2010年5月28日更新
2008年2月10日夜、韓国の国宝第1号である南大門(崇礼門)が出火。わずか5時間で2階部分が完全に焼け落ちてしまった。「周囲は道路にもかかわらず、消防側は文化財を適切に消す方法が分からない。保存する側も焼けた時の対処法がなかった。こんな悲劇を絶対に繰り返してはいけないのです」
これはそれこそ対岸の火事ではない。わが国では近い将来の大規模地震が予測されており、国宝や重要文化財が集中する京都でも、その多くが震度6強以上になるという。すでに清水寺などで地域一体の防災体制が進められているが、これと並行して「歴史都市を守る文化遺産防災学」に取り組んでいるのが大窪健之だ。
「阪神・淡路大震災の現場で、この自然災害は人間の長い労苦を一瞬で壊滅させると痛感。だから、少しでも被害を少なくする『減災』の発想が大切。それなら明日から出来ること、地域あるいは一人でも出来ることがある。それを積み重ねることが、実は最も確実な防災なのです」
今の目標はアジアを中心とした各地でも応用出来る災害対策のパッケージ・プランの作成だ。様々な文化風土や状況に合わせて、最適な「減災」対策を選択出来るという壮大な試みだが、既にユネスコ認可で文化遺産防災の国際研修を実施しているという。
「阪神・淡路大震災の時には、消防車が到着しても水道が機能しなかった。その経験が教えたのは、地域に根ざした水路や井戸などの水源の重要性です。今では都市インフラの発達で衰退しましたが、災害対策の機能を付加すれば、かつての水と緑の環境も再生可能。そうした美しい街は防災的にも安全な街になるわけです」
では質問。文化遺産が燃えていたら、水をかけて消そうとしてもいいのだろうか。
「ためらって焼けたら絶対に再生出来ないので、最小限濡れて済むなら良しとすべき。適切な判断力も含めて、文化遺産の保存と防災に寄与する専門的な人材育成も私たちの課題なのです」
AERA 2008年12月29日・2009年1月5日合併号掲載(朝日新聞出版)このページに関するご意見・お問い合わせは 立命館大学広報課 Tel (075)813-8146 Fax (075) 813-8147 Mail koho-a@st.ritsumei.ac.jp