卒業生インタビュー

Tech×Artに見出した、自分ならではのフィールド

木川 貴一郎さんの写真

木川 貴一郎 2021年度卒

修士研究テーマ

「HaptoBOX:フィジカルなミクストリアリティ体験のための多感覚型インターフェースデバイスの研究」

志望動機

進むなら、可能性の広がる方へ

立命館大学大学院 映像研究科の志望理由を教えてください。

映像学部に入学した当初から、うっすらとですが、映像研究科まで進みたいと思い続けていました。進学した方が自分の将来の可能性が広がる気がしていたからですが、卒業制作をきっかけに確信に変わりました。

学部に所属していた2016年頃はVR(バーチャルリアリティ)元年と呼ばれ、仮想現実が普及しはじめた時期でした。しかし、VRの体験はあくまで仮想世界の中だけ。私は、そこに実体感がほしいと思い、卒業制作では大島登志一先生のご指導のもとMR(ミクストリアリティ)をテーマに現実世界と仮想世界を融合させることに挑戦しました。研究に取り組む中で、この分野にはまだまだ拡張性がある、もっと突き詰めたいと感じるようになったんです。

就活もしましたが、研究を続けてから就職した方が自分の可能性は広がりそうだという考えは変わりませんでした。就職しなかったからといって就活に意味がなかったわけではなく、実際に就活を経験してみたからこそ、進学という周りとは違った選択をする決心が固まったと思います。

研究活動

映像ではなく、「映像による体験価値」をつくる

研究テーマを教えてください。

修士制作では、学部の卒業制作を発展させました。テーマは「HaptoBOX:ミクストリアリティ体験をフィジカルに増強するユーザーインターフェースデバイスの研究」。ヘッドマウントディスプレイに表示される映像にハプティクス(振動や動きで触覚的なフィードバックを送る技術)を連動させる試みで、例えばヘリコプターの3Dモデルを映せばプロペラに連動して手元の箱が震え、心臓の3Dモデルなら見ているままのリズムで鼓動を感じられるようにしています。「触覚も感じられる立体的な図鑑」というイメージでしょうか。学部時代は単純な振動までしか対応していませんでしたが、学会や展示会でいただいたフィードバックを踏まえて改良を続け、最終的には重心の移動まで表現できるようになりました。

ハプティクスの機構はモデルごとに作ってしまうと応用がきかないので、極力シンプルになるようこだわりました。箱の中で動かしているのは振動の質が違う2つのモーターと、重心の移動を再現するベルトコンベアの3つだけ。あとはそれぞれの制御で様々なモデルに対応させています。触覚が映像の体験を拡張するのと同時に、映像が触覚に説得力を持たせているのもポイントです。

映像学部への進学を決めた理由でもありますが、得意だったプログラミングや電子工作に、関心のあったアートやクリエイティブを組み合わせようとしたのがこの研究の出発点です。「ゲームを作りたい」「映画を撮りたい」というような明確なイメージのある入り口ではありませんでしたが、自分ならではの領域を見つけ、それを卒業制作・修士制作を通して形にできたと思います。

研究活動を進めていく上で、映像研究科の環境はどのように役立ちましたか?

映像学部から映像研究科へそのまま進んだので、同じ環境で研究を続けることができたというのは大きなメリットでした。一方で学生の数は学部と比べると圧倒的に少人数なので、先生方が一人ひとりにかける時間が増え、濃密な指導を受けることができます。専門領域を深めていくことはもちろんですが、隣接するゾーンの先生からもフィードバックをもらうことで視野が広がりました。例えばゲームを専門領域にされている先生はユーザーの体験から映像を捉えているので、どうすれば体験の質を上げられるかというフィードバックは非常に的確で参考になります。単純なテクニックだけでなく体験本位で映像を学べるというのは、私の研究に限らず映像研究科の大きな特徴だと思いますし、実際に今の仕事にもつながっています。

キャリア

アカデミアからキャリアまで。興味と経験を体現

現在のお仕事について教えてください。

卒業後はソニーPCLに入社しました。事業としては空間の内装デザイン・設計・施工を行ったり、イベントの企画・制作・運営をしたり、コンテンツ制作におけるプリプロダクションや撮影、ポストプロダクションをしていたり。手がけている事業領域が多岐に渡るので説明は難しいですが、一言でいえば映像を起点にユニークな体験やコンテンツを生み出している会社です。入社当初は企画制作職でイルミネーションのイベントや新製品の発表会などを担当していましたが、現在は研究・開発段階の技術をイベントや空間に落とし込む仕事をしています。近年脚光を浴びているイマーシブな空間づくりもその一例です。今まで誰も体験をしたことのないような新たな体験価値を創ることを目標にしています。

就職先はどのように決めましたか?

イベント関連の仕事に就きたかったことが大きな志望理由のひとつです。高校時代に通っていたプログラミングスクールにずっと長期インターンのような形で携わり続けていて、そこのIT教育のエデュテインメントイベントで企画・オペレーション設計・運営のディレクションをしていました。事前のシミュレーションだけでなく、現場の即時判断も求められるような、あらゆるスキルを総動員して臨むライブ感がすごく好きで、仕事にしたいと思っていました。

もうひとつは、私とソニーPCLとの親和性の高さです。修士制作で扱ったハプティクスを商業的に活用していることや、技術からクリエイティブ/クリエイターにアプローチしていくスタンスに近しさを覚えました。

メッセージ

映像研究科への進学を考えている方へ、メッセージをお願いします。

映像は、さまざまな体験や表現の可能性を広げる魅力的な分野です。自分の中にある「伝えたいこと」や「形にしたいもの」をどう表現するかは、まさにあなた次第。そのプロセスを通じて、新しい自分に気づき、さらなる可能性を見出すことができるはずです。

映像研究科では、先進的な設備で最新の技術や知識を学ぶだけでなく、 多様なバックグラウンドを持つ仲間と切磋琢磨し、 教授の手厚い指導を活用しながら自分のビジョンを具体化していくことができます。 この環境で過ごす時間は、きっとあなたの未来を切り拓く大切な一歩となるはずです。