2013年1月28日更新

国境を超えてベトナムの障がい児教育を支援

黒田 学
立命館大学産業社会学部准教授
黒田 学(立命館大学産業社会学部准教授)
修士(社会学)。1963年大阪府生まれ。1987年立命館大学産業社会学部産業社会学科卒業。1992年立命館大学大学院社会学研究科博士課程前期課程修了。1995年立命館大学大学院社会科学研究科博士課程後期課程単位取得退学。岐阜大学地域科学部や滋賀大学教育学部で講師や准教授を経て、2010年4月から現職。「大学院博士課程在学中に初めてベトナムに行った時には食あたりをしてしまいましたが、今ではベトナム料理が大好きになりました。特にベトナムのフォー・ガーは塩味がきいていて美味。生春巻きは家庭でも作るぐらい気に入ってます」
教育社会

2006年12月、ある駐車場にとめられた乗用車の中で、父親による2人の娘との無理心中が発見された。2人の少女はいずれも知的障がいがあり、養護学校に通学していたが、母親は3年ほど前に病死。心中の背景には子育てへの不安や経済的な悩みがあったという。

この悲惨な事件に先立つ1997年に、黒田学は滋賀県全域の養護学校に通学する約500人の障がい児の保護者にアンケート調査を行っていた。「子どもは放課後に育つといわれるように、子どもにとって遊びはとても大切なものです。しかし、子どもに知的障がいがあるとなかなか外に連れていくのも難しい。子どもの成長の機会が狭められると同時に、保護者にも大きな負担が伴うことが明らかになったのです」

後の無理心中事件をあたかも予告するような内容だったため、黒田は大きなショックを受け、翌2007年に再び滋賀県で調査を行った。

「放課後は母親とテレビを見て過ごすなど、前回調査から10年経過しているにもかかわらず、何も変わっていませんでした。子育て不安とイライラ感の両方を感じている人が2割もいる。児童福祉法の改正で『放課後等デイサービス』が誕生しましたが、実際にはそれを行う事業所が少ない。それだけでなく保護者が亡くなった後の生活など深刻な問題が依然として残されています」

大学の新卒ですら就職難という不況期だけに言葉を失ってしまうが、「だからこそ、こうした調査結果を行政に訴えて反映してもらうしかない。地道ではありますが、少しずつにしても改善されていますから」と決して諦めない。

そうした取組みは、国内だけに留まってはいない。ベトナムでは実態調査に加えて、障がい児教育のための教育養成支援プロジェクトに参加。後にハノイ師範大学が障害児教育学部を開設したほか、ホーチミン師範大学などにも設置されている。その成果が認められて、2009年にはベトナム政府から教育事業功労記念章が授与された。

「問題解決は簡単ではなく近道もありません。でも、誰かがやらないと社会は絶対に変わらない。そうした努力を日本、ベトナム、EU諸国など国際的な連携を通して展開していきたいと思っています」

AERA 2013年1月28日発売号掲載 (朝日新聞出版)

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