2010年5月28日更新
同じ長さの2本の直線なのに、その両端にある矢羽の向き(内向きと外向き)で長さが違って見える図形を見たことはないだろうか。これを「錯視」と呼ぶが、北岡明佳の図形はこんなレベルではない。ハートのマークがゆらゆら動いたり、同心円で何重にもなったシマヘビ模様が回転する。「これはどうですか?」と手渡されたのは、サクラの花弁を並べて2重のサークルにした図柄。見るとすぐに外側のサクラの列が左回転、内側が右回転を始めた。
「ごく少数ですが、錯視にならない人もいます。また、このサクラは中高年にウケても若い人には不評。地の薄緑色とサクラのピンクの輝度を同一にする必要があるので印刷が大変なんですが、動きが他の錯視に比べて遅いせいか、一生懸命作っても学生は見向きもしません(笑)」
こうした錯視の研究はおよそ150年ほど前から始まり「つい20年前はそろそろ終わりかなという分野でした」と言う。
「線画で全てを代表出来ると考えられていたんですね。ところがパソコンの普及で誰でも簡単にカラフルで複雑な図形を作れるようになって新しい錯視が次々に発見されてきました」
北岡たちは図形の作成だけでなく、これらを使って機能的MRI(脳の血流動態測定装置)で錯視を分析。「脳内のhMT+と呼ばれる部位が反応していることまでは解明出来、論文を書いたばかり。かなり画期的なことなんですけどね。hMT+を含む脳領域が機能しないと、遠くの車が突然目の前に現れて見えるなど、モノの動きがわからなくなります。このように、カタチの錯視はここ、色の場合はここだろうと脳の部位を順次つきとめている段階です」
見れば分かる面白くて不思議な現象だけに、何かの役に立ちそうに思えてしまうのだが。
「頭がよくなるとか、癒しの効果があるのではないかと言う人もいます。可能性は否定しませんが、私たちは科学的に検証されていないことを軽々に言うわけにはいかないのです」
AERA 2009年1月26日号掲載 (朝日新聞出版)このページに関するご意見・お問い合わせは 立命館大学広報課 Tel (075)813-8146 Fax (075) 813-8147 Mail koho-a@st.ritsumei.ac.jp