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品川 啓介

「イノベーションを起こす力は、今からでも身につけることができます。」

MOT教員 品川 啓介 教授

テクノロジー・マネジメント研究科

品川 啓介しながわ けいすけ教授

総合電機メーカー、技術系商社に勤務し、その間に名古屋大学大学院工学研究科結晶材料専攻博士課程および立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科テクノロジー・マネジメント専攻博士課程を修了。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科教授を経て現職。

「MOTに興味を持たれた理由はなんでしょうか?」

イノベーションはどうしたら起きるのか。その問いの答えを探してMOTへ。

 最初に入社した電機メーカーで配属されたのが、LSIの製造法に関わる研究開発部門でした。量子レベルの化学反応を利用して作られるLSIは世代交代のペースが速く、新しい製法、つまり、その時々に適した科学反応を見つけ出すことが、競争力の鍵になります。配属先には、そのような科学的発見をもとに、思いもよらないブレークスルーを生み出す先輩研究者が多くおられました。幸い、先輩方の研究報告書は自由に閲覧できました。入社したての私はとにかく片端から目を通して、そこに発想の規則性がないものか探してみたりもしましたが、普遍的な方法など結局見当たらず、直接、先輩方に秘訣があるのか尋ねてみても、どなたも特には意識されていないようでした。研究開発部門といえども、仕事には結果が求められます。近道を選ぶなら、上司や先輩の敷いてくれたレールに乗ってまっしぐらに進めば良いのですが、それでは既存の延長線上の仕事をこなすだけになってしまい、自身で「ブレークスルー」に出会うことができません。そのようなちょっとしたジレンマを感じつつ、それでも、毎日ブレークスルーを意識しながら経験を積んでいくと、自分の専門分野に、少し離れた分野の科学や技術を結合すると、小さなブレークスルーに出会うということに気づきました。その時は知らなかったのですが、MOT(Management of Technology:技術経営)で言う、イノベーションは既存知+既存知によって構成されるという例ですね。そんな日々を過ごしているうちに、仲間内で話題になっていたのが、欧米で進んでいるMOTという学術研究のことでした。この学術分野で生まれた概念を利用して、イノベーションで欧米は日本をリードしているのではないか、と。私の問いに対する答えも、その中にあるのではと思うようになりました。それがMOTに関心を持ったきっかけです。

 MOTでは、外部で起きたイノベーションへの対処も考えますが、世の中にインパクトを与えるようなイノベーションを起こして企業経営を有利に運ぶための考え方も学びます。私はそこから一歩踏み込み、ブレークスルーが多く生み出される自然科学の世界において、イノベーションにつながるブレークスルーがどのような過程で生じるのか、どのように産業に影響を与えるのかということが知りたくて、MOTの研究をしたいと考えました。

「研究内容について教えてください。」

ブレークスルーが生まれる過程の解明と、それを誰もが起こせるようにすることを目指して。

 自然科学の世界でも産業に近いところでは、どのような過程を経てイノベーションにつながるブレークスルーが生じるのか、それを生み出す人はどのような考え方を持っているのか、そしてそのイノベーションを利用しようとする企業がどのような課題を抱えながら発展を模索するのか、ということを研究しています。具体的に言うと、太陽電池、LSI、AI、IoTのように、産業に近い科学分野が対象です。特に、青色LEDの研究開発におけるイノベーションの発生過程の研究では興味深い結果を得ています。ご存知のように青色LED研究開発では、3人の自然科学分野の日本人研究者がノーベル物理学賞を受賞しました。天野先生、赤崎先生、中村先生ですね。人類の消費する電力の約30~40%が照明に関わるもので、青色LEDを用いた照明は電力の消費量を最大で1/8にするわけですから、省エネに大きく貢献します。ところが、当時の研究者のだれもが「青色LEDなんか本当に実現するのか?」と思っていました。ですから、それを実現したことは傑出した成果です。

 私の研究では、青色LED開発に貢献した3人の研究者のエポックとなる研究について、定量、定性の両側面から分析を行いました。その結果、天野氏、赤崎氏は「本格的な青色LEDの開発研究の扉を開く」、中村氏は「既存の知識に自身の知識を加えて再構築し、実用レベルで青色LEDの利用を可能にする理論を確立する(イノベーションの実現)」という役割を果たしていたことがわかりました。中村先生には直接お話を伺う機会をいただいたのですが、その中で特に興味深かったことは、ブレークスルーの発想過程に、欧米のビジネススクールで考案された新しいビジネスモデルの発想法と共通する点がいくつも含まれていたことです。これは、Amazon、Googleなどに続こうということで盛んに行われているトレーニングで、一定の成果を出している方法です。共通点は、観察による課題抽出、リフレームによる解決法の策定、理念をベースにした飛躍による困難の突破、といったステップを踏んでいたことで、中村先生はそのような方法を学ぶことなく、持ち前の好奇心と粘り強さでこなされていました。この発見から、適切な発想法を確立しトレーニングすることで、ブレークスルーを生む人材育成ができるのではと思うようになりました。ブレークスルーを生む力はあとから身に着けることができるということです。これまでは「ブレークスルーを生むことができるのは、先天的に素質のある人だ」と考えられがちでしたが、そうでありません。発想法の確立は先ですが、わかったことから授業に取り入れるようにしていて、少しずつですが成果が出始めています。

「MOTで学んだ人にはどういう人になって欲しいと思いますか。」

学んだことに自信をもって、それぞれの分野で積極的にイノベーションに関われる人に。

 MOT研究科で学ぶ皆さんには、将来、イノベーションを起こして企業経営を有利に運ぶための考え方をもった人として、イノベーションの創出や利用に関わるチャンスがあれば真っ先に手を挙げ、参画する人になって欲しいと思っています。そして、そのようなときに「ブレークスルーを生む力は先天的なものではない」ということも思い出してもらえればと思います。一般的に、イノベーションは偶然に左右されるものと思われていますから、関わることに躊躇しがちです。これに対しMOT研究科の授業では、イノベーションを起こし企業経営を有利に運ぶための考え方を数多く学びます。そのため演習・修士論文執筆では、これまで経験したことのない困難な課題を抱えることになるのですが、心配しなくて大丈夫です。幸い、MOT研究科の教員はイノベーションが頻繁におきる組織で実務経験をした人ばかりですから、その根幹を知り尽くしています。組織でそれに取り組んできた経験から、成功は一人で勝ち取ることのできるものではなく、それに関わる人々の支えがなければ難しいことも良くわかっています。力を惜しむことなく、皆さんの成長の支えになってくれるはずです。

 最後に、「日本企業は、改善は得意だけれどイノベーションが弱い」と考える人が多いのですが、私はそうは思っていません。これまで日本企業が創出したイノベーションには、先にふれた青色LEDを始め、新幹線、ウォークマン、デジタルカメラ、フラッシュメモリー、大型コンピューターに関わる諸技術、そしてイノベーションの種に話を広げると、iPS細胞、垂直記録式磁気媒体、と枚挙にいとまがありません。立命館大学MOT研究科での授業、演習、研究を通し、皆さんそれぞれの分野で継続的にイノベーションを生み出す仕組みを考えることができるようになれば「改善は得意だけれどイノベーションが弱い」といった懸念も払拭されるのはないかと期待しています。