QUESTION 食べ物も「知的」財産?

KEYWORD #知的財産法

皆さんが毎日口にしている食べ物と法律がどのように関係するか、考えたことはありますか?その答えの一つは、「知的財産法」にあります。

スーパーで見かける切り餅。よく観察すると側面周辺に切り込みがされているのですが、プクッと美味しくなるようにお餅を膨らませるこの技術は発明と認定され特許庁によって特許権を付与されました。ところが切り込み方が違う別会社の切り餅をめぐって訴訟となり、8億円程の損害賠償が命じられる大騒動となりました。発明というとエジソンなどの難しい技術を思い浮かべるかもしれませんが、最近も高校生が学習に役立つ斬新な付箋で特許権を取得し商品化したことが話題になりました。日常に溢れている製品がごく簡単な発想によって法律により保護されていることに驚きませんか?

お次は、みんな大好きラーメン。これも知的財産なのです。法改正によって2015年4月から色のみを商標として保護することが可能になり、パッケージのセピア色・オレンジ色・白色の組み合わせが登録されました。さて、どのラーメンか分かりましたか?執筆時点で560件を超える申請があったにも関わらず、チキンラーメンはわずか9件目の登録事例です。なぜでしょうか?知的財産は独占的な権利を与えることから自由な利用ができなくなるため、慎重な判断が求められるからです。立命館は赤味がかったワイン色を校色としていますが、世界中で誰もこの色を使えなくなると困りますね。ですから、単色で商標権を獲得するのは難しいとされています。

まだまだ食べ物に関連した知的財産があります。ヤクルトの容器は独特な形をしていますが、このデザインは昭和50年に意匠登録されました(意匠登録番号409380)。知的財産権にはそれぞれ一定の保護期間があるため、現在では消滅していますが、今は立体商標として商標法で保護されています(商標登録番号5384525)。一つの製品が複数の知的財産となりうる一例です。一度は特許庁に拒絶されましたが、不服審判という手続きを経て「自他商品識別力を獲得している」と判断され、登録が認められました。要は、その形だけでヤクルトだと分かると評価されたという意味です。商標権の存続期間は登録日から10年ですが、永続的に更新が可能なので他者があの形をした乳製品や飲料を売り出すことはできません。同じ形なのに、法律によって保護期間が異なることは不思議に思いませんか?

最後にスイカについて触れておきましょう。料理雑誌に丸いスイカや八つ切りに薄く切られたスイカを並べた写真が掲載されたところ、よく似た写真を掲載したカタログが数年後に発表されました。二つの写真は全く同じではありませんが、似ているところがたくさんあります。1990年代の事案ですから、まだスマホなどはなく、フィルムが入った機械で撮影したものを現像する時代で、いい写真を撮るにはそれなりのテクニックが必要でした。これが、いわゆる「パクリ」かどうかについて、二つの裁判所は真逆の判断を下しました。東京地方裁判所は写真をどのように写したかに着目し非侵害としましたが、東京高等裁判所は何を写したかまでを考慮したため侵害であると判断しました。著作権侵害が成立するためには二つの写真が類似していることが必要なのですが、何がどう似ていると著作権侵害になるのかについては未だに明瞭な答えはありません。SNS上にはスイカの写真などは山ほど見つけられますね。では、私たちは著作権侵害にならないようにビクビクしながら写真を投稿しないといけないのでしょうか?

以上のように、食べ物にも様々な法律が関係していて多岐にわたる考え方があります。でも、なぜ食べ物が「知的」財産なのでしょうか。財産というと、金銭や車のように形があるものを思い浮かべることでしょう。知的財産は無形だけれども価値がある情報全般を指し、お餅の切り込み・パッケージの色・容器の形・写真など、多種多様なものが含まれます。ところが、知的財産法にはどのようなものに権利を与えるかについて、また、どのような場合にパクリとなるのかについては具体的な説明されていませんから、出願手続や裁判などを通じて条文を解釈しルールが定められていきます。このように、法律や先例を紐解いて社会があるべき姿を模索するのが法学という学問です。

ここまで読んで、「なーんだ、法律って難しそうなイメージがあったけど面白そう!」と思ったあなた。法学部で学んでみませんか?

[出典]
知的財産法に関するニュースは、毎日のように新聞に掲載されます。この記事に関連するものとして、下記を読んでみてください。

  • 「「色」のみ商標、出願3倍」(日経新聞夕刊2022年5月2日1ページ)
  • 「神戸の高校生が特許」(読売新聞大阪朝刊2022年5月30日24ページ)