QUESTION スマホの位置情報で誰かが
わたしの行動を把握しているのって、
法律的には問題はないの?

KEYWORD #憲法

スマホの位置情報システムは紛失の場合や道案内などとても便利ですね。ただ見知らぬ「誰か」となると、違和感や不安もありますよね。

法的に考える上での出発点は、「あなたの位置情報は、あなた自身のもの」という点です。これを「法のコトバ」に翻訳すると、「プライバシー権」だとか「情報自己決定権」と言う権利の話になります。憲法学のいう自己決定権、民法学のいう人格権などを手がかりにして、法律や裁判判例の中で形成されてきた権利です。

位置情報システムがあれば、あなたが、どのようなルートを経由して、今どこに(誰と一緒に)居るかを「誰か」が把握できてしまいますよね。でも、この情報は「あなたの自身のもの」なのですから、これを誰に教えるか/利用させるかは、あなたが決めることです。あなたの同意もなく「誰か」が勝手に利用したら、プライバシー権の侵害にあたるといえます。不正アクセス禁止法などの刑事法規に触れる可能性もありえますし、民法上の不法行為を問われる可能性もあります。なお、これは本当に見知らぬ人はもちろんのこと、親しい相手(恋人とか会社の同僚)でも該当する場合があるので注意。恋人でもあなたの同意なく勝手に位置情報を利用することは原則として認められません。

もちろん、これは企業の場合も同様です。個人情報保護法などにより、事業者も位置情報を利用には本人の同意が必要です。このため、あるサービス(例えば、今いる場所の周辺グルメ情報)を受けるためには、「説明書」を読んだ上で、あなたは同意をしているはずです(ただ、ネット上でワンクリックだったりするので、みんなが仕組みを理解して「同意」しているのかは、ビミョウですが…)

また、そもそもこうした位置情報を提供する事業者が適正に情報を管理しているかを監督することの困難などもあり、このあたりは今後の法整備上の課題といえるでしょう。

さらに「誰か」が行政機関や警察の場合も考えてみましょう。行政機関は、あなたをはじめとする市民の位置情報を把握していた方が、公益の観点から望ましい場合があるかもしれません。実際、位置情報はパンデミックの際の感染経路把握などに役立つといわれています。しかしこの場合も、そのような権限を行政機関に認める法律が必要ですし、その法律には情報の目的外使用の禁止などの取り扱い上のルールを明記しておく必要があります。この法律上の根拠は、とくに犯罪捜査のような場合には、絶対に必要と考えるべきです。その法律では、位置情報利用の際には裁判所の許可(令状)を条件とすべきです。位置情報がいくら被疑者などの追跡に便利だからといっても、法律に基づいて行政を行う「法治国家」の下に私たちが暮らしている以上、ここは譲れない一線です(現場では、かなり曖昧な運用になっているようですが、それは望ましい姿ではありません)。さらにいえば、法律の定めがあれば何でもよいというわけではなく、その法律の内容は、最初に説明した「あなたの位置情報は、あなた自身のもの」という情報自己決定権の精神を踏まえていなければなりません。情報自己決定権は最高法規である憲法の定める基本的人権の一つといえますから、それを侵害するような法律は国会で定めたとしても、憲法違反として裁判所で無効と判断される可能性もあります。

・・・さて、ここまでの説明ですでに頭がこんがらがってしまったかもしれませんね。「わたしの位置を誰かが把握している」といっても、それが「誰」なのか、あなたの「同意」があるのかないのか・・・場面によって違ってきたりするわけです。憲法、行政法、民法、刑事法・・・さまざまな法領域の観点から多角的に考える必要があります。

「プライバシー権」という言葉にしても、それがどのような権利で、なぜそのような権利が必要かという話は、法哲学などの学問領域では長らく議論されてきました。現在の高度な情報社会の中で「あなたの位置情報は、あなた自身のもの」なんて考えは幻想にすぎないという見方もあるようです。だいたいAIやらアバターやらクローンやら登場してくると、「あなた」という人格が本当に「あなた」なのかすら曖昧になっているし・・・という風に問題は、もはや法律学を越えて、社会学や倫理学にまで及んでいきそうです(「法哲学」「法社会学」「政治学」というかたちでこうした問題も法学部では学びます)が、こうした(簡単に「解」が見つからないという意味で)「難しい問い」について、講義を聴きながら、あるいはゼミで仲間と議論しながら、自分なりの「解」を探していくことこそ、法学部で学ぶ「醍醐味(だいごみ)」といえるでしょう。