動機について検証するために、4つのリサーチクエスチョンを立て、質問票調査による量的調査およびインタビュー調査による質的調査を実施した。分析の結果から、利用状況については、視聴者の好むカテゴリーは利用者の利用年数によって異なること、Bilibili を利用している年数が長い人ほど日本に住んでいることなどの関連性が明らかにされた。 中国人視聴者がBilibiliを利用し続けている理由としては、「広告形式の影響」「利便性」「内容の多様さ」「コミュニティ環境の独特性」「有料会員になる必要なし」の5 つの理由が挙げられた。また、視聴し始めた理由については、「日本語の勉強のため」「日本社会の生活に興味があるため」「配信者が魅力的なため」「情報を収集するため」の4 つの動機にまとめることができた。さらに、日本に関する動画をBilibiliで視聴する理由については、「サブカルチャーに対する包摂性」「日本に関する動画の豊かさ」「アクセスの利便性」「形式(動画)の影響」の4つが挙げられた。これらの分析結果から、中国人視聴者による異文化接触の状況と問題点について考察・検証した。
本論文のテーマの独創性については、中国におけるBilibiliの位置づけを明らかにし、娯楽目的を中心に捉えられる傾向にある動画共有サイトを、異文化接触の観点から理解しようと試みた点、異文化交流の形として既存のメディアではなく動画共有サイトという新たなメディア形態を対象とした点、量的調査と質的調査を組み合わせることによって、視聴者の利用行動を掘り下げていった点など、本論文における独自性が認められ、高く評価できる。
長尾 亮虎さん ※2022年度9月修了
論文題目:難易度工学を用いたぶんぶんゴマから構想するデジタルゲーム
受賞理由:
本研究は、それぞれ調査と分析を行ったうえで「新しい遊びの面白さ」と「売れることを意識したゲーム作り」といった背反する要素を定義化し、産業における収益効率化の中で失われつつある「ハードウェアデザインを含めたゲームデザイン」という産業での持続可能性を見据えた挑戦的な研究となっている。
ハードウェアの設計においては「ぶんぶんゴマ」を入力デバイスとしてあげ、伝統玩具としての背景を博物館とのやり取りなどで調査した後、デザイン指針を明確化するための推敲とプロトタイプを複数案で実装している。またデザインメソッドとしては、難易度工学を用いて、ぶんぶんゴマ自体が持つ操作の難易度とデジタル内でのゲームデザイン上の難易度とを融合させた設計を行い実装している点は評価ができる。
実際に制作されたゲーム作品では、猛禽類が静かに滑空し獲物を仕留めるアクションゲーム部と、操作入力デバイスとなる加速度センサーが仕込まれたぶんぶんゴマから構成される。ゲームの評価としては半構造化面接を行い、プレイヤー自体のぶんぶんゴマの経験とゲーム体験との関係性や、コマ自体から発するアナログ上での「音」と、デジタル内での猛禽類の「羽音」との関係付けを、プレイヤーが発見し得たかどうかを評価・分析している。これは、プレイヤーに事前説明をすることなく体験としてコンテンツが誘導し得たかの評価分析でありレベルデザイン事例としても興味深い研究となっている。
以上のように、本研究は国内ゲーム産業黎明期に存在していた「遊びをデジタル化する」行為を現代に蘇らせた研究であり、メソッドに内在していた暗黙知の記録として重要である。また産業面への貴重な知見をもたらす研究といえ、挑戦的かつ緻密な研究として高く評価できる。
◆学会賞(論文)
笠井 輝さん
論文題目:ゲームプレイによる行動および認知の変容についての実証研究
受賞理由:
本研究は、eスポーツの大会への参加者に女性が少ないことに着目し、その理由を探りたいということから3D空間の認知能力の差の男女差について調査するため、松田(2021)の研究を引き継ぎつつ、継続的なゲームプレイが空間認知能力に与える影響を確認したものである。本研究の結論としては先行研究の結果が示すような強い効果を確認することはできなかったが、本研究には、学部生の研究としての水準を大きく越えていると言える点を複数見ることができる。
第一に、交絡のありそうな多数の変数をとり、その効果を確認した上で検証手続きをすすめており、これは松田(2021)からの大きな進展である。
第二に、信頼性・妥当性の高い検証手続きを何重にも行うような努力をしている点である。RCT、MRT、分散分析、因子分析を行っているのみならず、この手法に辿り着くまでに、SEM、PSMなどの高度な手法も試した上で本研究に適切な手法ではないという理由で、適切な手法を選択している。
過去の研究の上に、課題点を明確に設定し、その乗り越えを図り、誠実に論証可能な議論を構築しており、論文誌等での査読に出すことも可能と思われる高い水準の研究成果を挙げている。テーマの社会性、研究としての手続き妥当性ともに、稀有な水準の研究であるといえる。
◆学会賞(制作+解説論文)
岩﨑 亜実さん
論文題目:アイドルを⽤いた産業プロモーション戦略の有⽤性についての⼀考察~ミュージックビデオ制作を通じた実証的実験~
受賞理由:
本研究は、IT 産業の啓発をコンセプトに結成された『プログラミング拡散系アイドル「アイドルプログラム」』を産業啓発型アイドルとして捉え、10 代から40 代以上の男⼥ファン層がプログラミングをテーマとした同アイドルユニットのミュージックビデオを視聴することにより、如何に当該アイドルならびに同グループが啓発しているIT産業に対する印象に変化が生じるのかについて検証したものである。
本研究の特徴は、メディア視聴の影響を検証するために実際の映像作品を自らつくったという点であろう。実写映像にCGやVFXも合成されていることや冒頭シーンで、コンピュータモニターへクロースアップしてから画面フレーム内にアイドルを示すことでコンピュータモニター内に生息するアイドルが歌うというシチュエーションを描き出すなど、ファンタジー的な演出という面でも本格的なものとなっている。さらに、調査方法においても、プロデューサーやファン2名に対する半構造化面接、ならびに61名を対象としたアンケート調査の実施などミックス法を採用した。調査結果も、「アイドルを好きになったことがきっかけでそのアイドルが応援をしている産業にも関心を高める層が存在した」といった知見を確認しつつも、研究の限界についても同時に示し、前述の知見をさらに検証するうえでの方法論まで提案するに至っている。
まさにライブ映像、VFX、プログラミング言語的モチーフなどをたくみに取り入れた映像作品から社会調査(マーケティング)まで、映像学部が提供するアート、ビジネス、テクノロジー関連で研究者自身が蓄積してきた4年間の学びを全て反映したような印象を受ける。つまり、映像学部のカリキュラムだからこそなしえた研究成果と言えよう。
◆特別賞(論文)
岩敷 謙作さん
論文題目:日本と海外における「日本らしさ」のギャップについて ~機械学習と画像解析を用いた“クールジャパン”の本質についての実証研究~
受賞理由:
本研究は、国内外において積み重ねられてきた日本文化やクール・ジャパンなどの「日本らしさ」を探る先行研究を踏まえた上で、今日における日本と海外の「日本らしさ」についてそれぞれ定量的に測定するプログラムを構築して、それぞれの「日本らしさ」の特性と差異について探索的に分析した実証研究である。
本研究は、日本文化に関する国内外の先行研究を幅広くサーベイしており、日本らしさについてタグづけが可能なキーワードの選別を適切に行っていることに加えて、日本と海外の「日本らしさ」の感覚を定量的に測定するプログラムとしてCNN(畳み込みニューラルネットワーク)を用いた独自の学習モデルを構築しており、設定されたテーマにとって必要かつ適切である高度な方法を学修した上で研究に取り組んでいると評価できる。分析の内容においては、設定した検索クエリに基づくWebスクレイピングによって抽出した画像イメージを機械学習させることで、正解率と学習モデルが算出した予測値と正解値のずれにあたる損失関数を向上させた数値的に優秀な学習モデルを構築することに成功しており、獲得されたデータセットの分析からは、初期段階としては、定量的に「日本らしさ」としての絶対的な条件や要素を発見することができたとまでは評価できないが、構築された学習モデルの精度を向上させる運用を重ねることによってさらに確度の高い識別要因を導出しうる可能性を十分に示すことができている。
今回の研究における限定的な結論については、データセットの偏りや少なさによる学習不足、学習モデル構築の過学習や転移学習とデータセットの不適合などに起因することの適切な指摘に加えて、そもそも日本における「日本らしさ」というアイデンティティそれ自体に「ゆらぎ」が生じている可能性を喝破している点もユニークである。
本研究は、日本文化論に関する先行研究を踏まえつつ、そのゆらぎの原因と想定される日本イメージの輸出入、逆輸入に起因する変質について説得力のある興味深い考察を展開しており、日本という国と文化に対するイメージとその現代的交錯の一端を明らかにすることに成功しており、特筆すべき成果を含む研究として評価することができる。
◆奨励賞(制作+解説論文)
松本 太一さん
論文題目:図形楽譜を用いた音楽インターフェースのデザインと演奏
受賞理由:
インタラクティブなデジタル技術を活用した新しい音楽演奏技術において、観客と演奏者との間でのインタフェースの透明性を向上させるという挑戦的な課題に取り組んだ。「図形楽譜」についての従来研究について調査と分析が非常に良くなされており、自身の作品における図形楽譜については、音の素となる画像と、それに添えられたUIを含めた総体が図形楽譜として機能するというユニークなものであることが示された。GUIを中心とする図形楽譜についてはインタフェースの透明性の課題に一つの解決策を示すことができたと高く評価できる。その一方で、議論として、演奏者が直接操作する機器が直感的かどうかの課題があるということを残しながらも、特に優れた研究であり制作物であると評価し、本賞に価するものである。
古賀 啓靖さん
論文題目:ソフビ人形製造工程のデジタルアーカイブ
受賞理由:
本研究は、ソフトビニール人形(以下、ソフビ人形)の製造工程について、CGを含めた映像により記録した作品である。ソフビ人形は、1960年代以降の映像文化と深く結びついたアニメ・キャラクター商品として展開してきたものであるが、デザイナーズトイの流れの中でアーティストによる制作が広がる一方で、国内での生産縮小による技術継承の危機などの問題が生じている。こうした背景の中で、本研究はソフビ人形の製造工程を一つ一つ丹念に映像として記録しており、その社会的・文化的価値は高い。また、3DCGを用いた映像表現力は特筆すべき水準に達しており、その技術力は高く評価できる。以上により、本研究を顕彰対象とする。
金 重黎さん
論文題目:鶴見朝鮮幼稚園のデジタルアーカイブ
受賞理由:
本研究は、神奈川県横浜市にある鶴見朝鮮幼稚園について、自らも卒園生であるという個人的な経験を軸に、他の卒園生や関係者の記憶を緻密な現場研究を通じて再構築し、精度の高い3DCGのデジタルアーカイブを実装することに成功したものである。日本社会の中で時代の変化とともに廃れていくエスニックマイノリティの記憶の空間のアーカイブだけではなく、エスニックマイノリティと地域の人が交流でき、また教育の現場として、今後メタバースにおける活用という拡張性を見据えている点も、3D CGのデジタルアーカイブの社会的活用という意味で重要な価値のある研究であると言える。以上の理由で、本研究が本賞に値するものである。
◆学会賞(修士研究)
YANG Mantingさん
論文題目:動画共有サイトのオーディエンスと異文化接触に関する研究―「利用と満足」研究アプローチから―
受賞理由:
本研究は、利用と満足研究のアプローチから、中国の動画共有サイト「Bilibili」における日本関連動画を通した異文化接触や異文化コミュニケーションの捉え方、そしてその問題点について明らかにすることを目指したものである。Bilibili の中国人視聴者を対象に、日本に関する動画の視聴行動およびその動機について検証するために、4つのリサーチクエスチョンを立て、質問票調査による量的調査およびインタビュー調査による質的調査を実施した。分析の結果から、利用状況については、視聴者の好むカテゴリーは利用者の利用年数によって異なること、Bilibili を利用している年数が長い人ほど日本に住んでいることなどの関連性が明らかにされた。 中国人視聴者がBilibiliを利用し続けている理由としては、「広告形式の影響」「利便性」「内容の多様さ」「コミュニティ環境の独特性」「有料会員になる必要なし」の5 つの理由が挙げられた。また、視聴し始めた理由については、「日本語の勉強のため」「日本社会の生活に興味があるため」「配信者が魅力的なため」「情報を収集するため」の4 つの動機にまとめることができた。さらに、日本に関する動画をBilibiliで視聴する理由については、「サブカルチャーに対する包摂性」「日本に関する動画の豊かさ」「アクセスの利便性」「形式(動画)の影響」の4つが挙げられた。これらの分析結果から、中国人視聴者による異文化接触の状況と問題点について考察・検証した。
本論文のテーマの独創性については、中国におけるBilibiliの位置づけを明らかにし、娯楽目的を中心に捉えられる傾向にある動画共有サイトを、異文化接触の観点から理解しようと試みた点、異文化交流の形として既存のメディアではなく動画共有サイトという新たなメディア形態を対象とした点、量的調査と質的調査を組み合わせることによって、視聴者の利用行動を掘り下げていった点など、本論文における独自性が認められ、高く評価できる。
長尾 亮虎さん ※2022年度9月修了
論文題目:難易度工学を用いたぶんぶんゴマから構想するデジタルゲーム
受賞理由:
本研究は、それぞれ調査と分析を行ったうえで「新しい遊びの面白さ」と「売れることを意識したゲーム作り」といった背反する要素を定義化し、産業における収益効率化の中で失われつつある「ハードウェアデザインを含めたゲームデザイン」という産業での持続可能性を見据えた挑戦的な研究となっている。
ハードウェアの設計においては「ぶんぶんゴマ」を入力デバイスとしてあげ、伝統玩具としての背景を博物館とのやり取りなどで調査した後、デザイン指針を明確化するための推敲とプロトタイプを複数案で実装している。またデザインメソッドとしては、難易度工学を用いて、ぶんぶんゴマ自体が持つ操作の難易度とデジタル内でのゲームデザイン上の難易度とを融合させた設計を行い実装している点は評価ができる。
実際に制作されたゲーム作品では、猛禽類が静かに滑空し獲物を仕留めるアクションゲーム部と、操作入力デバイスとなる加速度センサーが仕込まれたぶんぶんゴマから構成される。ゲームの評価としては半構造化面接を行い、プレイヤー自体のぶんぶんゴマの経験とゲーム体験との関係性や、コマ自体から発するアナログ上での「音」と、デジタル内での猛禽類の「羽音」との関係付けを、プレイヤーが発見し得たかどうかを評価・分析している。これは、プレイヤーに事前説明をすることなく体験としてコンテンツが誘導し得たかの評価分析でありレベルデザイン事例としても興味深い研究となっている。
以上のように、本研究は国内ゲーム産業黎明期に存在していた「遊びをデジタル化する」行為を現代に蘇らせた研究であり、メソッドに内在していた暗黙知の記録として重要である。また産業面への貴重な知見をもたらす研究といえ、挑戦的かつ緻密な研究として高く評価できる。
◆学会賞(論文)
笠井 輝さん
論文題目:ゲームプレイによる行動および認知の変容についての実証研究
受賞理由:
本研究は、eスポーツの大会への参加者に女性が少ないことに着目し、その理由を探りたいということから3D空間の認知能力の差の男女差について調査するため、松田(2021)の研究を引き継ぎつつ、継続的なゲームプレイが空間認知能力に与える影響を確認したものである。本研究の結論としては先行研究の結果が示すような強い効果を確認することはできなかったが、本研究には、学部生の研究としての水準を大きく越えていると言える点を複数見ることができる。
第一に、交絡のありそうな多数の変数をとり、その効果を確認した上で検証手続きをすすめており、これは松田(2021)からの大きな進展である。
第二に、信頼性・妥当性の高い検証手続きを何重にも行うような努力をしている点である。RCT、MRT、分散分析、因子分析を行っているのみならず、この手法に辿り着くまでに、SEM、PSMなどの高度な手法も試した上で本研究に適切な手法ではないという理由で、適切な手法を選択している。
過去の研究の上に、課題点を明確に設定し、その乗り越えを図り、誠実に論証可能な議論を構築しており、論文誌等での査読に出すことも可能と思われる高い水準の研究成果を挙げている。テーマの社会性、研究としての手続き妥当性ともに、稀有な水準の研究であるといえる。
◆学会賞(制作+解説論文)
岩﨑 亜実さん
論文題目:アイドルを⽤いた産業プロモーション戦略の有⽤性についての⼀考察~ミュージックビデオ制作を通じた実証的実験~
受賞理由:
本研究は、IT 産業の啓発をコンセプトに結成された『プログラミング拡散系アイドル「アイドルプログラム」』を産業啓発型アイドルとして捉え、10 代から40 代以上の男⼥ファン層がプログラミングをテーマとした同アイドルユニットのミュージックビデオを視聴することにより、如何に当該アイドルならびに同グループが啓発しているIT産業に対する印象に変化が生じるのかについて検証したものである。
本研究の特徴は、メディア視聴の影響を検証するために実際の映像作品を自らつくったという点であろう。実写映像にCGやVFXも合成されていることや冒頭シーンで、コンピュータモニターへクロースアップしてから画面フレーム内にアイドルを示すことでコンピュータモニター内に生息するアイドルが歌うというシチュエーションを描き出すなど、ファンタジー的な演出という面でも本格的なものとなっている。さらに、調査方法においても、プロデューサーやファン2名に対する半構造化面接、ならびに61名を対象としたアンケート調査の実施などミックス法を採用した。調査結果も、「アイドルを好きになったことがきっかけでそのアイドルが応援をしている産業にも関心を高める層が存在した」といった知見を確認しつつも、研究の限界についても同時に示し、前述の知見をさらに検証するうえでの方法論まで提案するに至っている。
まさにライブ映像、VFX、プログラミング言語的モチーフなどをたくみに取り入れた映像作品から社会調査(マーケティング)まで、映像学部が提供するアート、ビジネス、テクノロジー関連で研究者自身が蓄積してきた4年間の学びを全て反映したような印象を受ける。つまり、映像学部のカリキュラムだからこそなしえた研究成果と言えよう。
◆特別賞(論文)
岩敷 謙作さん
論文題目:日本と海外における「日本らしさ」のギャップについて ~機械学習と画像解析を用いた“クールジャパン”の本質についての実証研究~
受賞理由:
本研究は、国内外において積み重ねられてきた日本文化やクール・ジャパンなどの「日本らしさ」を探る先行研究を踏まえた上で、今日における日本と海外の「日本らしさ」についてそれぞれ定量的に測定するプログラムを構築して、それぞれの「日本らしさ」の特性と差異について探索的に分析した実証研究である。
本研究は、日本文化に関する国内外の先行研究を幅広くサーベイしており、日本らしさについてタグづけが可能なキーワードの選別を適切に行っていることに加えて、日本と海外の「日本らしさ」の感覚を定量的に測定するプログラムとしてCNN(畳み込みニューラルネットワーク)を用いた独自の学習モデルを構築しており、設定されたテーマにとって必要かつ適切である高度な方法を学修した上で研究に取り組んでいると評価できる。分析の内容においては、設定した検索クエリに基づくWebスクレイピングによって抽出した画像イメージを機械学習させることで、正解率と学習モデルが算出した予測値と正解値のずれにあたる損失関数を向上させた数値的に優秀な学習モデルを構築することに成功しており、獲得されたデータセットの分析からは、初期段階としては、定量的に「日本らしさ」としての絶対的な条件や要素を発見することができたとまでは評価できないが、構築された学習モデルの精度を向上させる運用を重ねることによってさらに確度の高い識別要因を導出しうる可能性を十分に示すことができている。
今回の研究における限定的な結論については、データセットの偏りや少なさによる学習不足、学習モデル構築の過学習や転移学習とデータセットの不適合などに起因することの適切な指摘に加えて、そもそも日本における「日本らしさ」というアイデンティティそれ自体に「ゆらぎ」が生じている可能性を喝破している点もユニークである。
本研究は、日本文化論に関する先行研究を踏まえつつ、そのゆらぎの原因と想定される日本イメージの輸出入、逆輸入に起因する変質について説得力のある興味深い考察を展開しており、日本という国と文化に対するイメージとその現代的交錯の一端を明らかにすることに成功しており、特筆すべき成果を含む研究として評価することができる。
◆奨励賞(制作+解説論文)
松本 太一さん
論文題目:図形楽譜を用いた音楽インターフェースのデザインと演奏
受賞理由:
インタラクティブなデジタル技術を活用した新しい音楽演奏技術において、観客と演奏者との間でのインタフェースの透明性を向上させるという挑戦的な課題に取り組んだ。「図形楽譜」についての従来研究について調査と分析が非常に良くなされており、自身の作品における図形楽譜については、音の素となる画像と、それに添えられたUIを含めた総体が図形楽譜として機能するというユニークなものであることが示された。GUIを中心とする図形楽譜についてはインタフェースの透明性の課題に一つの解決策を示すことができたと高く評価できる。その一方で、議論として、演奏者が直接操作する機器が直感的かどうかの課題があるということを残しながらも、特に優れた研究であり制作物であると評価し、本賞に価するものである。
古賀 啓靖さん
論文題目:ソフビ人形製造工程のデジタルアーカイブ
受賞理由:
本研究は、ソフトビニール人形(以下、ソフビ人形)の製造工程について、CGを含めた映像により記録した作品である。ソフビ人形は、1960年代以降の映像文化と深く結びついたアニメ・キャラクター商品として展開してきたものであるが、デザイナーズトイの流れの中でアーティストによる制作が広がる一方で、国内での生産縮小による技術継承の危機などの問題が生じている。こうした背景の中で、本研究はソフビ人形の製造工程を一つ一つ丹念に映像として記録しており、その社会的・文化的価値は高い。また、3DCGを用いた映像表現力は特筆すべき水準に達しており、その技術力は高く評価できる。以上により、本研究を顕彰対象とする。
金 重黎さん
論文題目:鶴見朝鮮幼稚園のデジタルアーカイブ
受賞理由:
本研究は、神奈川県横浜市にある鶴見朝鮮幼稚園について、自らも卒園生であるという個人的な経験を軸に、他の卒園生や関係者の記憶を緻密な現場研究を通じて再構築し、精度の高い3DCGのデジタルアーカイブを実装することに成功したものである。日本社会の中で時代の変化とともに廃れていくエスニックマイノリティの記憶の空間のアーカイブだけではなく、エスニックマイノリティと地域の人が交流でき、また教育の現場として、今後メタバースにおける活用という拡張性を見据えている点も、3D CGのデジタルアーカイブの社会的活用という意味で重要な価値のある研究であると言える。以上の理由で、本研究が本賞に値するものである。
受賞された皆さん!おめでとうございました!!!!
今後の皆さんのご活躍を祈念しております。