
vol.19&20
システムデザイン×調理科学 ~味噌汁の設計からサステナブルなシステムデザインを考える~
ものづくりに限らずあらゆる分野で、目の前のユーザーだけではなく多様な社会のニーズを満たすことが求められるようになってきている。サステナビリティ(持続可能性)はとくに重要なキーワードだ。新しい価値を世に問うとき、環境性や経済性といったときに相反する要素間のバランスをどのように取ればいいのだろうか。多様なニーズを満たすためのシステムデザインのあり方を、一杯の味噌汁の設計から考えてみよう。
立命館大学と株式会社アイシンは、「人とモビリティの未来を拓く」というテーマを掲げて共同研究に取り組んでいる。その一環として、心理学から航空宇宙工学の専門家まで、多様なバックグラウンドを有する立命館大学デザイン科学研究所の研究者が、同社社員の皆さんにデザインサイエンスに関する考え方やノウハウを共有するのが「デザインサイエンスワークショップ」である。
今回は、立命館大学 客員教授で早稲田大学 創造理工学部経営システム工学科 教授の野中朋美、武庫川女子大学 食物栄養科学部食創造科学科 講師の本田智巳が登壇。調理科学とシステムデザインをかけ合わせたオンライン講義と、実際に味噌汁を設計するワークショップの2回にわけて実施した。

講師プロフィール
野中朋美立命館大学 客員教授、早稲田大学 創造理工学部経営システム工学科 教授
専門は経営システム工学、サービス工学。博士(システムエンジニアリング学)。慶應義塾大学卒業、企業勤務の後、慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 修士課程・博士後期課程を修了。立命館大学 食マネジメント学部 准教授・立命館EDGE+R 副総括責任者などを経て、2023年4月より早稲田大学 創造理工学部経営システム工学科 教授。持続可能なビジネス・社会システムデザイン、働きがいや満足などの人の情報を起点としたサービス生産システム設計、一般民間人の健康・快適生活を実現する宇宙QOL研究、ECLSS(環境制御・生命維持)研究などに従事。文部科学省国立研究開発法人審議会臨時委員(宇宙航空研究開発機構部会)、内閣府クールジャパン・アカデミアフォーラム構成員、尾道市ウェルビーイング政策アドバイザー、IFIP WG5.7 member、日本経営工学会理事、日本創造学会理事などを務める。

講師プロフィール
本田智巳武庫川女子大学 食物栄養科学部食創造科学科 講師
専門は調理学、フードリテラシー教育。修士(環境共生学)。熊本県立大学大学院院 環境共生学研究科博士前期課程を修了後、管理栄養士として食品メーカーでの商品開発、給食委託会社での給食の運営に従事。その後、尚絅大学 生活科学部 助手、立命館大学 食マネジメント学部 助教を経て、2022年4月より現職。フードリテラシー育成のための調理教育プログラムの開発などをテーマに、食の営みを環境や社会との関わりから捉え、他領域の専門家や企業、自治体と連携した研究に従事している。
栄養や味だけではない、料理の「設計」とは?
今回のワークショップでは、身近な「食」を題材にして、多様なニーズを満たすためのシステムの設計方法――システムデザインについて考えていく。食事は栄養面だけでなく、精神面、文化面でも私たちに欠かせない大切な営みだ。レシピ通りに料理を作るところから一歩踏み込んで、場面ごとの目的を果たし、多様な社会の要求にも応えられる料理を自分で設計するためには、どんな視点を持てばいいのだろうか。ワークショップのゴールは、システムデザインの手法を用いて「味噌汁の設計」に挑戦することだが、その前に、調理科学とシステムデザインの基礎についてオンラインレクチャーで学んでおこう。
レクチャーの前半は、調理科学を専門とする本田が担当。「料理を設計する」とはどういうことなのだろうか。
「人間は何のために食事をするのでしょうか」と本田は問いかける。生命維持や空腹感の充足はもちろんだが、生活リズムの調整、コミュニケーションの促進、料理を通した文化の継承・創造、といったこともその目的に含まれる。さらに、料理の設計という観点では、安全確保を前提として、栄養性、嗜好性、経済性、持続可能性など、食を取り巻く生活全体を考えなくてはならないという。
これらの要素はさらに細かく分解することができる。たとえば嗜好性を取り出してみよう。料理を美味しく感じるかどうかは、料理の味そのものだけでなく、見た目や食感といった五感に訴える要素、それに食べる人の体調などによって変わってくる。精神的な満足感を得るという意味では、その人の知識や文化的背景も関わるだろう。
そうした前提に立って、味噌汁という料理を構造で捉えてみよう。
調理科学では、料理の構成要素はまず「食材」「調理操作」「手順」の3つに分けることができるそうだ。さらに、味噌汁に使われる食材は、味噌、だし(素材、水)、具材(汁の実、吸い口)に分解できる。こうして要素を洗い出すことで、どんな目的のために、どんな機能をもつ食材を選ぶべきかを検討しやすくなる。
 
                たとえば、「美味しく、効率的に栄養を摂取すること」を目的にした場合、ほうれん草の味噌汁は最適と言えるだろうか。ほうれん草はビタミンA、ビタミンC、カリウム、鉄など豊富な栄養を含むことで知られるが、「最適かどうかは時期によって変わります」と本田。旬のものを選べば味も栄養価もバッチリだ。逆に、旬を外したものだと、味や栄養価は落ちてしまう。それだけではなく、旬の食材を選ぶということはサステナビリティの観点でも重要だ。一般に、旬の時期以外の野菜の生産には、旬のものと比べて数倍から10倍近くのエネルギーがかかってしまうという。ハウス栽培を想像すればわかりやすいだろう。
調理操作・手順においても同様で、美味しさを引き出したり、栄養を摂取しやすくしたりするだけでなく、ガスや電気、水といった資源を無駄にしないことが求められる。主要な目的を満たしつつ、そのほか多様なニーズにも対応した料理を設計するためには、食に関する幅広い知識が必要となる。
サステナビリティを実現するためのシステムデザイン
構成要素を分解し、さまざまなニーズ間のバランスを取りながら最適解やより良い解を追究する。この考え方は、料理の設計に限った話ではない。レクチャーの後半は、複数のニーズから成り立つサステナビリティと、それを実現するためのシステムデザインについて、野中が解説した。
国連環境と開発に関する委員会が1987年にまとめた報告書によると、サステナブルな開発とは、「将来世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発」を指すという。
「サステナビリティというと環境への配慮が強調されがちですが、実際には『環境性』、『経済性』、『社会性』の3本柱をバランス良く達成することが重要だとされています。ここで注意しなければならないのは、どの視点に立つかでトレードオフが生じる可能性がある点です」
 
                たとえば、環境に優しい技術であっても、経済性の視点に立つと、コストが掛かりすぎてサステナブルとは言えない場合がある。また、ある場所でサステナブルが達成されても、別の場所にしわ寄せが行っては意味がない。短期的に良い結果が出ても、中・長期的に問題がないかどうかも検証されなくてはならない。空間軸、時間軸でのトレードオフを考慮することも重要だ。
この問題について、野中はEV(電気自動車)やHEV(ハイブリッド自動車)を例に上げる。EV・HEVは環境に配慮した次世代の自動車として開発が推奨されてきた経緯があるが、全てのニーズを満たす完全なソリューションと言えるかというと、実際は必ずしもそうとは言い切れない側面も存在するという。従来の自動車とHEVについて、素材から製造、使用、廃棄までのライフサイクル全体での平均的なCO2排出量を比較すると、使用段階の排出量でHEVは従来の自動車を下回っている。一方、素材~製造段階では、HEVのほうがやや多く、全体としてはHEVのほうが環境負荷が小さいように見える。しかしこれはあくまで当時の日本の平均的なドライバーを想定したシナリオで評価した場合で、たとえば使用頻度が少ない、航続距離が短いユーザーの場合、トータルで見れば従来の内燃機関の自動車のほうが環境負荷が少なくなるケースもありうる。自動車以外でも、一般的に環境配慮型の製品は、使用段階での環境負荷は低い傾向がある一方で、それを実現するために特別な素材や製造方法をとるため、生産フェーズでの環境負荷が高い場合が多い。「どんな資源からどう作り、どう乗るのか、ライフサイクル全体を考慮する必要があります」と野中。
そんなサステナビリティを実現するうえで有効なのが、システムデザインだ。
システムデザインとは、システム思考とデザイン思考、システムズエンジニアリングをかけ合わせた概念。ここでいうシステムとは、「複数の構成要素から成り立ち、全体としてまとまった機能を発揮することで特定の目的を達成するもの」。システムデザインでは、対象を複数の視点で捉えて要素分解し、多数の図を用いて可視化・構造化する。たとえば、食をひとつのシステムとして捉えた場合、食材の生産から製造・販売・消費までの流れは時系列順に並んだライフサイクルのプロセス図に表すことができる。サプライチェーンは多数の場所を線で繋いだ空間俯瞰でのネットワーク図に表せるだろう。このように、要素を階層構造で捉え、俯瞰的に多視点で検討しながら、目的やニーズを達成するためのシステムをデザインしていくのだ。
 
                FAO(国連食糧農業機関)によると、世界の人口増加に伴い、2050年までに食料の生産量を60%増やす必要があるという試算もある。食システムをあらゆる視点で捉え直し、再構築することは喫緊の課題だ。フードロス対策にはサプライチェーンのデザインが不可欠だし、培養肉や分子調理法といった先端技術は食材・食品そのものを分解して構造からデザインし直すものといえる。そうした先端技術によって新たな食のしくみを探究するFX(フード・トランスフォーメーション)という研究も進めているという。
それでは、味噌汁という馴染み深い題材の場合、どんな食のデザインが可能なのだろうか。
誰かのニーズを想像し、一杯の味噌汁をデザインする
さあ、いよいよ実際に料理のデザインに挑戦する。アイシン本社で開催されたワークショップの会場には、いろいろな種類の味噌、だし、具材がズラリ。
「事前のレクチャーでは、サステナビリティに配慮したシステムデザインには多視点からのアプローチが必要であること、トレードオフの解決が必要であることをご説明しました。今日はこれをわかりやすく実感していただくために、グループに分かれて味噌玉をつくっていただきます。ぜひ楽しみながら、サステナブルなデザインを体験していただければと思います」
 
                味噌玉とは、味噌に具材などを混ぜ込んでボール状に丸めたもの。お湯を注ぐことで、手軽にお椀1杯分の味噌汁ができる。今回は、以下の3段階の工程に沿って、材料の味見や試作を交えながら味噌玉をつくっていく。
- 要求定義…どんな味噌玉をつくりたいか?
- 機能設計…目的のためにどんな機能が必要か?
- 物理設計…どんな材料や工程でそれを実現するか?
まずは要求定義だ。どんな人に向けて、どんな場面で味噌汁を提供し、どんな気持ち・状態になってほしいかをグループ内で考えてみる。満ち足りた気持ちになる「リッチな味噌ボール」はどうかというところから話が膨らみ、デザインサイエンスワークショップでアイシンの事務局としていつも奔走してくださっている酒井さんを労う味噌汁にしよう、ということで話がまとまった。一日の仕事を終えた後に、酒井さんにリッチな気持ちになってほしい。お店でワイングラスに入れて出されてもおかしくないような、味はもちろん見た目にもこだわった高級感あふれる一杯だ。
各グループでイメージが固まってきたところで、用意されている食材について本田が解説する。
味噌といえば主原料は大豆だが、加える麹の種類で米味噌、麦味噌、豆味噌に分けられる。赤味噌、白味噌、合わせ味噌といった仕上がりによって味や香りは全く違う。栄養機能としては、整腸作用や血圧上昇抑制作用が挙げられる。だしにはかつお、昆布、干し椎茸などがあって、旨味と素材独特の香りで味噌汁に深みを与えてくれる。今回は味噌玉ということで、お手軽な顆粒だしを使う。メインの具材となる「汁の実」には定番の野菜や豆腐、香りや彩りを添える「吸い口」には、ねぎや梅干しなど、それぞれ乾燥させた製品が用意されている。
味噌玉の場合、調理操作はほとんどないが、味噌と具材の分量や、具材を味噌に混ぜ込むか、包むか、まぶすかといったプロセスの違いでも栄養性や嗜好性が変わってくるそうだ。
実際に材料にお湯を加えて味見をしながら、リッチな味噌汁をどのように形にするかを考えていく。
機能と構成要素を対応づける「アーキテクティング」を体験
次に行うのは機能設計だ。要求定義で決めた要求仕様を実現するための機能を洗い出す。このとき、必要な機能をなるべく細かく分解して、樹形図のように下位機能の集合として表すことがポイントだ。
 
                「飲んだ人をリッチな気持ちにする」要求をより詳細に分解して定義しながら、その要求を実現するための機能を考え、さらに機能を細かく分解してみる。
              今回の味噌玉でとくに実現したいのは、飲んだ人(酒井さん)の感情を動かすことだ。その感情とはなにか。ただの食事ではなくご褒美のように感じられる(高級感)、仕事や生活をひととき忘れさせてくれる(開放感)、ホッと落ち着いた気持ちにさせてくれる……と整理すると、少し具体的になってきた。
いよいよ物理設計に入っていく。味噌玉を多層的なシステムと捉え、その構成要素と機能とを対応させる。この作業をシステムエンジニアリングではアーキテクティングと呼ぶそうだ。ここで、多視点からのアプローチを思い出してみよう。今回は「食」が題材なので、「栄養性」「嗜好性や食文化」「プロセス」「材料」という4つの視点で、上に挙げた機能をどう実現できるかを考える。
たとえば、「落ち着いた気持ちになる」という機能を栄養面で実現するなら、イライラをおさえるカルシウムが当てはまるだろう。カルシウムを豊富に含む干しエビやいりこだしに、ゆずの爽やかな香りも足しておきたい。「高級感」は嗜好性に訴えることで実現できそうだ。白だしやすっきりとした色味の食材を使って透明感を演出しようということになった。「開放感」は、今回、味噌玉だけで表現するのは難しいが、プロセスの視点で提供時にワイングラスを使うということを想定して、それに見合った味噌玉をつくることになった。味噌玉そのものだけでなく、それを取り巻くシチュエーションもシステムの重要な構成要素だ。
制限時間を気にしつつ、物理設計と機能設計、そして試作を行き来して、設計と実装を試行錯誤し検証しながら形にしていく。完成したリッチな味噌玉はこちら。白味噌をベースにかつおだしといりこだしを合わせ、汁の実には風味豊かな干しエビ、食感にアクセントを与えるキャベツを、吸い口として柚子と金箔に見立てた鶏削り節を添えた。
 
                食事を囲むという楽しさを通じて、サステナビリティを考える
最後は各グループの発表と、完成した味噌汁の試食の時間だ。金曜日に自宅でゆっくり、子どもといっしょに公園で、上司とお花見で……どのグループ、対象やシチュエーションを具体的に設定したうえで設計していて、見た目にも個性豊かな味噌玉が並んだ。
味噌玉をお湯でといた「リッチな味噌汁」は、シンプルな見た目ながらしっかり旨味を感じられる上品な味に仕上がっていて、まさにめざしていたイメージどおりだ。酒井さんの反応も上々だった。味見させていただいた他のグループの味噌汁もそれぞれ全く印象が違って、味噌汁というシステムの奥深さを感じた。
本田と野中はそれぞれ次のように今回のワークショップを総括した。
「今日は短時間のワークショップだったにも関わらず、それぞれのグループのユニークな要求定義が反映されたすばらしい味噌玉が完成しました。ワクワク楽しんで取り組んでいただいたのが伝わってきたので、嬉しかったです。これを機会に、ご自宅でも味噌玉やそれ以外の料理の設計に挑戦してみてください(本田)」
「今回は、身近な食を事例に、いろいろな視点を取り入れて機能設計と物理設計を対応付けること、システムデザインのアーキテクティングプロセス(機能と実現手段としての要素を対応づける設計手法)に主眼を置いてワークに取り組んでいただきました。どのように対象を構造化・可視化するかには、さまざまな手法があるので、興味を持たれたらぜひ調べてみてください。
もうひとつ、サステナビリティはさまざまな分野を統合して達成されなければならない指針です。専門性の異なる人々が協働してひとつのシステムを設計するとき、多視点から見るのと同時に、『何が大事なのか』というひとつの視点を共有しながら進めることも大切です。食だけでなく、皆さんの専門分野にも役立てていただければと思います(野中)」
 
                conclusion
ワークショップを終えて
参加者の声

新事業創出部
家田清一さん
業務のひとつでスマートファクトリーというテーマに取り組んでおり、今回のワークショップで扱う「食」もサプライチェーンの最適化という点で共通項が見出せそうだと思って参加しました。ワークはとてもわかりやすかったですね。機能を細分化して物理に当てはめるということが、何にでも応用できるということを改めて体験できました。味噌汁という題材だったからこそ、短時間でもグループでまとまって形にすることができたと思います。システムとして構造化して捉えるということを、いろいろなものに当てはめて考えてみたいです。

EV第2生産技術開発部
木村英明さん
味噌汁がテーマということで興味がそそられて参加しました。新たなものを開発する際に機能を再分解して因果関係を明確にするだけでなく、抽象と現実とを行き来したり、多視点で見たりするところに学びがあったように思います。機能を果たすために、多様な視点から何を持ってくるかでアイデアをさらに豊かにできるのだと腑に落ちて、ものづくりの創造性について考えることができました。自動車の開発と関連の深いサステナビリティというキーワードも、燃費や性能面にとどまらず、材料や利用される場面を含め地球規模の広い視点で捉え直したいなと再認識しました。
講師の声

立命館大学 客員教授、早稲田大学 創造理工学部経営システム工学科 教授
野中朋美
今回は調理科学とシステムデザインをかけ合わせて、サステナビリティの多様な視点からものごとを設計することを体験していただきました。複雑なトレードオフが発生するサステナビリティの課題を短時間のグループワークで考えるのはなかなか簡単ではないのですが、誰にとっても身近な食というテーマだからこそ、楽しんで取り組んでいただけたのではないでしょうか。
                  食というテーマを掘り下げると、個人の好き嫌いはもちろん、信仰や文化的背景といった単純にはデザインに反映することが難しい要素も関わってきます。一方で、そうした違いを素直に認め合いながら、みんなで試行錯誤できるのは、このテーマの良いところでもあると思います。「グループで一杯の味噌汁を作る」というワークは、多様な人々が関わりながらサステナビリティや社会課題をどう達成するかということにもつながってきます。
                  システムデザインの観点では、「ある機能を実現しようと思ったときに、その手段は一つではない」ということをお伝えできていれば嬉しいです。新しい手法や材料を開発するという解決策もありますが、それだけではなく、別の角度から手段を検討してみることもできますし、機能と手段の組み合わせ(アーキテクチャ)を替えることで別の目的を達成できるかもしれません。多様な視点をもつことを大切にしてほしいですね。

武庫川女子大学 食物栄養科学部食創造科学科 講師
本田智巳
学校をはじめさまざまな場所で調理科学のワークショップをさせていただいていますが、今回はアイシンさんのホールで実施させていただくということで、特別な道具や設備を必要としない味噌玉を題材に選びました。実際に体験いただいたように、味噌、だし、具材といった構成要素やそれらの機能の組み合わせは奥が深く、目的に応じて試行錯誤することができます。今回も、みなさん試作と試食を繰り返して、とても熱心に取り組んでいただいていたのが印象的でした。
                  食に関する教育は一般的には高校までで終わってしまうので、社会人のみなさんに改めて食や栄養に関心を持っていただくという意味でも、今回は良い機会になったと思います。調理科学✕システムデザインの考え方を、普段の食生活にもぜひ取り入れていただければ嬉しいです。
                  また別の観点では、現在、外食や市販のお弁当など食の外部化が進んでいて、日頃口にしているものがどのようにできているのかが見えづらくなっています。目の前の料理だけでなく、食が供給される背景にも目を向けていただく機会になれば嬉しいです。

