2010年5月28日更新
京都の街並みが3Dで立体的に再現され、その視点も自由自在。「ウォークスルー」を選べば、あたかも自分が街中を歩いているように画像が動く。立命館大学のウェブサイトから入れる「バーチャル京都」では、街の景観に加えて、南座の内部まで見られる他、昭和初期、平安時代の街まで精密に再現されている。「グーグル・アースが登場した頃でしたが、複数の時間軸を持つデジタル地図をウェブで一般公開したのは世界で初めて」と矢野桂司は語る。
「2002年から開発に着手。セスナで航空機から細かくレーザー測量するなど膨大な仕事量でした。普通の都市なら過去は無理ですが、京都には町家など昔の貴重なものが沢山残っているので、現在をきちんと作れば昔に遡っていくことは可能。最も古い空中写真は昭和3年なので、それ以前は大正地籍図、さらに絵図や古地図も参照しました。中でも17世紀の洛中絵図は精度が高かったですね。でも、公開時ウェブではデータが重くなるので明治と江戸時代は残念ながら省略しました」
プロジェクトは06年に終了。現在ではさらにグレードアップが進展中だが、実はビジネスの世界まで大きく変えてしまう可能性を秘めた研究なのである。
「この映画ではアイロニー(皮肉)として扱われていましたが、街中を歩き、買い物しながらの環境でも情報を伝達出来る新たなユーザーインタフェースを作る試み。いわゆる『ユビキタス』ですが、僕は人間が能動的に楽しめる情報を分かちあうことが重要だと考えています」
「デジタル地図を活用した地理学、GIS(地理情報科学)と呼びますが、ナノテク(超微細加工技術)、バイオと並ぶ21世紀の先端分野といわれています。イラク戦争でピンポイント爆撃を可能にしたのも、GISの技術。住民の氏名や属性などと組み合わせたGISデータは既にマーケティングで活用されていますし、イギリスでは行政も犯罪予防や健康管理などに応用しています。つまり、2次元情報を3次元・4次元に可視化することで、見えなかったものが見えるようになり、既存の学問分野が劇的に変化するわけです。電子顕微鏡によって分子生物学が飛躍的に進歩したのと同じ。僕としては、皆が驚く地図づくりが楽しみなのですけどね」
AERA 2009年1月12日号掲載 (朝日新聞出版)このページに関するご意見・お問い合わせは 立命館大学広報課 Tel (075)813-8146 Fax (075) 813-8147 Mail koho-a@st.ritsumei.ac.jp