2010年5月28日更新

おもしろ不思議が脳に効く? 「錯視」

北岡 明佳
文学部・心理学専攻教授
1961年生まれ。教育学博士。1991年筑波大学大学院博士課程心理学研究科修了。1991年から2001年まで東京都神経科学総合研究所(現・東京都医学研究機構)でサルの大脳視覚皮質の電気生理学的研究に従事。2001年から立命館大学。「分からないことがあって、それが次第に解明されていくことが科学の醍醐味であり面白さ。錯視も同じです」
北岡明佳の錯視のページ

同じ長さの2本の直線なのに、その両端にある矢羽の向き(内向きと外向き)で長さが違って見える図形を見たことはないだろうか。これを「錯視」と呼ぶが、北岡明佳の図形はこんなレベルではない。ハートのマークがゆらゆら動いたり、同心円で何重にもなったシマヘビ模様が回転する。「これはどうですか?」と手渡されたのは、サクラの花弁を並べて2重のサークルにした図柄。見るとすぐに外側のサクラの列が左回転、内側が右回転を始めた。

「ごく少数ですが、錯視にならない人もいます。また、このサクラは中高年にウケても若い人には不評。地の薄緑色とサクラのピンクの輝度を同一にする必要があるので印刷が大変なんですが、動きが他の錯視に比べて遅いせいか、一生懸命作っても学生は見向きもしません(笑)」

こうした錯視の研究はおよそ150年ほど前から始まり「つい20年前はそろそろ終わりかなという分野でした」と言う。

「線画で全てを代表出来ると考えられていたんですね。ところがパソコンの普及で誰でも簡単にカラフルで複雑な図形を作れるようになって新しい錯視が次々に発見されてきました」

北岡たちは図形の作成だけでなく、これらを使って機能的MRI(脳の血流動態測定装置)で錯視を分析。「脳内のhMT+と呼ばれる部位が反応していることまでは解明出来、論文を書いたばかり。かなり画期的なことなんですけどね。hMT+を含む脳領域が機能しないと、遠くの車が突然目の前に現れて見えるなど、モノの動きがわからなくなります。このように、カタチの錯視はここ、色の場合はここだろうと脳の部位を順次つきとめている段階です」

見れば分かる面白くて不思議な現象だけに、何かの役に立ちそうに思えてしまうのだが。

「頭がよくなるとか、癒しの効果があるのではないかと言う人もいます。可能性は否定しませんが、私たちは科学的に検証されていないことを軽々に言うわけにはいかないのです」

AERA 2009年1月26日号掲載 (朝日新聞出版)
休日の過ごし方を
教えてください
休んでいるか、大学に来て研究しています。白川静先生はそのようにされていたと何かで知って以来.....(→続きを読む)
Q1

AERAでご紹介した研究を始められたきっかけは何ですか?

立命館に来る前に勤めていた神経科学の研究所でニホンザルを用いた視覚の神経生理学を研究していた時、将来サルに提示する刺激を開発することを目的として、錯視の研究を始めました。ですから、今は目的外使用といった感じです。

Q3

最近の気になるニュースは何ですか?

京都新聞(2009年3月7日(土))で自分と自分の研究が大きく紹介されたことです。一面にまで進出しており、家族・親戚の範囲内では「新聞の一面に載った男」として史上初の快挙となりました。

Q4

最近、何かオススメはありますか?

プロコフィエフの交響曲9つ全部とピアノ協奏曲5つ全部。ラマニノフのピアノ協奏曲4つ全部(パガニーニの主題による狂詩曲も含めようかな)。プロコフィエフの交響曲はコシュラー指揮の全集(チェコ・フィルハーモニー管弦楽団)がどの曲もすばらしいです。ラマニノフのピアノ協奏曲・第3番はホロヴィッツ盤がどれも断トツです。ラマニノフのピアノ協奏曲・第2番はアシュケナージ盤(プレヴィン指揮・ロンドン交響楽団)をお薦め致します。プロコフィエフを知らないという方は、ピーターと狼からどうぞ。

Q5

休日はどのように過ごされていますか?

休んでいるか、大学に来て研究しています。白川静先生はそのようにされていたと何かで知って以来、私は無趣味であることを隠していません。なお、クラシック音楽の趣味はありません。プロコフィエフとラフマニノフのファンというだけです。昨年秋、ゲルギエフ指揮のロンドン交響楽団が京都コンサートホールに来た時は、さすがに妻と聴きに行きましたが。

Q6

先生が未来に残したいものは何ですか?

視覚研究と心理学の進歩です。私が作り続けている錯視作品につきましては、私の死後50年か70年で著作権が切れ、人類の共有財産となります。その日が待ち遠しいと言って頂けるとうれしいです。誰か生き残ってその瞬間を目撃できるといいですね。


このページに関するご意見・お問い合わせは 立命館大学広報課 Tel (075)813-8146 Fax (075) 813-8147 Mail koho-a@st.ritsumei.ac.jp

ページの先頭へ