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メッセージ

高橋慶治教授

石崎 祥之 教授

専門分野:国際観光マーケティング

コロナ禍とIR誘致。時代の要請で注目が集まる観光経営学

観光学は非常に新しい学問です。特にここ二十年ほどで大学では観光学部が多く新設されるなど、関心は高まっています。一方で、観光学部を卒業した学生が観光分野に就職しないケースも多く、人手不足の一方で就業者不足というミスマッチが生じています。その理由の一つが、経営学を基礎とした教育に対する産業界からの要望に大学側が応えきれていないという問題があります。大手旅行会社では資本金や人員の削減、実店舗の閉鎖などが相次ぎました。ところが、今はアフターコロナの時代を迎え、再び観光客が戻ってくると今度はオーバーツーリズムと人手不足という二重苦に苦しむ状況に陥っています。山積する課題に対処を迫られている観光産業の視点に立つと、観光経営に通じた人材、寂れてしまった観光地を復活させる観光マーケティングやマネジメントの知識を持った人材の養成が急務となっています。観光を取り巻く諸課題の解決を図ってゆく上での一番入門的なステップとして、今回のMBAエッセンシャルズを位置づけています。

さらに、大阪では2025年に万博の開催が予定されており、開催地の夢洲には、万博後にIR施設が建設される想定です。他国の事例を見ると、IR施設の新設で約一万人の雇用が想定され、そのうち約3割はマネジメントクラスとして雇用されると予想されています。その資格要件は、複数言語に通じていることに加え、MBAのようなマネジメントに関する知識を持った人材であることです。現在の日本ではMBAはメジャーでないので、そのような人材は多くありません。しかし、近い将来にこうしたIR施設が完成することを想定すると、観光経営に通暁した人材の育成は急務であると考えられます。関西でのそうした時事的な背景を考えても、観光経営学というのは、今後さらに注目され社会から強く必要とされる学問分野であると言えるでしょう。

科学的な根拠に基づく経営方針の浸透が観光業界を救う

観光産業は日本各地に存在する産業分野なので、地域間で経営者の持っている情報に差が出やすいことが課題です。地方の温泉地などでは、「勘と度胸とどんぶり勘定」というバブル崩壊まで全国的にも主流だった経営手法がいまだ根強いこともあります。経営が厳しくなってしまった名旅館にテコ入れをして再生していく企業には星野リゾートなどがありますが、その再生手法の多くは大学院で学べる内容です。また、厳しい環境の下でも好調な業績を上げている地方中小旅館の若手経営者の中には、観光マーケティング、観光マネジメントに関心を持つ方が増えていると感じています。今回のMBAエッセンシャルズはオンライン開催なので、地方の経営者など、知識を得たくてもなかなかその機会に恵まれない方にも受講していただきたいと考えています。マーケティングやマネジメントを徹底すれば経営改善に役立つ場合が多いので、数字をもとにした科学的な根拠を持った経営を浸透させていくことが、観光産業では重要だと思っています。そしてその第一歩が、まさに今回のMBAエッセンシャルズなのです。

前述のように観光学は比較的新しい学問です。それを歴史ある立命館大学の経営学研究と組み合わせて学ぶことができるという点は全国の観光学系の学部・大学院の例を見ても貴重であると言えます。立命館MBAの大きな特徴は、実務家の教員を講師に据えて、産学の共同という形で、実務のニーズに応えながら学ぶことができること。一方で学問的なバックグランドも確保されているので、学問を土台に実務に応用するスキルを学ぶこともできます。アフターコロナとIR誘致という時事的な背景で、深刻な人手不足が想定される中で、立命館のMBAでは中長期的な視点に立ち、経営的な素養を持ってマーケティングやマネジメントなど観光の戦略を立てることのできる人材の養成に取り組んでいます。

裾野が広いからこそ、他分野との融合でイノベーションが生まれる

観光経営学は裾野の広い学問です。例えば、一昨年、別のプログラムを開催した際には、中国からの受講生が多かったのですが、彼らの問題意識はファミリービジネスとしての観光経営でした。中国では観光産業は家族経営で成り立っている側面も強いので、事業承継に興味を示す受講生も多いというのが特徴でした。このように、受講される方がどのような立場にいて、どのような問題意識を持つかによって、まったく違った光景が展開されます。一口に観光産業と言っても、交通機関やホテル、旅行会社、テーマパークなどさまざまな関係企業があります。そして、それぞれの収益率に注目すると、テーマパークは収益率が20パーセントを超えるのに対し、旅行会社ではコロナ前ですら1%程度でしかないのです。従って、業種によってとるべき経営戦略はおのずと違ってくるのですが、さらに業種の枠を超えた発想を持ち込むことで、新たな可能性を見出すこともできるのです。

例えば、農業と観光産業との掛け合わせで思いがけないイノベーションが起きることもあります。農業はモノづくり産業なので観光とは関係がないと思われがちです。通常、農産物は卸屋で売って、そこから小売業界へという流通ルートですが、それを直接地元の旅館へ持ち込んで出すだけで、収益率が格段に上がります。これが一般化すると農業は従来では考えられないほどの高収益率産業になる可能性があり、その起爆剤となるのが観光なのです。

そして、この流通ルートをより効果的に活用していくためには、農業の関係者は観光がどのような仕組みになっているかを知る必要が出てきます。このように、さまざまな分野と観光のコラボレーションで、業界の常識をひっくり返すこともできます。今回のMBAエッセンシャルズの講座運営も、業界を問わず各々の関心に引き寄せながら、それぞれの持っているスキルの活かし方のヒントを与えるような形にできればと考えています。観光業界に従事している方で自身の会社や業界をなんとかしたいと考えている方や、別業界から観光というフィールドに関心を持っていて経営学的な視点を交えて学んでみたいと思っている方々に、広く受講していただきたい講座です。