学生の考える力を信じて
自主性を尊重したルール作りで活動早期再開

2021年7月29日

川方 裕則 教授
(理工学部/前学生部長)

川方教授は、学生部長(スポーツ担当)として、コロナ禍における体育会クラブの活動継続にあたり、職員と協働し全クラブの幹部学生と丁寧な面談や調整、対策検討の指揮にあたりました。学生の安心・安全を守りつつ、学びと成長の場でもある課外自主活動を、どう維持・継続してきたのか、どのような想いを持って学生たちに接してきたのか、詳しくお聞きしました。

2020年4月、第1回目緊急事態宣言の発出により、課外自主活動も活動制限せざるを得なくなりました。当時の学生たちはどのような様子でしたか?

大学のキャンパスは入構禁止になり、学生たちへ諸活動の中止・延期、外出自粛要請が出されました。学生たちの受け止めは千差万別でした。「活動したいのになぜしてはいけないのか」と不満を持っている学生もいましたが、「活動をすることで感染したり、させたりしたらどうしよう」と不安を抱えている学生や「仕方がない」と冷静に捉えている学生もいました。今もそうですが、何が正しくて何が間違っているかがわからない状況でしたからね。ただ、活動が止まるということに対して、理不尽だという反応はありませんでした。行政からの緊急事態宣言にともなう要請であって、大学が独自に判断していなかったからだと思います。プロスポーツも活動が止まっていた状況でしたし、混乱はありましたが「何がなんでも活動がしたい!」という声はそこまでありませんでした。

先の見通しが立てづらい中、活動再開に向け早々に動き出されました。

対面での活動(以下、活動)を停止し続ける選択は私にはありませんでした。停止することは活動再開を放棄することになってしまいます。活動再開イコール、新型コロナウイルスに感染するリスクが高まるという事ではありますが、そもそも体育会の活動には普段から怪我や熱中症で倒れる危険などのリスクはつきものです。しかしリスクがあるからと言って活動しないという理由にはなりません。新型コロナウイルスも同様で、その感染のリスクをできる限り軽減し、いかにして活動していけるようにするかが重要だと考えました。

具体的にどのように進めていきましたか?

この機会を学生たちの成長の場と捉えたら、必ずしも悪いことばかりでもないという気がしました。学生は課外活動をする権利をもっています。今回の事態は、その権利を守るために、学生自らがどうしたらよいのかを考える機会になると感じました。活動停止中、競技力を向上することはできませんが、チームみんなで活動再開に向けた話し合いを重ねることでチーム力は向上できるかもしれません。単に活動ができないというマイナスの出来事で終わらせるのではなく、どうやったらプラスの出来事に転換していけるかという想いを持って、学生たちと話し合いながら進めてきました。

例えば、活動再開に向けて大学が設けるルールは大会への出場基準や練習試合の開催基準など、対外的にルールを明確にしておかないと問題があるものなど、必要最低限の範囲で定めることにし、日常生活や活動におけるルールは各クラブの実態に合わせて学生自らが考えるという事にしました。こうしたのは学生たちに“考える力”があるという確信があったからです。仮に「部員同士の部屋の行き来禁止」と定めたところで、クラブによっては寮などで共同生活をしているところもありますし、練習場所や方法などは、競技・活動によって異なるため、一律にルールを設けることは困難です。100人以上部員がいる硬式野球部、サッカー部、アメリカンフットボール部、ラグビー部などは、身体接触を伴う練習をする際、万が一感染者が出たときに備えて、濃厚接触者の数を減らすようグループを分けて練習をするなどリスクを低減し練習できるようなルールを考えていました。このように、学生たちが自らの生活や活動にフィットしたルール作りを主体的に決めていけるよう、私たち学生部は見守っていきました。学生たちは、納得しながら自分たちが責任をもって守れるものを作り上げてくれたと思います。その結果、2020年7月上旬には全ての団体が活動再開を果たすことができました。

さらに活動を再開する準備段階から、コンディション管理ソフト「ONE TAP SPORTS」を導入し、体育会クラブに所属する全学生に、朝起きて一番に検温・記録することをルール化しました。体調管理をすることはアスリートとして最も基本的かつ重要な行動の一つでもあり、無症状である状況をチェックして活動に参加するという義務を果たしていることにもなります。

各部から毎日報告される体温は一覧で表示され、
報告漏れなどがないか確認できる。

今回の取組みを通して大切だと感じたことをお聞かせください。

私は学生たちと話をする際、できる限り論理的に、かつ科学的根拠に基づいてコミュニケーションをとるように心がけていました。例えば、練習試合開催の間隔はシーズンが迫っていてどれほど試合を多く組みたいと考えていた場合でも、最短3日(標準としては2週間)を空けるようにとしていました。感染していた場合、無症状の状態でウイルスを吐き出し始めるのは発症の1~2日前とされており、試合をして2日後に両チームで連絡を取り合って体調不良者がいなければ、試合をした時点では発症に至る感染者はおらず、その後も体調不良者が出なければ次の試合が出来る、といように感染拡大を防止するルールの根拠として説明が出来ました。ただ、無症状感染者も多いことが分かっていたために標準としては2週間を空けることも併せて説明しました。このように根拠があれば絶対に守らなければいけないことだけは決まります。その根拠を持って、できる限り論理的に説明をしながらお互いの納得を得ていくことが大切だと思います。

もう1点は、信頼関係です。学生部は統括組織でもあり、パートナーでもあります。そうであり続けるためには、学生たちと顔と顔を合わせることが大切だと感じました。本学は複数のキャンパスがありますので、授業や会議の合間をぬって1か所に集合して顔を合わせることが困難でした。しかし、オンラインミーティングツールを使えば簡単に一堂に会してミーティングができます。それを活用して学生と対話を重ねました。今回の事態のように重要な判断を周知するにも、顔の見えない相手からメッセージが届くよりも、顔を合わせ肉声で話したことのある人からのメッセージだと、学生にとっても受け止めが異なります。このような「対面」でのコミュニケーションが大切だと改めて感じました。

体育会本部が作成したポスター。
競技中の様子と感染対策している様子の写真で構成されている。
一人一人の努力が感染対策につながるというメッセージも込められている。

最後に改めて言えることは、今回の取り組みにおいて、私一人の力は小さく、学生幹部たちを中心とする個々人の努力と、各クラブの部長や副部長、監督やコーチ、学生部の職員らが互いに状況を理解しあい、協力をしていただいたことが非常に大きかったということです。私自身は、2020年度をもって学生部長の任期を終えましたが、学生たちにはこれからも困難にしっかりと向き合える力を身に着けていってほしいと願っています。

体育会委員長(立命スポーツ編集局在籍)
久留慶子さん(産業社会学部4回生)

第1回目の緊急事態宣言発出後、活動に制限がかかり非常に無力感を抱きました。体育会の学生たちは、当たり前にできていた活動が出来なくなり、生きがいを無くしたり、モチベーションが下がってしまったと思います。そんな中、川方先生やスポーツ強化オフィスのみなさんから、活動再開に向けての呼びかけがありました。6月ごろから大学側と各部との話し合いが始まり、再開に向けた活動計画や感染対策について入念にやり取りをしました。先生方は私たちの想いを尊重し、限られた中で最大限の活動ができるようにサポートしてくださいました。例えば、私が所属する立命スポーツ編集局は、試合の取材にあたり選手の息遣いや試合直後の感情を記事にするために対面取材を強く希望し、その想いを汲んでいただきました。他大学では、対面取材は禁止で取材は基本オンラインとされていたそうです。部員同士でミーティングを重ね、「マスクを二重にする」「取材時は2メートル離れ、ボイスレコーダーを近づけ音声を拾う」「取材のための移動では極力公共交通機関を使用しない」などのルールを自分たちで決めて遵守しました。編集作業も部室に集合せず、Zoomで画面共有しながら行うなど、新しい紙面づくりの方法をみんなで作り上げていきました。

コロナ禍を通じて、これまで恵まれた環境で活動していたんだと改めて実感しました。活動や企画など、一つ一つの機会を大切にするようになったと思います。

※撮影時のみマスクを外しています。