大学院生の研究

基礎理工学専攻数理科学コース

理工学研究科 基礎理工学専攻 数理科学コース 2回生
コハツ研究室所属

立命館の大学院を選んだ理由は?

立命館の数理科学科では、経済やファイナンスに関連した講義を受講することができ、私は入学以来、金融に興味を持ち始めました。

金融機関における数学の専門職として、アクチュアリー(注1)やクオンツ(注2)という職業が最近有名になりつつありますが、そこで用いられる数学はとても高度で専門的です。いずれの職業も高度な数学的手法や数理モデルを使って、マーケットを分析したり、投資戦略や金融商品を考案・開発したりしています。数理科学科の卒業生には、金融機関で働いている方も多く、学科ではアクチュアリーやクオンツとして働いている先輩と話す機会が多く設けられていました。出会った先輩方と話すうちに、金融機関で働くことに意欲が湧きだし、せっかく大学で数学を学んでいたのだからそれを活かしたいと思っていた私は、クオンツとして働きたいと思うようになりました。

これらの専門職には、確率論や数理ファイナンスの高度な知識が必要となります。立命館大学の数理科学科には確率論・数理ファイナンスに力を入れている研究室があり、毎年海外から多くのゲストを迎えて研究が盛んに行われます。卒業研究の配属では迷わずその研究室を希望しました。

研究室に配属されてから、同じような目標を持つ友達や先輩に恵まれ、先生とのディスカッションや海外の研究者との交流を経て、自身の研究を進める中で、より高度で専門的な数学を身に付けたいと思い、立命館の大学院進学を決めました。現在は応用や実務に活かせる研究をして、社会の発展に貢献したいと考えています。

研究をしていておもしろいと感じるときは?

私が数学をしていて面白いと感じることは2つあります。「数式が万国共通の言語であること」と「数々の発見に出会えること」です。

私の研究室には、外国人の先輩も多くおり、数学の議論を英語で行うこともしばしばあります。自分のアイデアを英語で伝えるのは、表現しづらいことも多くあり、ときどき戸惑ってしまいます。そんなときに紙に数式を書いて見てもらえば理解してもらえることがあり、数式は万国共通の言語であると実感するとともに、国の違う人とも、このように通じ合えるところにおもしろさを感じます。

「数学を研究している」というと多くの人からは毎日計算をしているの?と聞かれるのですが、大学の数学では理論を組み立てることが大部分を占めているように思います。大学に入学して、これまで当たり前だと思っていたことも、きちんとした理論の組み立てによって示されることなのだと知ってから、数学は世の中で一番確からしいものだと認識しました。大学に入学してからこれまでを振り返ってみても、定義とそれから導きだされる定理や命題だけを積み上げてきたものが崩れることはありません。

本や論文の中にある、他人が組み立てた理論を読み解くにあたって、1つの事柄を1週間考え続けることがあります。自分がこれまで積み上げてきた理論や、証明に用いた手法を振り返って、どこかに使えないかと考えて結果を導きだせたときの「わかった!」という興奮は悩んでいた時間を忘れさせてくれる魅力があります。数学の研究では、このような興奮とたくさん出会えます。

今後の目標は?

私の研究室では、金融に応用できる新しいシミュレーション方法を提案することをテーマの1つとして取り組んでいます。

私は来年から銀行のクオンツとして働く予定であり、今の研究が活かすことができるのではないかと考えています。クオンツの仕事の一つとして、金融派生商品の設計が挙げられます。銀行や証券会社で金融派生商品というものを作る上で、「期待値を求める」必要があります。この期待値は数式の計算で求めることが出来ないことがたびたびあります。そのような場合、コンピュータによるシミュレーションを用いて計算する必要があります。現在主流のシミュレーション方法では、より正確な期待値を求めるために多くの時間を必要としてしまうため、スピードが求められる金融の世界では不便な一面があります。そこで、私はこの手法とは異なる方法を用いてより速く、より正確な期待値を求めるにはどのようにすれば良いかということを研究しています。

日本の銀行は将来採用されるバーゼル3(注3)という基準を満たしているものばかりで、世界でも安全な金融機関と言われています。今後、私はクオンツとして日本の経済を縁の下で支えていく役割を担い、発展に貢献できるようになりたいと考えています。

注1:確率論・統計学などの数理的手法を活用して、主に保険や年金に関わる将来のリスクや不確実性の分析・評価をおこなう専門職のことをいう。金融の世界で、数理を扱う領域を幅広く取り扱うようになっており、企業の資産運用などの多彩なフィールドで活躍している。

注2:過去の企業財務データやアナリストによる利益予想データ、マーケットデータなどのあらゆるデータを用いて計量的な分析を行い、過去と将来の株価の関係をデータの中から特性を見つけ出したりする。

注3:銀行における自己資本の計測と基準に関する国際的な統一基準であり、健全性を維持するための新たな自己資本比率規制のことをいう。健全性の目安であるだけでなく、銀行や監督官庁にとっては重要な判断指標になっている。