志望動機
立命館大学大学院 映像研究科の志望理由を教えてください。
日本にはルーツを持っておらず、大学まで中国にいました。専攻はテレビや新聞、広告といったメディア関連。ある新聞記者の著作に感銘を受けて記者を目指そうとこの専攻にしたのですが、自分には書く才能がないと思い知り、入学して早々にミスマッチを感じだしていました。そんな折に日本のアニメ映画と出会ったことが、転身のきっかけになりました。
2018年に中国にジブリ作品が初上陸して、個人の観賞体験としてはもちろんのこと、その社会的影響力に圧倒されたんです。「映像と日本文化」が本当に学びたい領域であると気づくと同時に、学部ではやりたいことを突き詰めきった達成感はもう得られないと感じました。大学2年生のときには大学院への進学を決意して、日本語の勉強を始めました。
映像研究科はもとから知っていたわけではなく、インターネットを駆使して見つけました。進学先を探しはじめた当初は社会学に目星をつけていましたが、研究したいテーマからは少しずれていました。調べているうちに「メディア利用行動」を専門分野にされている竹村朋子先生の論文に出会い、「ここでなら映像と日本文化について研究できる!」と確信。竹村先生の所属している映像研究科に連絡を取りました。
ところが、進学直前にはコロナ禍で来日も危うくなり、両親からも一度は進学を反対されるという逆境が訪れました。しかし、大学2年生から準備してきた夢を諦められるはずもありません。最終的には幸運にも入国の許可が下りて進学が叶いましたが、今振り返っても「自分のやりたいこと」に素直であり続けてよかったと感じています。
研究活動
研究テーマを教えてください。
テーマは「動画共有サイトのオーディエンス異文化接触に関する研究―『利用と満足』研究アプローチから―」。Bilibili動画という、中国における動画プラットフォームで視聴者がどのようなきっかけで日本文化に触れて、どのような体験をしているのかを調査・分析しました。
Bilibili動画の黎明期は主に日本アニメが好きな中国人が最新の日本アニメに接触する場だったのですが、次第に日本人が中国人向けに日本の生活や文化に関する動画を投稿するような動きも出てきました。実際、私も日本語の発音は動画を真似て覚えました。中国のテレビでも日本アニメは視聴できますが、ひと昔前の作品であることも多く、ステレオタイプな理解の原因ともなり得ます。研究テーマとして「動画共有サイトが現代の異文化接触において果たす役割」を選択したのはそのためです。
実際に研究してみると、最近ではアニメ以外でも趣味に関連する動画をきっかけに日本文化に触れるケースが増えていたのが印象的でした。Bilibili動画の開設からおよそ10年の間だけでもユーザーの動向が大きく変化していたのは、発見だったと思います。
研究活動を進めていく上で、映像研究科の環境はどのように役立ちましたか?
映像を学問としては学んでこなかったので、研究したいテーマは明確でも、それを叶えるための知識も経験もほとんどない状態からスタートしました。逆に言えば、やりたいことさえはっきりしていれば必要なスキルを2年間で身につけられる環境だったと思います。例えば、研究ではBilibili動画のユーザーに直接聞き取り調査を行いましたが、その手段や分析方法も1から竹村先生にご指導いただきました。
また、つくる側の視点を身につけることができたのも大きな収穫でした。これまで制作することへの憧れはあってもそのスキルを持たないというギャップを感じてきたのですが、研究室のメンバーの手伝いや意見交換を通じて、ゲームなどの制作を経験することができたんです。卒業に求められたわけではありませんが、知識だけではなく実体験もともなう厚みのある思考が可能になりました。幅広いゾーンを持っている映像研究科でなければ、得られなかった力だと思います。
キャリア
現在のお仕事について教えてください。
卒業後も日本に残り、技術系のコンサルティングファームに務めています。職種はマーケティングですが、イベント企画やHP制作においてはコンサルタントのような役目も担っています。一見すると映像とは離れているように見えるかもしれませんが、広告では動画を使う機会も多いですし、修士研究のテーマもオーディエンス研究だったので、その経験は大いに活きています。
意外だったのが、「デジタルアーカイブ」の講義が役に立っていることです。私の研究テーマだけを考えるなら必要な知識ではないのですが、現在の仕事で扱っている空間の3Dスキャナーに直結する内容だったので、大きなアドバンテージになりました。狙ったわけではありませんでしたが、映像研究科で幅広く学んできてよかったと思っています。
就職先はどのように決めましたか?
中国の大学は卒業が7月なので、日本とは就活のシーズンも違います。そのため自然な流れから日本で就活をはじめて、そのまま就職しました。ただ、キャリアのイメージを描いて進学したわけではなかったので最初は迷走もしましたね。留学生の中ではIT業界が人気だったので何社か試しに受けていましたが、うまくいきませんでした。それでも1か月ほど試行錯誤しているうちに、修士研究がマーケティングにつながっていることに気づいたんです。やりたい仕事が決まってからの就活は順調になっていき、次第に内定ももらえるようになりました。
最終的には、外国人へのケアの厚さと扱っている事業領域の広さで会社を決めました。「マーケティングをしたい」ところまでは決まっていても、具体的に何を扱いたいかまではわからない状態だったので、就職後の選択肢が多い道を選びました。OJT形式でいろいろと試してから現在の部署に配属されているため、ミスマッチを感じることもなく、やりがいを持って働けています。
メッセージ
映像研究科への進学を考えている方へ、メッセージをお願いします。
私の人生は、映像研究科に入って大きく変わりました。設備や指導体制が充実しており、「映像」を多角的な切り口から学べる環境なので、自分のやりたいことがきっと見つかります。まずは自分の研究分野を明確に定めて、真摯に突き詰めてみてください。その姿勢に応えてくれる教員がいます。その上で、一見関係のない分野にも積極的にチャレンジしてみてください。理想の自分を見つけるヒントは、意外なところにも眠っているものです。