2013年1月21日更新

微生物の力で太陽電池の発電効率を高める。

三原 久明
立命館大学生命科学部准教授
三原 久明(立命館大学生命科学部准教授)
博士(農学)。1970年大阪府生まれ。1993年京都府立大学農学部農芸化学科卒業。1995年京都大学大学院農学研究科農芸化学専攻修士課程修了、1999年同大学大学院同研究科同専攻博士後期課程単位取得退学。京都大学で非常勤研究員、化学研究所助手、同助教を経て、2009年から立命館大学で現職。主な研究分野は、酵素、タンパク質、微量元素など。「大学4年の時に糖を分解する酵素の耐熱化に取り組んだおかげで、すっかり取りつかれました」という。余裕のある週末は「景色のいいところをドライブまたはサイクリング。その後で温泉を楽しむのも好きですが、酵素のたまものであるおいしいお酒と発酵食品があれば最高ですね。」とほほ笑む。
微生物エネルギー

味噌や酒などの発酵食品は、微生物の代謝(呼吸や消化など)で働く酵素の反応を利用したものだ。近年は化学や医療分野でも様々に応用されており、「ガン細胞の成長に不可欠なタンパク質の合成を阻害する酵素も発見されていますよ」と三原久明は語る。

ただし、この酵素を患部にピンポイントで到達させることが課題なのだが、それさえうまくいけばガンは成長できず、やがては死滅する。

「今、人類が培養できる微生物は全体の1%程度とされているので、そのほかにも人類に貢献できそうな未知の酵素は数知れないほどあるはず。いわば宝の山といっても過言ではないと思います」

中には体内にマグネットを持ち、コンパス(方位計)のように地磁気の向きに従う微生物がいるほか、ある微生物は鉄サビにへばりついて「酸素のかわりに鉄分を使って呼吸」する。そのために、これまで見たこともない特殊なタンパク質を合成するというのだ。

「酵素は物質に対して『精密な工具』のように働きます。化学合成による薬品製造ではごくまれに異性体ができることが問題になりますが、酵素を利用すると、そうしたエラーを防ぐことも可能です。この鉄の呼吸に関わる酵素も、まだ分析の途上なので今の段階では用途不明でも、それが必要な時がやってくるかもしれません」

話を聞くだけでも興味が尽きない分野だが、そんな三原がいま熱心に取り組んでいるのは、太陽光発電のソーラーパネルに利用可能な金属を含んだナノ(百万分の1ミリ)レベルの微細粒子を合成する微生物である。

「微生物の酵素が作り出した金属の微細粒子に、タンパク質が貼り付き、表面をコーティングするため、結合による粒子の成長を妨げることが分かってきました。金属がナノ化すると、光の吸収などの物性が大きく変わって、導電性が高まる可能性があります。太陽光による発電効率を飛躍的に向上できるので、太陽電池の開発を行う研究者と共同で分析を進めています」

日本の酵素学は歴史と伝統があり、研究レベルも高いが、「だからこそ新酵素の発見と利用法の最先端を開拓したい」と三原の挑戦は続く。

AERA 2013年1月21日発売号掲載 (朝日新聞出版)

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