大学院生の研究

総合理工学専攻環境都市型

理工学研究科 総合理工学専攻環境都市型 博士課程後期課程 3回生
大窪研究室所属

(総合理工学専攻環境都市型は、現在、環境都市専攻に再編されています。)

立命館の大学院を選んだ理由は?

私は学部を卒業した後、韓国の国立文化財研究所で短期研究員として働いていました。当時の専門は韓国や日本、中国を代表する歴史的な木造建造物の保存と修復設計でした。このような文化遺産は各国や世界から認められた「宝物」として、先祖から引き継ぎ後世に渡すべくその美しい原型を守るための多大な努力が重ねられてきました。

ところが2008年、韓国の国宝1号である「南大門」は放火によりその大部分を焼失してしまいました。火災の通報から5分もかからずに数多くの消防車が駆け付けて放水を行いましたが、伝統的な瓦葺の木造建物に対する消防のノウハウが足りなかったことが被害を拡大した原因でした。

当時立命館大学では「文化遺産防災学」推進拠点として文部科学省からの支援を受けながら、自然災害から文化財とその周辺地域を守るための学問の確立に取り組んでいました。学内の歴史都市防災研究所のプロジェクトが中心となり日本の美しい文化遺産と町並み、国外の世界遺産を対象として、それぞれ地域の「防災」に役立つ実践的な研究を展開しています。またそもそも文化遺産には歴史の中で幾度なる災害を乗り越えて守られてきた防災の知恵が蓄積されていると考えられています。最先端の技術も重要ですが、このような「知恵」は美しい遺産の本質を守りながら防災力も高めるヒントになると思います。私はこのような立命館大学の取り組みに魅かれ、本大学院に入学することを決めました。

研究をしていておもしろいと感じるときは?

大学院に入学してはじめに取り組んだのは、日本を代表する歴史都市京都の駅前にある東本願寺とその周辺地域を対象とした「文化遺産防災アイデアコンペティション」です。地震の後に危惧される都市火災の対策として、約120年前に建設された歴史的な消防用水の送水管であった「本願寺水道」の、防災水利としての能力を再生したまちづくりの計画を提案しました。本提案では歴史的な消防設備を復活させる文化的価値の保全と、いざという時には地域住民の初期消火用水として活躍できる街の水路、大きくて美しいイチョウと桜が立ち並ぶ門前の緑地帯を防災拠点として構想した機能面が評価されました。

私はこのアイデアを膨らませ、「歴史的な水環境の防災的な活用」といった研究に取り組んでいます。本願寺水道のような歴史的な水道管を再生した場合には、実際にどの位の量を消防用水として使えるのか。もしくは地震に伴う木造密集市街地での延焼火災をどれほど抑止できるかを検証しつつ、その活用可能性を明らかにしてきました。その過程では、数年に渡り所有主である東本願寺との打ち合わせを重ねており、自分一人では解決できない技術的な課題についてはNPOの専門家の方々からご協力を頂くなど、数えきれない方々と「人と人」との繋がりができました。歴史都市京都の防災を考える、歴史的に貴重な遺産を保全する、といった社会的な目標を共有し、実践的に取り組み、その成果を肌で感じられることが一番の喜びです。

今後の目標は?

目前の研究テーマである「本願寺水道の再生」については現在、その再生される水をどのように使うか多方面から検討しています。消防水利としての利用だけではなく、東本願寺前の堀の水と緑地帯を結ぶ景観要素としての利用、さらにその水を他の地域までに延長する利用の方法など、より広域に検討を行っています。近い将来には、このように自然に流れる水を基に京都市の所々を繋ぐ「水のネットワーク」を計画したいと考えています。

1995年の阪神淡路大震災の時には上水道を基盤にしている消火栓が使えなかったことから、それ以降は都心内の河川を消防用水として使うための工夫がされてきました。河川の水は大規模地震の後にも絶えることなく流れる可能性が高いため、消防用水は勿論、避難生活に伴う生活用水としても活用が期待できます。また整備された河川敷は、周りに倒れるものが少ないことから、安全な避難ルートや避難場所としても活用できると考えています。水利としての再生と美しい水辺を整えることで、歴史都市京都における防災環境を備えられると信じています。

日本の歴史的な街なみである「重要伝統的建造物群保存地区」では、その美しい風土を守るために地域住民が取り組めるような「地区防災計画」を策定しています。私が所属している研究室ではこのような町並みにおける「歴史防災まちづくり」に携わり、風土に根差した安全で豊かな暮らしが継承されることを目指して研究に励んでいます。将来的には、日本で得た研究の手法を基に、全世界の歴史都市における防災計画の策定に貢献したいと考えています。