自分が目指す薬剤師像を明確にする大切な機会を
バーチャル・エデュケーションで留学体験を実現

2021年8月5日

角本 幹夫 准教授(薬学部)
近藤 雪絵 准教授(薬学部)

薬学部では、薬学科の5回生を対象にカナダのトロント小児病院とトロント大学と連携した海外留学プログラム「薬学海外フィールドスタディ」(Toronto Clinical Training Program以下TCTP)」を実施しています。しかし、新型コロナウイルス感染拡大で2019年度(2020年2月~3月実施)はやむなく中止に。角本准教授と近藤准教授は、学生たちにとって貴重な留学の機会を何とかして作り出したいという想いから、2020年度はバーチャル・エデュケーション(オンライン留学)という形で実施することを決断し、具体化に取り組みました。

薬学部独自の海外留学プログラムTCTPの意義についてお聞かせください。

角本本プログラムでは、世界最先端の医療現場であるトロント小児病院での臨床病棟体験、症例カンファレンスへの参加、トロント大学薬学部の授業への参加や学生との交流を行います。他国の薬剤師がどのような活躍をしているかを知り、ここでの経験を糧にグローバルな視野を養うことで、学生が臨床に関わる病院薬剤師や薬局等の薬剤師などとして、国内外で医療に貢献できる人材になってくれることを期待しています。

角本准教授

近藤薬学科の学生は入学した時点から薬剤師免許の取得を目指します。授業も忙しいため、自分探しや将来についてゆっくり考える時間が取るのはなかなか難しいような感じが見受けられます。6回生になり国家試験合格に向けたさらなる勉強の日々が始まる前で、5回生の病院・薬局実習を終えた時期(2月~3月)にこのプログラムへ参加することは、過年度に参加した学生の言葉を借りると、自分が目指す薬剤師像を明確にし、将来やキャリアについて考えるいい機会だと感じています。

近藤准教授

コロナ禍でオンライン留学プログラムを実行しようと決断された背景についてお聞かせください。

角本2019年度(2020年2月ごろ)は新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた時期で、まだ各種イベント等の実施判断はまちまちな状況でした。私たちもこの留学のために準備してきた学生や協力者のこと思い大変悩みましたが、派遣先が医療現場ということを考慮してプログラムの中止という苦渋の決断をしました。

近藤医療現場ではbest possibleを考えることが大切ですが、教育現場も同じで、2019年度のbest possibleはプログラムを中止することでした。渡航できなかったのは本当に残念でした。しかし、学生たちも自分たちが将来医療人なろうとしていてるからこそ、あの状況では中止が最善の判断だったということを受け止めていましたし、それ自体が学生たちの学びにもつながっていたと思います。この学生たちはZoomでトロントの薬剤師と面談をしていて、それが大変刺激的な経験となったようです。オンラインツールを使った事前学習も以前から行っていたので、オンライン留学を実現できるだろうという期待がありました。

角本翌年度の実施についてどうするかは、2020年度に入ってすぐに担当者間で検討を始めました。先行きが見えない状況は続いていましたし、渡航することは困難でしたから判断をペンディングすることも考えましたが、そうすると何も決まらないまま時間ばかりが過ぎていくような予兆がありましたので、オンラインで企画が出来ないかを追求しようと4月の段階で判断しました。
早速、トロント大学およびトロント小児病院に相談し、協議を重ね1週間の交流プログラムをオンラインで実行することにしました。もちろん、現地で体感することが一番いいのですが、オンラインであっても海外の人たちと触れ合い交流することは貴重な体験になると考えました。また、早々に判断が出来たので、約1年間かけて内容の充実化を図ることができました。

プログラムの実施にあたり、どのような準備や工夫をされましたか?

角本一番の苦労は時差(14時間)があったところですね。カナダの時間にあわせてプログラムを組みましたが、学生は夜中と朝方に活動するといったハードスケジュールになりました。その中で、学生たちの時差ぼけを少しでも軽減できるよう、交流先の方々にも配慮していただき、時間設定をしました。

近藤学生たちががっかりしないようにするための工夫には力を入れました。やはり学生たちはトロント小児病院の授業に参加したいだけでなく、カナダの薬剤師の後について実際の仕事ぶりを見たり、トロントの街並みに触れたり、トロント大学のキャンパスに足を踏み入れて向こうの学生と隣合わせで座ったりなどを期待していたと思うので。そうした異文化体験や交流、英語漬けの生活などの留学体験をいかに作り出すかという点に配慮しました。服部学部長が一緒に楽しいアイデアを出してくださって、各国のお土産を詰めたギフトボックスを送るとか、立命館に来ている中国やインドの留学生、エジプトやカナダ出身の先生とのディスカッションを企画したりしました。学生は留学生にお薬手帳の説明を英語でしたり、中国の薬剤師の働き方を興味深く聞いたりしていました。中国の薬局にはたくさん漢方が並んでいるという事を聞いて驚いていましたね。これらの取り組みを通じて日本にいながらでもグローバルな体験ができるということにも気づいてもらえたと思います。

TCTPの今後の展開、先生方の想いをお聞かせください。

近藤トロントの病院薬剤師の仕事を体験するには、現地に行くことが何よりも貴重であり、オンラインでは代えられないことが多くあります。ただ、そこでの経験をより豊かなものにするための留学前学習の在り方は、コロナ禍での経験を踏まえてもっと改善が出来ると考えています。5回生は留学の準備期間と病院・薬局実習の期間が重なっており、例年両立に苦労していました。これまで留学前学習で行っていたeラーニングやオンラインプレゼンテーションは、学生たちにとって特別なことでしたが、コロナ禍で学生のオンライン環境も整いZoomで会話することに抵抗がなくなったことで、オンラインでの学習や交流におけるアドバンテージが出来たと考えています。この環境を生かし、動画教材や交流会の機会を今後も提供し、留学前後の学習も含めた留学プログラムのパッケージを充実していきたいと考えています。

角本2021年度はオンラインでの実施となりますが、2022年度以降は、新型コロナウイルスの状況によって現地に行けるようにしたいと考えています。ぜひトロント小児病院で薬剤師の働く姿を見たり、トロント大学の教室で現地の学生と一緒に学んだりする経験をしてもらいたいですね。薬学部は、プロジェクト発信型英語という授業を通じて低回生から英語力と発信力を鍛えていています。この留学プログラムはそこでの学びをアウトプットできる場としても役割を果たしていると思います。最近では、入学した時からTCTPを知っていて参加したいと希望する学生も増えてきていますし、卒業生の中にも海外で働く学生も出てきています。これからもグローバルな視野を養い、国内外で活躍できる人材を輩出できるプログラムとして運営をしていきたいです。

参考Webサイト